でたらめギミック


04. Egoistic dialy.


ドリーム小説

初めてのグリンゴッツトロッコ体験を終えた私はとにかく不機嫌だった。
に騙された感もあって不貞腐れていたら、は私の機嫌を取ろうと頑張っていた。
その様子があまりにも必死で何だかとっても可笑しかったので私は怒ってる振りを続けた。



「ホントにごめん!! わざとじゃなかったんだ! の欲しい物を買ってあげるから許して?」



窺うように謝るに私はようやくニッコリしてと手を繋いだ。
そしてホッしているに言った。



「じゃあ、本が欲しいんだけど」



願いはすぐに聞き届けられて上機嫌なと本屋へ向かった。
はうっかり忘れているのだろうけど、私はこれでも中身は17歳なのだ。
今更だけど何だかものすごく子供扱いされている気がする。
かく言う私も言動や行動が子供っぽいような……。
まさか、身体に合わせて精神年齢まで下がったんじゃないだろうな。
そんな恐ろしい事を考えながら見付けた本屋に入った。

そこはまるで本屋と言うより壁だった。
首が痛くなるくらい上に高い本棚にびっしりと本が詰まっていた。



「あんな高い所の本、どうやって取るんだろ……」
「あぁ。大抵は呼び寄せ呪文だろうけど、禁止してる本屋が多いな。ここの場合はこれを入れ替えると……」



が本棚の横にあった積み木を指差した。
積み木は一つ一つに番号が打ってあって、だるま落しの要領で抜き取って下に入れ替えるらしい。
は積み木を入れ替えて見本を見せてくれた。
すると今まで下の本棚の中身がごっそりと上の棚に移動し、上にあった本が目の前に並んでいた。
どうやらこの積み木は棚を表していて順番を入れ替える事によって中身を上下出来る仕組みらしい。
中身だけが変わった本棚に感嘆の声を上げながら、本を一冊手に取って捲ってみて固まった。



「へぇ、面白い、ね゙ぇぇ?!」



本を開いて見て驚いた。
というか今まで気付かなかった方が可笑しいのだが、これにはショックだった。



「どうした、?」
「……字が、全部英語だ」

「あぁ。あれ? は英語喋れるでしょ?」
「簡単なのは大体平気だけど、書けないの」
「あー。今まで私とは日本語だったから気付かなかったよ。I will do special training to write English together! 」
「うぅ。OK……」



こうしてこの日から英語漬けの日々が始まった。







***







それから日本語を全く話してくれなくなったとあちこち買い物して回った。
少しづつ常識の違う世界に私はすごく戸惑った。
紙はルーズリーフやノートではなく、羊皮紙だし、鉛筆やボールペンの代わりに羽ペンを使っているし驚いてばかりだ。
もちろん、は習うより慣れろ、とばかりに羊皮紙と羽ペンをたっぷり買ってくれた。



「お嬢さん、日記帳なんていかがかね?」



不意に文具店のお爺さんに声を掛けられて振り返ると、ちょうど棚に日記帳を並び入れている所だった。
にも聞こえていたようで近付いて来て日記帳を見ている。



「新しい物が入ったのでね、よかったら手に取ってやっておくれ」

「ふーん。日記か、筆記の練習になりそうだよ、?」
「えと、日記? そうだなぁ、書いてみようかな」
「好きなの選んだら呼んでくれ、その辺に居るから」



一口に日記帳と言ってもいろんな物があった。
常に危機を訴える変な日記や、嫌な出来事を良い風に書き換えちゃう日記など様々だった。
いろいろと見ているとカウンターの上にあった濃緑色をした日記帳が目に付いた。
表紙にある大きな金の鍵がとても綺麗だ。



「あの日記帳は……?」
「どれ、あぁ。あれは譲り受けたんだが我侭な鍵で開かなくてね。全く、新しい日記の参考にしようと思ったんだが」
「見てもいいですか?」
「あぁいいよ。開けられたらお嬢さんにあげよう」



お爺さんは面白そうに笑って棚の整理に戻った。
もう一度カウンターに視線を戻してゆっくりと近付いた。

この日記、何だか変な感じがする。
嫌な感じではないけれど何か不思議な引力があった。
そっと手に取ると予想以上に軽い。
大きな金の鍵にはよく見ると繊細な模様が彫られていた。
濃い深緑の表紙を撫でると一瞬、何かが頭を過ぎった。
突然の事に驚いて日記帳に視線を落とすとパチンと音を立てて鍵が外れた。
今度こそ動揺してお爺さんとを探して私はオロオロとしてしまった。
それに気付いたのか、お爺さんは振り返って私の手元を見て目を見開いた。



「驚いた!! 誰も開けた事のない日記だったのに。中はどうなっておる?!」
「中? え、と、真っ白です」



お爺さんは興奮状態で日記を私から受け取ろうとした。
その瞬間に日記はバタンと閉じて鍵ががっちりと掛かってしまった。



「…………」
「…………」



無言の訴えに私はお爺さんの前で鍵を開けようとした。
しかし、鍵は開く気配すらない。



「どうやらお嬢さんを持ち主に決めたらしい。古い日記は持ち主にしか見られないように他人の前では開かないようになっておる」
「でもこれ……」
「言うたようにそれはお嬢さんに差し上げる」
「え?」



