でたらめギミック
05.The same name as founder.
ドリーム小説
ダイアゴン横丁での最後の買い物は魔法の杖でした。
に連れらて最後に入ったお店は紀元前からあると言う古い杖屋だった。
店主のオリバンダーさんはいい人なんだけど、リアクションが派手でちょっとビビる。
何よりも興奮状態の時のギョロギョロした目が怖い。
嬉しそうに次々と杖を渡してくる辺り、杖が好きで好きで仕方ないのだろう。
私に合った杖が見付からなくても気にせず楽しそうだ。
どんなに店が破壊され吹っ飛んでも目を輝かせてるオリバンダーさんは大物だと思う。
オリバンダーさんに言われるがままに杖を振り続けてどれくらい経ったか。
それはもうたくさんの杖を試した。
軽い木の棒とはいえ、さすがに何十本と振り続けて腕がダルくなってきた。
明日筋肉痛になってたらどうしよう……。
杖を振ったくらいで筋肉痛になんかなったら、配達ふくろうとかにも鼻で笑われそうだ。
ふくろうに鼻があるのかなんて知らないけど。
しかし、この数は半端ない。
ブンブンと疲れた腕を振っていると、もうどれでもいい気がしてきた。
何時間も杖が見付からない事が当たり前なのか、オリバンダーさんもも文句一つ言わない。
ホントに私の杖が見付かるのだろうか。
その時になって初めてハッとした。
まさか、私が異世界人だから見付からないなんて事は……。
不安でいっぱいになっている私に気付かずにオリバンダーさんは新しい箱をいっぱい持って来る。
色とりどりの箱の中で真紅の箱が目に付いた。
そこから目が離せないのだが、オリバンダーさんが次々と杖を渡してくるからそれにしたがって振り続ける。
「……さ…ん……、さん?」
「何か気になるのがあったの、?」
「…………へ?!」
心配そうに覗き込んでくるオリバンダーさんとを見て慌てて首を振った。
どうやら気付かない内に何度も声を掛けられていたらしい。
些細な事で二人に心配させたくなかったので首を振って否定したのだけど、なぜか逆に二人は浮かない顔をした。
「別に気を遣わなくていいんだよ。杖選びには重要な事だったりするんだ」
「え?」
「自分に合った杖に出会う一番の近道はフィーリングなのですよ」
困ったように笑う二人に私はもう一度真紅の箱に目を戻して、それを指差した。
全員の視線が向けられた箱のふたを開けると中には黒く、短めの杖が入っていた。
「美しいでしょう? これは黒檀にウロボロスの翼の21センチ。重みがあってしなやか」
そっとそれを手に取ると触った掌からじんわり温かくなる感覚を感じた。
そして二人が言っていたフィーリングの意味がようやく分かった。
これだ……。
何だか嬉しくなってオリバンダーさんを見ると優しく笑って一つ頷いた。
私よりも幸せそうな顔をしていたその顔は振ってごらん、と言っている気がした。
吸い付くような感覚を感じながら私は短い杖をゆっくりと振った。
キラキラと輝く何かが杖の軌跡を辿って店に舞い、オリバンダーさんは手を叩いて喜んだ。
も同じく嬉しそうにしていた。
「ブラァボ!」
「おめでとう。だけの杖だ」
「ありが「ウギャっ」
「「「……………………」」」
未だキラキラしている店内で喜んでいた私達の目の前に何かが突然降ってきた。
思わず三人で店の天井を見上げ、次に私が持っていた杖を見て、最後に降ってきた物を見た。
なんだこれ。
何だかよく分からないが、灰色をした物がキラキラに塗れて転がっていた。
見極めようとジーッと見ていたら動いた!
「う、動いてる! これ何?!」
「まさか……」
「……長年、杖選びの時に様々な現象を見てきましたが、ネコが振ってきたのは初めてですな」
「え、これネコなの?!」
まるでボロ雑巾のような灰色のネコはのそりと起き上がって犬のように身体を振ってキラキラを飛ばした。
店の注目を集めていたネコはようやく私に気付いたのか、顔を上げた。
ネコと目が合った瞬間、息が止まった。
「目が……あか、い」
一瞬にして蘇った記憶に首を何度も振って否定してみても、深い血のような紅は忘れられそうもない。
惹き付けられるその瞳に抵抗する事をやめて素直に眺めた。
ネコはそっくりだった。
私があの世界とさよならした時に見た灰色赤目のネコにそっくりだった。
ネコが私から視線を外して辺りを眺めるように見回していたので、私も我に返った。
とオリバンダーさんは何事もなかったかのようにお会計をしていた。
それを見て少し落ち着いた私はしゃがみ込んでネコの視線に合わせた。
「まさか君も一緒にトラックに轢かれてこの世界に飛ばされたとかじゃないよね?」
興味が無さそうにしていたネコは急に私を穴が開くほど見つめてきた。
まるで言葉が分かっているような感じだ。
「、帰るよ」
不意にに声を掛けられて思わず立ち上がったけど、私はネコが気になってとネコを交互に見た。
ネコはあれからずっと私を見ていて何だか見捨てられないのだ。
「あの、。でも、このネコ……」
「何言ってるの。連れて帰るよ」
「へ?!」
「そんなの翁に、はいどうぞって任せる訳にいかないだろう?」
