でたらめギミック
06. Full moon on mag.
ドリーム小説
ダイアゴン横丁で手に入れた私の杖は、買った時のまま引き出しに入っている。
私が魔法を使うと未成年魔法使いの制限事項令に引っかかるからダメらしい。
じゃあ、なんで杖買ったの、……?
『間違ってるぞ。そこは不正ではなく不適正だ』
「魔法不適正使用取締局……? もう、どっちでもいいじゃん」
に出された課題に取り組んでいるのだけど、英語力が乏しくサラザールの指摘が容赦なく入る。
ママが英国人だった事もあって、会話は出来るようにしごかれてたから何とかなっているが、筆記は結構スペルミスなどが多かったりする。
てか、ネコに英語教えられるってどうなの?
は英語を覚えるついでに身近な物を勉強したらいい、と課題を出してくる。
今回は未成年魔法に関する事を課題に出して、は出掛けて行った。
調べていく内に魔法省とかいう物の存在を知ったり、結構面白い。
意外だったのはサラザールはふてぶてしいくせに案外面倒見がいい事だ。
相変わらず生意気だし、愛想もないけど、実は物知りで驚いた。
今じゃペットというより先生という感じで、すごく不思議な感じ。
そんな事を思っていたら、扉が開いてが帰ってきた。
「ただいま、サラ!」
「おかえり」
『略すな』
に手厳しいサラザールに苦笑していると、は嬉しそうに笑って奥の部屋に消えてしまった。
何だかよく分からないまま奥の扉を見ているとはすぐに帰ってきた。
そしてその手にあったのは私の杖だった。
「何、どうしたの?」
「魔法解禁だ。浮遊呪文は覚えたかい?」
「覚えたけど、学校出てないと魔法使っちゃダメなんじゃ……」
「よく勉強したようだね。でも大丈夫。その辺はルシウスに任せてきたから」
ウィンクして悪戯っぽく笑ったに頭が痛くなる。
ルシウスさん犯罪に巻き込んでどうするの?!
インパクトのあったプラチナブロンドの髪を思い出して溜め息を吐いた。
話に聞いてるとどうやらあの人は魔法省の人のようだ。
「チョロまかしてくれるって言ってたから、ここでなら使っていいからね」
何だか聞いてはいけない言葉を聞いたような気がしたけど、聞き流しておく事にする。
が期待に満ちた目を向けてくるので、私は杖を受け取って手首を振った。
これはこれで何だか恥ずかしいものがあるな。
「 Wingardium Leviosa 」
メモをとっていた羊皮紙に杖を向けると少し動いてゆっくりと浮かび上がった。
上手かどうかは別にして一応成功と言っていいんじゃないだろうか。
「よくやった、!!」
『下手糞だがな』
「……ホント一言余計」
「??」
首を傾げていたはあれで満足したのか、自分の杖を振ってお茶の準備を整えた。
テーブルに並ぶのはもちろん二人で買ったマグカップだ。
ホントは私のカップだけでよかったんだけど、がお揃いがいいとセットで買った物だ。
私が緑色でが青色。
絵はポップな夜空が描かれていて月の満ち欠けや星など、その日の空模様が分かるカップだ。
に促されて勉強の休息がてらテーブルに着いた。
私はお気に入りの紅茶がたっぷり入ったカップに口を付けた。
「明日は満月か……」
向かいでコーヒーを飲んでいたが目を細めて呟いた。
と私のカップの月は、ほとんどまん丸な形をしていた。
私は思わず窓の外を眺めたが、まだ昼にもなっていないので月は見えそうにない。
すると残りのコーヒーを全て飲んだは立ち上がった。
「少し行く所が出来た。帰れないかもしれないがは大丈夫かい?」
「平気。サラザール居るし」
「それは心強いな」
『……勝手に言ってろ』
と私がニヤリと笑ってサラザールを見たけど、サラザールはそっぽを向いただけだった。
ホントに可愛げのない……。
それからはどこからかサンドウィッチを用意してくれ、そのいくつかを掴んで出掛けて行った。
***
の課題をすでに終わらせて私は日記を書いているのだけど、どうやらこの日記ホントにおかしな日記らしい。
や私にはちゃんと緑の古い日記に見えるのに、サラザールにはただの紙切れにしか見えないらしい。
何でこんな事になってるのか、の考えでは、私が使う以前に日記を見たか、見てないか、がポイントなのではないかと言う事だった。
実際、サラザールに私の荷物の中で緑の日記を見た事があるかと聞いてみたが返事はNOだった。
私以外、誰も読めない日記にこの世界に来た時の事など事細かに書いた。
誰にも言えない事だからってこともあるけど、私が忘れたくなかったからだ。
あの世界の事も、に差し伸べられた手の事も。
そしてどんなに不可思議な存在でもここに居るんだ、という証を立てたかったのだ。
