ドリーム小説
――・・・カチリ。
そう何かが嵌まる音がした。
突然時間が動き出し、急に五感が戻ってきたような感覚を感じた後、俺は自分が置かれている状況に目眩がした。
「何だこれぇ・・・っ」
一歩踏み出せば数十メートルのノーロープバンジが体験できる高層ビルの屋上に俺は立っていた。
風で煽られてふらつく身体にゾッとしながら慌てて後ろに下がる。
落ち着いてからもう一度眼下の景色を見渡すも全く見覚えのない景色だった。
どこだ、ここ?
分からんが、とにかく助けを呼ぼうと俺はケータイをポケットから探り当ててまたも目を見開いた。
うえー?!何かしらんが、文字化けしとるー!!
何だかどこかで見たような記号で埋め尽くされてるケータイに俺はガクリと肩を落とした。
俯いた先にくたびれた鞄を見付けて思い出した。
あの変な男のせいで俺は強制的に手伝いとやらをさせられることになったんだっけ?
何となく鞄の中を覗くとメモが一枚。
説明書だと期待を込めて目を通す。
『大事なことを忘れてた。探し方だが、・・・・・見たらすぐ分かるようにしといたぞ。あとは任せた』
はい。馬鹿神様決定ー!
マジ何の役にも立たねぇ!!もっとまともな説明出来ねぇのかよ!!
深く溜め息を吐いた瞬間、何故か背中に寒気が走った。
「」
誰もいなかったはずの背後から突然呼ばれて振り返ると、そこに黒髪の男前が立っていた。
うわー、爽やかすぎてうさんクセー。
白シャツとか、小脇に抱えた難しそうな本とか、大きな青いピアスとか、狙ってやってるに違いないぜ、コイツ。
・・・・・ん?あれ?コイツどっかでみたような。
「こんな所で奇遇だな。仕事か?」
「・・・いや。散歩、かな」
「へぇ」
何だかよく分からないが、好青年は俺を知ってるらしく気さくに話しかけてくる。
何ていうか記憶がない上に迷子という名の散歩道中だが、物は言い様である。
青年は一瞬何かを考えるように動きを止めたが、小さく口元で笑うと突然服を脱ぎ出した。
え、何?! コイツ酔っぱらってんじゃないの?!
上半身裸になったかと思えば持っていた本を開いてどこからともなく黒いコートが現れる。
こういう摩訶不思議現象には悲しいことに慣れっこなので驚きはしないが、ある疑念が浮かび心が苛まれた。
俺の困惑を余所に、青年はコートを何の戸惑いもなく羽織ると、髪を撫でつけるように後ろへ流す。
顔を上げた青年はもう人の良さそうな顔をしておらず、それどころかゾクリとするような冷えた笑みを浮かべていた。
・・・・・あぁ、最悪だ。何でこんなことに。
青年は煩わしそうに額に巻いていた包帯を引き千切って夜風に流すと、俺へと顔を向けた。
「アイツらも来たようだし、少し寄り道もいいんじゃないか、」
額に刻まれた十字を見て俺は悟った。
何かよく分からないけど、俺はまた世界を跨いだらしい。
それもうんと危険な世界へと。
「・・・クロロ=ルシルフル」
「怒るなよ。久々に会えたと別れがたいと思うのはいけないことか?」
「・・・クロロ」
呆然と奴の名を呟く俺に、なぜか嬉しそうに話すクロロ。
おい、神様、何してくれてんだよ、コノヤロー!!
よりによって、よりによって、ハンターの世界だとぉ?!
俺、死んじゃうよ?!
一歩で昇天しちゃうよ?!
むしろ一歩も歩けそうにない・・・!
寒々しいビルの上でガクブル震えてる俺の肩にクロロは手を置いて、にこやかに笑った。
「文句はあとで聞く」
次の瞬間、クロロは気でも狂ったのか、ビルからひょいっと飛び降りた。
俺の肩を掴んだままで・・・。
ぎゃあぁぁぁぁぁ!!