お爺さんは困ったように笑って約束だからな、と言った。
どうしようと困っているとが帰ってきてお爺さんと私の顔を見比べた。



「どうした、?」
「何かこの日記帳くれるって言うんだけど……」
「それは持ち主をお嬢さんに選んだんだ。返品は出来ないよ」



譲らないお爺さんに抵抗しつつ、に日記を見せた。
その時、私は日記に視線を落としていたのでが日記を見て目を細めた事に気付かなかった。



「店主がそう言ってるんだ。貰っときなさい、
「え?」
「そうしてくれるとこっちもありがたいのだがね」
「…………じゃあ、いただきます! ありがとうございます!!」



お爺さんの顔を見て私はペコリと頭を下げてお礼を言った。







***






その後は魔法使いらしいローブを買いに行ったり、アイスを食べたり、いいって言ってるのに無理矢理に連れられておもちゃ屋を見に行ったりした。
次が最後のお店らしいのだが、一体何のお店かが教えてくれない。
行けばわかるとしか言わないに私はただ付いて行くしか出来なかった。
周りに比べて古そうなお店の前で立ち止まったは嬉しそうにお店に入って行った。
店の風体を眺めていた私は慌てての後を追ったため、何のお店かまでは分からなかった。
でも何だか紀元前創業とかとんでもない事が書いてあったような……。

重い扉を押して入ったお店の中は薄暗くて、カウンターの向こうの棚には長方形の箱が至る所に積んであった。
しんと静かな店内で灯りだけがゆらゆらと揺れていて人の気配がしない。
奥の方で何かが動いて目を向けるとが備え付けのソファーに座っていた。



「あのー……。誰か居ませんか……?」



小さな声で言ってみたにも関わらず、店内には自分の声がよく響いた。
恐る恐るカウンターに近付いて乗り出すように奥を見渡した。



「いらっしゃいませぇ!!」
「ぎゃあぁぁッ!!」



諦めかけたその時、カウンターの真下から細身のお爺さんが飛び出した。
心臓が止まる!!
心臓が止まるッ!!!



「おやおや。ウィンスコットさん、いつまでもお若いですな」
「ひぇ!? ぅあ、いえ。じゃなく、と言います」
「んん? 人違いでしたか。それで今日は購入ですか? 修理ですか?」
「え、と……」



何のお店か確認する前にを追って飛び込んだので、ここが一体何屋で何を聞かれてるのか全く分からなかった。
縋るように後ろのを見れば爆笑していた。
さっき飛び出たお爺さんに驚いた私がきっと面白かったんだろう。
だからってそこまで笑わなくても。
そんな気持ちが通じたのか、は涙を拭いながら立ち上がった。



「購入だ。の杖を見てやってくれないかい、オリバンダーの翁」
「そうですか。ではさん、杖腕はどちらですかな?」



私の杖?
杖腕?
何が何だか分からない。

とりあえず利き腕をおずおずと差し出すとオリバンダーさんはメジャーを取り出して色々と測り出した。
オリバンダーさんが嬉々として右腕を触って測りまくっている気がするのは間違いではないだろう。
というか、私に魔法なんて使えるのだろうか?
こちらに来るまで魔法なんてものは幻想でしかないと思っていたのに。
私に魔法が使えなかったらどうしよう。
が何の疑いもなくここに連れて来てくれたのに。
がっかりだけはさせたくない。

採寸だか何だかは終わったようで、あっという間にオリバンダーさんは店の奥に引っ込んで行った。
大きな物音がしたと思ったら今度は腕いっぱいに箱を抱えてカウンターに戻ってきた。
後ろの棚にもたくさん置いてあるあの長方形の箱だ。
それをカウンターに並べたオリバンダーさんは箱を私の方に押しやった。



「試してみなされ」



そう言われてもどうすれば良いのやらさっぱりだ。
とりあえず恐る恐る箱を開ければ太くて真っ白な杖が入っていた。
の真っ黒な杖とは正反対でマジマジと見ていたら怒られた。



「ほれ! 早く振って!」



目が落ちるくらい見開くオリバンダーさんに驚いて私は慌てて杖で空を切った。
怖いんだってば、その顔!
ドカァァンッ!!



「あぶ・・・っ! 杖を人に向けて振っちゃいかん!!」



よかった。
よかった、避けてくれて!!

オリバンダーさんの後ろにあった机が木っ端微塵に吹っ飛んだ。
真っ青な顔をして怒られたけど私は嬉しかった。
だって、これって私にも魔力があったって事だよね?
それを確かめたくて後ろのを振り返れば、は満面の笑みで返してくれた。
私はそれに安心してニッコリと笑った。


 ひとやすみ

と話す時だけ日本語だったのをここからは全て英語にという話です。
 オリバンダーの翁がとんでもない人に。。。
 ちなみに英語の部分は「一緒に英語の特訓をしよう!」って感じです。           (08/11/18)