今はただ自分の毎日を綴っていく事が楽しくて書いているのだけど。
パタンと日記を閉じて、近くにあった『魔法界の常識100選』という分厚い本を掴むとサラザールがテーブルに飛び乗ってきた。
どこまでも先生気質なこのネコちゃんは私が間違えて訳すのが気に食わないらしい。
進度の遅い読書をしていると扉が叩かれた。
というか、もはや叩くと言うより破壊しているんじゃないかと言うくらい激しく殴られている気がする。
私が立ち上がるとサラザールが声を掛けてきた。
『まさか出るのか?』
「え? だってお客さんだよ?」
『どう見ても招かれざる客だろうが』
「サラザールも知ってるでしょ? あの扉に近付けるのは何も知らないマグルか、が許した人だけだって」
ようやく黙ったサラザールに私は壊れそうな憐れな扉を開けた。
するとその人はズカズカと部屋に入って来て私を振り返った。
「さっさと出んか!」
いきなり入ってきた男の人は不機嫌そうに私に向かって怒鳴った。
何だか不健康そうな全身真っ黒な男の人だ。
眉間の皺がこの人の性格を表しているように思える。
「お前に頼まれていたから我輩がわざわざ届けに行ったというのにアイツは居なかった!」
何だかよく分からないが、口を挟む暇もないくらいのマシンガントークだ。
怒りながらウロウロしていたと思ったら、勝手にカップを出して紅茶を入れ始めた。
紅茶の場所を知ってるくらいだからと親しいのだろうけど、生憎は今ここに居ない。
「大体その格好は何だ?! またお得意の悪戯か? 縮み薬まで使うとは馬鹿馬鹿しい!」
「あの……」
「ふん。お前が依頼主だ。薬は置いて行ってやるが、あとは我輩は知らん」
「だから私は……」
「全く。暖炉も姿現しも使えんとは面倒くさい」
黒尽くめの人は紅茶を飲み干すと、マントを翻してそのまま帰って行った。
ただなす術もなく呆然としていると近くに来たサラザールが呟いた。
『慌ただしい男だ』
「ていうか、この薬どうしよう……」
『知るか』
***
する事もなく『魔法界の常識100選』を読み続け、それも終わりに近付いた頃にが帰ってきた。
すでに辺りは薄暗くなっていてお日様が沈もうとしていた。
「あれ? 今日は帰って来ないって言ってなかったっけ?」
「悪いけど! 今、それ所じゃない。薬が……ッ」
「……もしかしてこれ?」
私が慌ててあの薬を掴むとの動きが止まった。
慌てて駆け寄ってくるは薬を受け取って怪訝そうにしていた。
「もしかして、病的に細いくせに油っぽい髪してて、神経質でネチっこい性格してそうな眉間に皺だらけの真っ黒な奴がこれ持って来た?」
「何かすごい表現だね、それ。……合ってるけど。何かすごい怒ってて、アイツが居ないからあとは知らん! って置いていったよ?」
「セブルス……。に当たるなよ」
は溜め息を吐いて、残されていた紅茶のカップを片付けて私の頭を撫でた。
というか、の表現に悪意がこもってないのが不思議だ。
ちなみに最後まで私をと勘違いしていたあの我輩の人はセブルスさんと言うらしい。
何だかとっても可哀相な人に思えてきた。
「今夜はやはり帰れそうにない。、セブルスを持て成してくれてありがとう」
「私、何もしてないよ?」
「セブの場合はそれでいいんだ。じゃ、また行ってくる」
は薬を持ってまた家を飛び出して行った。
***
は次の日の夕方に帰ってきた。
何だかすごく疲れて帰ってきてすぐにベッドに入ったけど、夜が明けると元気になっていた。
あの薬は間に合ったのか、と聞けば、はのおかげでね、と笑って返した。
だから私は何もしてないのに。
それから数日経ったある日、普段あまり叩かれる事のない扉がまた叩かれた。
は今、部屋に居るため出るのは必然的に私の役目だ。
もう何も言うつもりがないらしいサラザールをちらりと見てから私は扉を開けた。
そこに居た人物は明るい鳶色の髪の優しそうな男の人だった。
どこか体調が悪そうに見えるのは、体のあちこちにある傷のせいでもあるだろう。
尋ね人は目を瞬かせて私に視線を合わせ、縮み薬かと首を傾げて聞いてきた。
私が首を振って口を開こうとすると奥からが出て来た。
「ー? お客さんかい?」
「うん」
目を見開いて私との二人を見比べるお客さんに気付いたは彼を見て嬉しそうに微笑んだ。
が私の肩を抱いた時、ようやくその人は口を開いた。
「いつの間に子供産んだの、?」
あまりにおかしな顔をして呟くその人に私とは思わず吹き出した。
ひとやすみ
・ようやく出せた薬学教授vv
もちろん鳶色傷だらけと言えばあの人ですvv (08/11/26)