すごく遠い地面が物凄いスピードで近付いてくるのを肌で感じながら、俺は恭弥に謝った。
ゴメン、兄ちゃんは違う世界で死んだ。
今日は家に帰れそうにありませぇぇぇぇん!!
すると急にゾワッとした気配を感じて視線を向けると、隣りで楽しげに落下する真っ黒い男の足がおかしかった。
何かもやもやしたものに包まれてる。
あれって死ぬ気の炎?!
いや、似てるけど違うような。
・・・ええい!迷ってる暇はない!
ちょっと違うけど、似たようなものだから良いことにしよう!
俺はその時、多分テンパってたんだろうな。
全力で足に炎を集めて、そしてそのまま地面に落下した。
どうなったかと言うと、結論から言えば・・・・・、大災害が起きた。
俺は土煙が舞う深さ数メートルはあるクレーターの真ん中に呆然と立っていた。
今更考えれば完全に炎の出力を誤った。
炎を何の制御もなしにあんだけ使えばそりゃこうなるわな・・・。
・・・よかった、ビルの下が何もない所で。
すると、土煙の向こうで土塗れのクロロが座り込んでいた。
「けほっ・・・。泥だらけだ」
あの衝撃で隣にいたクロロも巻き込まれたようだが、どうやら足場を崩されてこけた程度らしい。
うーん。さすが幻影旅団の団長様だ。
何か天下の盗賊の頭が転んでるのを見たらスッキリした。
ざまぁみろ!
「やるなら言ってからにしろよ」
「お互い様だ」
土を払いながらブツクサ呟くクロロにそう言ってやれば、奴は肩を竦めた。
砂煙が落ち着いた頃、突然頭上で声がした。
「何で穴掘ってんの、クロロ―!・・・って!」
「え、嘘。どこ?」
見上げればクレーターの縁に旅団の顔ぶれが勢揃いしていた。
命の危険がさらに上がって泣きたい。
何でみんな俺のこと知ってんの?
早く上がって来いと言われれば従うしかないヘタレな俺は静々と穴から這い出た。
「わー!何でいんの?嘘、まさか、獲物かぶった?!」
「シャル、から離れなよ。嫌がってんでしょ」
出るなり引っ付いてきたシャルナークに俺は心底ビビった・・・!
マチが引きはがしてくれてようやく状況を把握した。
どうやら今から仕事らしく、シャルとマチ、それからパクノダとフランクリンがそこにいた。
「クロロ、どうする、獲物一緒かもよ。も同業者だし」
「違う。俺は盗賊じゃない」
「あぁ、トレジャーハンターだっけ?やってること一緒なんだから別に何でもいいじゃない」
どうなってるんだ、こいつらが知ってる俺は・・・。
言われ放題で何とも言い返せず、黙っているとマチが慌てたように謝って来た。
気分が良くなかったのは確かなので、謝罪を受け入れるとなぜかみんなが溜め息を吐いた。
「散歩中だったを掴まえてきただけだから問題はない」
「よし!じゃあ仕事手伝ってよ」
「嫌だ」
「いいじゃん!場所は見えてるアレだよ?」
「いやだ」
何で俺が犯罪の片棒を担がなきゃならないんだよ。
大体、お前らが怖いんですけど!
シャルが食い下がる中、俺が断固として拒否していたらクロロが嫌な笑みを浮かべて呟いた。
「。探してた転移系の宝石があるとしてもか?」
転移系・・・?
それって念能力で移動できる宝石ってことか?
もしかしてそれで元の世界に帰れるかもしれない。
「まぁ。意地の悪い顔ね、クロロ」
「ふっ。どうする、」
「・・・やる」
ホントむかつくぜ。
俺が断らないの知ってて連れてきやがったな、コイツ。
シャルが指を鳴らして喜んでる横で、パクノダが苦笑して俺を見た。
まぁ、乗りかかった船だし、犯罪にならない程度に付き合うか。
***
・・・・・・・・・結論。
旅団になんか付き合うもんじゃない。
リアルスプラッタに衝撃を覚えて吐くものも吐けない。
警備員などが現れると遭遇必殺。
しかもなぜかみんな俺を巻き込んで殺そうとする。
そんなのが片手の指を越えた頃、さすがにカチンと来て、何で俺まで狙うと聞いてみれば、満場一致で即回答。
「なら避けれるでしょ」
不思議そうな顔しても駄目だかんな!
