でたらめギミック


02. My name is...


ドリーム小説

と一緒に住む事になった後はうろ覚えで、許容量がいっぱいになってすごく疲れたのだけは覚えている。
の部屋だと与えられた部屋は暗くて湿っぽくて埃臭かったけど、部屋が貰えるだけで十分だったし、
何より今はベッドに飛び込みたくて仕方がなかった。
念願通りにベッドにダイブすると目の前が白く見える程に舞い上がる埃に包まれた。

明日は掃除だな……。
ぼんやりそんな事を思って眠りに落ちた。









鳥の鳴き声と生活の中で起こる音で目が覚めた時、陽はすでに昇りきっていた。
今ではブカブカになってしまっていた腕時計に目をやると針は昼前を指していた。
うろ覚えではあったが、昨日寝る前と部屋の景色が変わっていた。
そう言えばと自分が座っているベッドも今は目に痛いくらい白くてお日様の匂いがした。
かび臭かった部屋は綺麗になっていたし、その隣にあったクローゼットの中を覗くと
私にピッタリなサイズの服や靴がびっしり入っていた。

の家は狭くはないが広いとも言い難い。
昨日見た限りこの家には私と同じくらいの子供なんて居なかった。
つまりここにあるのは私のために用意されたものなのだろう。
ひらひらふりふりを避けてありがたく黒のワンピースと白のボレロを着て部屋を出た。
短い廊下で繋がったキッチンに入るとがフライパンを握っていた。



「おはよう。あぁ、サイズぴったりだね」
「おはよう。あの部屋が?」
「残念ながらダンブルドアが用意してたんだ」



朝食をお皿に乗せて目の前に置いたは苦々しげに呟いてカップを出した。
驚いた事に朝食はベーコンエッグの乗ったトーストだった。
朝食が済んだ頃には紅茶を飲み干したカップをテーブルの上で転がした。
私はただ何かを考え込んでいるとコロコロと転がるカップを見比べていた。



「うーん。やっぱり専用のカップがいるね」
「別にそこまで……」
「いや。家族分はいるんだ! さて、今日は買い物だよ」



こうして本日の予定はあっさり決まった。
自分の為にお金を使わせるのは申し訳ないのだけど、
家族と言ってくれたその気持ちが嬉しくてつい頷いてしまった。







***







それからすぐにと家を出て、地下鉄に乗ってロンドンに出た。
の家はマグルの家の付近にあってマグルと同じように生活している。
魔法でも移動は出来るようだけどは歩いたり、切符を買って電車に乗ったりするのが好きらしい。
話し足りないと言わんばかりに互いに口を開いたり、頷いているとが急に立ち止まった。
指を差されるまでそこにあったのだと気付かないようなみすぼらしいパブが目の前にあった。
昼間から一体ここに何のようだと思ってたのが顔に出てたのかが説明してくれた。



「ここが漏れ鍋。マグルの世界と魔法界を繋ぐ店」



不思議なほど存在感がまるでないその店に行き交う人は誰も気付かない。
に手を引かれて入った店内は外見とかけ離れ、昼間だというのに人の笑い声で満ちていた。
すると不意にカウンターの向こうに立っていた店員さんらしき人が拭いていたグラスを置いて声をかけてきた。



「やぁ! すっかり忘れられたのかと思っていたよ」
「はて、どちら様でしたかな」



ニヤリと笑ったに店主のトムさんは敵わないな、と頭に手を当てて笑って注文を聞いてきた。
少しに手を引かれて前に進み出る。



「いや、今日はダイアゴン横丁にこの子を連れて行くトコなんだ。悪いな」



そう言われてトムさんは初めて私に気付いた。
あまりにも目を見開いて見てくるから少し怖かった。



「驚いた、小さい頃のそっくりだ」
「遠い親戚なんだ。少し急ぐんでね、また来るよ」



は足早に店を横切り庭に出た。
そこにはレンガ造りの壁があっては見てな、とウィンクして杖で順番にレンガを叩いた。
するとレンガがカーテンのように柔らかくなったかのようにぐにゃりと歪んでその先に町が現れた。



「ダイアゴン横丁だ」



は悪戯っぽく笑っていたが、こんな事が起きるなら早く言ってほしい。
あんまり驚いて金魚のように口をパクパクさせて壁とを代わる代わる指差してしまった。
そんな様子がおかしかったのかはお腹を抱えて笑い出した。
魔法の世界は摩訶不思議で心臓に悪い。
まだ笑っているは覚えておくように、と私の頭を撫でて、また吹き出した。

そんなに笑わなくてもいいじゃない……。







***






ダイアゴン横丁はホントに魔法の世界だった。
動く写真に色の変わるお菓子、空飛ぶ箒に怪しげな薬。
ここではない世界とはいえ、マグル生活をしていた私には真新しい物ばかりで目移りしてしまう。
いろんな物に目が止まると足も止まる。
すると手を引くが怒るのだが、やはり少し進んでまた止まる。
その繰り返しで全然進まない。
ため息混じりに怒るに申し訳ないので、余所見しながら歩くという妥協をしたのが悪かった。
目の前の物に気付かず、の声で我に返った。