話は済んだとが扉を押し開けたので、私は慌ててネコを引っ掴んで追い掛けた。
ネコの抱き方なんて知らないからホントに首根っこを掴んだのがいけなかったのか、
ネコが暴れるので両腕で今度は包み込むように抱き直してから腕の中に声を掛ける。
「じっとしてて。じゃないと両手両足掴んで担いでやる」
ネコが大人しくなった。
世界共通、脅しは効くって事だ。
***
とお店を出て並んで歩いていたのだけど、は何か考え込んでいるようでずっと黙っている。
しかし、このネコ重い。
買い物した荷物は全部が持ってくれているのだけど、ネコってこんなに重かったっけ。
急に立ち止まったに振り返るとはあるお店を指差していた。
「魔法動物ペットショップ……?」
「あぁ。に最初からペットを飼ってあげようと思ってたんだが、別にそのネコじゃなくてもいいんだよ?」
つまり、そのネコどうするって話だ。
私はペットショップのゲージを少し眺めて、腕の中の灰色のネコに視線を落とした。
このネコ、ホントにふてぶてしい。
重いし、可愛げないし、絶対ペットに向いてない。
私は決然とを見た。
「ペットはいいや。このネコと縁あって出会ったんだし、捨てられないよ」
「はは。そう言うと思った」
は嬉しそうに笑って私の頭を撫で回した。
髪をぐちゃぐちゃにしてくれたに文句を言いながらも、何故かご機嫌の保護者に首を傾げた。
変な出会いだったけど、家族がまた増えた。
『 馬鹿な奴だ 』
「……へ?」
どこからか男の人の声がして辺りを見回してみたけど、私に声を掛けたような人は居なかった。
空耳かと気にしない事にした。
『なんて事だ。こんな愚かな奴に囚われるとは……』
空耳ではなく、はっきりと聞こえた声に私はゆっくりと腕の中を見下ろした。
私を見てくるネコの口が大馬鹿者と動いたのを私は見た。
ひぃぃいぃぃぃッ!!
ネコが喋った!!
人間ホントに驚くと声も出ないってホントだ。
あまりにびっくりして腕を解くとネコを乱暴に降ろす事になった。
『落とすな!』
「飼うんだったら名前付けないと。、名前決めてるかい?」
「へ? えぇ?!」
「……どうした?」
私は心配してくるに目を見開いたままブンブン首を振った。
憤慨しながらもネコは大人しく付いて来る。
どうやらネコの声はに聞こえていないらしい。
……あんなに叫んでたのに。
以外の周りの人達も気付いていない。
つまり、ネコが喋るという珍事件に遭遇してるのは私だけという事なのか?
あぁ。痛い。頭が痛い。
魔法界だからか?
魔法界の動物は喋るのか?
『私の声はお前にしか聞こえない。魔法界でも動物が言葉を話せば騒動になる』
「へぇ。……へ?!」
『お前は本当に愚か者だ。私のせいで異世界に来たとまだ気付いていないのか?』
今、このネコは何て言った?
何で私が異世界から来たって知ってるの?
まさか、まさかホントにあの時の灰色赤目ネコ……?
『信じたくはないが、しばらくお前と居なければならないらしい。馬鹿なマグルがマグルの造った動く箱に轢き殺されたと思ったら、この世界に居たのか』
「じゃあ、君が居たら私、帰れる……?」
『言っただろうが。轢き殺された、と』
「……そっか」
ショックは受けなかった。
元から覚悟してた事だったし、既に私にはが居る。
「が考えてる名前はなんだい?」
ネコの言葉も、何も聞こえていなかったは楽しそうにネコの名前を聞いてくる。
そう、これでいいんだ。
私はにニッコリと微笑んだ。
「んー。……トリトンとか?」
「『 却下 』」
「そこの、てんぱりトリトンっておもちゃから取った名前だろ」
何だか声が重なって聞こえたのは気のせいだろう。
だって面白そうなおもちゃだったし……。
「じゃあ、フランダースは?」
「『 却下 』」
「何だかそれ犬みたいな名前じゃないか?」
当たり。
それを言うならパトラッシュだったか。
「ならグレイとか……」
「『 却下 』」
「灰色……。、ネーミングセンスないと言われるだろう?」
の目がだんだん据わってきた。
答えに詰まっていると見兼ねたのか助け舟が足元から出された。
『 サラザール 』
「 サ ラ ザ ー ル ?」
ネコが発した音を辿ると不思議にしっくりきたような気がした。
それを聞いていたは驚いたような顔をしていた。
「よくその名前を知ってたな。サラザールか。ホグワーツ創設者の内の一人の名前だ。うん。陰険そうなこのネコにはぴったりの名前だ」
この瞬間、サラザールのへの態度が決まった。
睨むようにを見ていたサラザールに私は背筋を伸ばした。
「私の名前は・ウィンスコット」
「ふむ。私はの家族で・ウィンスコット」
二人で合図しあって名前を名乗るとサラザールは怪訝そうに私達に赤い瞳を向けた。
私とは笑って声を合わせた。
「「 よろしく、サラザール 」」
フイと視線を逸らしたサラザールが小さく馬鹿者共が、と呟いたのを聞いたのは私だけだ。
ひとやすみ
・家族がまた増えました!小憎たらしいネコちゃんですが、お付き合い下さい!
それにしても、てんぱりトリトンて何……?笑 (08/11/22)