実際、何度も間一髪だったんだぞ!!
あぁ、マフィアの銃撃戦が懐かしい。
あっちの方が危険度は断然マシだった。
念能力は予測不能な上に何でもありすぎて、俺みたいな最弱人間はとてもついていけない。
人生を嘆きつつ歩いていると、目的の部屋に着いた。
「あ、あったよ。あれでしょ、の欲しい物」
マチが指差した先には頑丈そうなショーケースに入れられた小振りの宝石があった。
血のように赤黒く光るそれを見て俺の勘は正しかったと溜め息を吐いた。
どうやらこの宝石が神様が探して来いと言っていたものらしい。
しかし、もう少し常識的なヒントが欲しかった。
他の人には見えていないらしい目の前の宝石を指し示す『コレ!』と書かれた赤い矢印に俺は脱力する。
さっさと貰ってここを出よう。
俺は逸る気持ちのままショーケースを壊そうと炎を集めて手を伸ばした。
「あ、!それ、念が・・・!」
ケータイで何かを確認していたシャルが不意にそんなことを言ったが、もう遅い。
俺はすでにケースに手を突っ込んでいた。
バチッと静電気らしいものを感じたが、特に体に異常はなく、周囲も特に変化はなかった。
それよりも異常があったのは、自分の手の方である。
目の前には元のまま鎮座するショーケース、そして伸ばしたはずの手には赤い宝石。
・・・俺、どうやってケースに触れずに宝石取ったんだろう。
「それがの能力か・・・」
誰かの呟いた声が室内に響き、俺はハッとした。
え、能力、何それ、怖い・・・!!
と、とにかく宝石は手に入れた!
これをどうすればいいのかさっぱり分からんが、もうここには用はない。
興味深々と言わんばかりにみんなの視線を集めていた俺は宝石を握り締めて言った。
「俺は帰る」
「え、もう?」
「随分じゃないか。あたし達のことは気にならないのかい」
「旅団の噂は勝手に聞こえてくる」
「確かにな」
フランクリンの穏やかな笑い声を聞いて、俺は踵を返した。
もう怖いことからおさらばだ!
「待て、。お前にはもう少し付き合ってもらうぞ」
背後からゾクリとした声音でそう呟いた団長に俺は肌を粟立てて足に力を入れた。
無理無理無理!!逃げるに決まってるじゃん!!
俺は握り締めた宝石をチラリと目線をやって猛ダッシュで展示室から逃げた。
追い掛けてくる蜘蛛から半泣きで逃げてる途中に気付いてしまった。
この宝石をジッと見ていると矢印の後ろに何か不思議な数字がある。
『コレ!(03/07)』
まさかとは思うが、これ全部で7個集めろってことじゃないだろうな?!
思わず力が入って手の中の宝石が3個にバラけた瞬間、泣きたくなった。
マジかよ?!嘘だろ?!神龍呼び出して願い事叶えてもらう系じゃねぇだろうな?!
絶望に項垂れていた俺はいつの間にか蜘蛛に追い付かれ、挟み撃ちにされていたことに気付いた。
「追い付いたぞ、」
ニンマリ笑うクロロ。怖い。
もう終わった、俺……。
半泣き半笑いでクロロを見つめてぎゅっと手を握り締めた瞬間、宝石が熱くなった。
一瞬、眩く光ったと思ったら、俺の意識が反転した。
* ひとやすみ *
・ご無沙汰してます!よあけうた創立9年目記念に軽率にハンターとクロスオーバー!笑
大分荒削りですが、よろしければ見て行ってやって下さい!
久々に兄様書けて楽しかった!クロロとはいい友達になれそうです!(一方的に!
もう少しお付き合い下さると嬉しいです!! (17/11/05)