! 前を……!」



ドンと顔に衝撃を感じて尻餅をついた。
ぶつかったものを見ようと見上げると深い緑のローブと射抜くような目が見下ろしていた。
謝ろうと口を開きかけた時、に遮られた。



「ルシウス……」



目の前のすごい綺麗なシルバーブロンドの男の人はどうやらルシウスと言う名前らしい。
の知り合いだとは思うケド、彼が踏んでいる私のスカートを解放してくれないと立てそうにない。
それに気付いたが私の頭に手を置いて代弁する。



「私の親戚なんだ。立たせてあげても?」



緩慢に私に目線を向けたルシウスさんはテノールの声を響かせた。



「名前は何という?」
「…………
「ファミリーネームは?」



そう聞かれてはハッとして私を見た。



そんなに心配そうな顔をしなくてもいいのに。
思わず苦笑がもれる。

私の名前は神埼だ。
この世界に来て私はと家族になった。
好きで来た訳じゃないけれどが拾ってくれなきゃどうなったか分からない。
本当に感謝しているけれど、諦めがついてないのも事実だった。
だってまだこんなに神埼の名前に執着してる。

きっとは私があの世界との繋がりを無理矢理捨てるんじゃないかと心配してくれているのだと思う。
だから漏れ鍋でも名前を聞かれる前に足早に去ってくれたのだって気付いている。
今の私はどっちつかずで、ただのなのだ。
そんな気持ちをは察してくれたのだろう。
また眉間に皺が増えてしまっている。
黙ってしまった私に痺れを切らしたのか、ルシウスさんは再び同じことを聞いてきた。

だけど、私の答えはもう決まっていた。



……、・ウィンスコットです」



私は選んだ。ここで生きていく事を。
どこか遠くですでに懐かしいママの声がしたような気がした。



「ウィンスコット家の? ならお前と同じ力が?」



ルシウスさんはを見た。
なぜいきなりそんなトンチンカンな話になるのだろうか。
不思議すぎる、魔法界。



「それはわからない。けどきっとそうなるだろうな」
「それも力か?」



は薄く笑っただけだったけど、ルシウスさんは満足したのか
ようやく私に向き直ってスカートを解放してくれた。



「失礼をした、レディ。君の未来に期待している」



何故だか急にルシウスさんが親切になった。
立ち上がるのに手まで差し伸べてくれ、よく分からないが期待されている。
取りあえず一言返事を返すと薄っすらと口で笑い、ローブを翻してあっさり立ち去ってしまった。



「本当に良かったのか?」



手を繋いで黙々と横丁を歩いていたら不意に上から言葉が降ってきた。
見上げたはこっちを見てはいなかったけど繋いだ手がまた少し強く握り締められた。



「いいの! 神埼は1度死んだもの」



が良ければだけど、と小さく続けると今度はしっかりと私を見てくれた。
その眼は少し怒りを含んでいる気がした。



「冗談でしょ? 私がを拒む訳がない。そんな事を言わないで、悲しくなる」
「……うん。ありがと」
はもうウィンスコット家の子だろう? 私にまで遠慮することはないよ」



視線を合わせて屈んだは優しく微笑んで両手で頬を包み込んだ。



「いいかい。愛しているモノを簡単に捨てられる訳がないんだ。だから捨てなくていい。大事に胸にしまっておきな。 私はに大事なモノを捨てさせる為に家族になったんじゃない。
 私はそれも全部まとめてを受け止められよ。だってそれが家族でしょう?」



ニヤリと悪戯っぽく笑ったに思わず抱き着いた。
いきなりの事で少しよろめいたが、は相変わらず減らず口を叩きながら思いっきり抱き締めてくれた。
悔しい。どうして私が欲しい言葉が分かるんだろう。
どんなに寂しくても悲しくてもはきっと気付いてくれる。
だって私達、家族だもん。

照れ隠しにの手を取って、足早に前を歩くとすぐ後ろでが笑ってる気配がした。






***





いつまでも歩いてる訳にもいかず、目的を果たすため必要な物を買い歩いた。
目的のマグカップも買った所で、古い鍵を渡された。



「これはグリンゴッツの金庫の鍵だ。大事な物だから失くさないようにね」
「え? 金庫? 何で?」
「だからこの金庫はの物だから好きに使っていいんだって」
「えぇ!?」
「私もそこには手をつけるつもりはないけど、好きにと言ったって無駄遣いしろとは言ってないからね?」



大事にしろ、と渡された鍵を両手で受け取って大きく頷いた。
目の前にある石造りのグリンゴッツを二人で見上げているとは踵を返して帰ろうと言った。



「え? 入らないの?」
「出来れば入りたくないんだ。次の機会にお金は下ろしてくれる?」
「お金は別にいいんだけど……どうして?」
「全く、これだから魔法界の乗り物は……」



途端に顔を顰めるは文句をいくつか呟いた。
よく分からないがの苦手な物が銀行にはあるみたいだった。


 ひとやすみ

のキャラがふわふわと固定されてくれません。アイタタ(08/11/09)