でたらめギミック
01. Hello, another world.
ドリーム小説
次に感じたのは痛みじゃなくて生臭さ。
天国が生臭い所だったなんて初めて知ったよ。
目を開けると長い黒髪を一つに結った女の人が目の前にいた。
手には大根を握ってそれはもう落ちるんじゃないかと思うほど目を見開いている。
よくよく今の状況を理解しようと見渡せばここはキッチン。多分目の前の人の家の。
どうやら私は死んでいきなり不法侵入をしてしまったらしい、不可抗力ながら。
私はと言うと何だかよく分からないが樽にお尻からハマっていて身動きが取れない。
しかも沈んでる気がする。お尻冷たいし。
一体、樽に何が入っているんだろ?
痛い沈黙にどうしようかと思っていたら女の人が口を開いた。
「 What happened? Please explain it someone...」
「え、英語?!」
「Ahn、日本人……? じゃあ、君。私の……漬物の上で何してるの?」
なるほど、私のお尻を濡らしてくれているのは漬物なのか。
そんな事に驚いてる場合じゃなく、天国が英語圏かもしれないと思うと泣きたくなった。
とりあえず日本語が通じるようなので日本語で話す事にしよう。
「不審極まりないと思うんですが、自分でも事情が分からなくて……」
「私は何だかこの光景を見たことあるような……」
「はい?」
「いいえ。こっちの話」
そこからお姉さんは近寄ってきて私の腕を掴んだ。
どうやら樽から引っ張り出してくれるらしい。
良かった、これで取りあえず漬物にならなくて済む。
お姉さんのおかげでようやく身体が少し樽から浮いた所で、名乗ってない事を思い出した。
「あ、私は神埼っていいます」
腕を引かれて身動き取れないまま名乗るとお姉さんは急に腕を放した。
「あいたッ!」
急に手放されてまた漬物樽に逆戻りする羽目になった。
そんなお姉さんはと言うと目を見開いてよろけていた。
何もそこまで驚くことはないと思う。
「……?! ならこれって、まさ……。嘘でしょ……」
何やら私には全く分からないけどお姉さんは混乱しているらしい。
何かまずい事言ったかな……。
私が考え込んでる間にお姉さんは立ち直ったらしく、深く溜め息を吐いて微笑んだ。
「私は・ウィンスコット。って呼んで。……私は何となく事情が読めたよ」
本人に許可貰った事だしと呼ぶ事にするけど、は今度こそ腕を引いて樽から脱出させてくれた。
それから無造作にジーンズに差し込んであった木の棒を振った。
その行動の意味は全く分からなかったけど、その瞬間に私のお尻のシミもヌカも綺麗になくなってしまった。
「えぇ?!」
「あー。、いいからここに座って」
何が起こったか分からぬ内にテーブルに座らされ、また棒を振ると急にティーセットが現れた。
一体なんのマジックだ?
まるでホントの魔法みたいだ。
は向かいに座ってお茶を入れ始めた。
「色々聞きたい事はあるだろうけど簡潔に言うとここはイギリス。だけどがいた世界のイギリスではない。
次に私は魔法使い。マジシャンではない」
「……えと、」
疑問だらけだ。むしろ簡潔過ぎて分からん事だらけ!
世界って魔法って・・・。
「要するに、魔法の使える異世界に居るって事だよ」
「…………は?」
さすがにそんな馬鹿げた話、信じられる訳もない。
事故で死んだ事すら冗談にしか思えないくらいなのに、これ以上そんな冗談はいらない。
むしろホントに私、死んだのか?
何となくを窺えばは私の考えがまるで見えてるように首を振った。
「All are true.」
その言葉に私は絶望した。
天国にしろ、異世界にしろ、私はもうあの家には帰れない。
の言葉はそれを物語っているような気がした。
何故だかの言葉は事実だと思えた。
会ったばかりで何も知らないけれどなら信じられると思ってしまったのだ。
もう女子高生の直感としか言えない。
確かに異世界やら魔法やら常識外れな事ばかりだが、が言うのだから嘘ではないんだと思う。
それでも私が否定したのは、そうしなければ帰れない事を受け入れなければならないからだ。
その理由も真実を知った今、必要なくなってしまった。
というか、そんな申し訳なさそうな顔をされたら私の方が悪い事をしているような気になる。
は考えを押し出すように前髪をかきあげて苦笑した。
「信じられないのも無理はないけど、、今いくつ?」
「……17歳」
「ふむ。日本人だとしても8歳前後がいいトコだね」
パニックの所、申し訳ないんだけどね、と付け足しながらは再び例の棒で姿見の鏡を出した。
そこに映っていたのはどう見ても小さい頃の私の姿で高校生の神埼は影も形もなくなっていた。
絶句とはこういう事を言うんだと思う。
「ホントに異世界……?」
もう。認めるしかなかった。
これから私にどうしろと言うんだ……。
「正直、私も混乱してるんだ。がここに来た経緯は何となく分かるんだが……」
「あの、何では私の事を知ってるの?」
それはすんなり出て来た疑問だった。
だっていきなり漬物樽に突っ込んでる子を見て、状況を理解し身の上が分かるなんて不思議以外の何者でもない。
それも魔法の力でどうにかなるんだろうか?
思わず口を突いて出た言葉にはキョトンとして考える素振りをしながら言った。
「うーん。要するに先見の力なんだけど。予知夢とかあるでしょ? あれと同じで家系的にそうみたいなんだよ」
それから私はを質問攻めにした。
わからない事だらけでホントにいろんな事を聞いたけど、は嫌な顔をせずに全て答えてくれた。
魔法界はまるでおとぎ話のようだった。
魔法を使えない人をマグルと呼んだり、魔法でも出来ない事もある事を知ったり不思議な感覚だった。
どれだけ時間が経ったのか、冷えた2杯目の紅茶を飲み干した所で戸を叩く音がした。
「全く、いけ好かない爺さんだ」
は誰が来たのか知っているようで、眉間にものすごく皺を寄せて扉を開けた。
「ほっほ。そろそろかと思うての」
半月眼鏡を掛けた白い髭のお爺さんが戸の向こうに立っていた。
は溜め息をついてお爺さんを中に通し、お爺さんはニコニコしながらの席の隣に掛けた。
その時になって私はいつの間にかカップが3つに増えている事に気付いた。
「じゃな? ワシはアルバス・ダンブルドア。ホグワーツ魔法魔術学校の校長をしておる」
「あ、はい。神埼と言います」
戻ってきたは校長の隣に座り直したが、どうも機嫌がよくなさそうだ。
ホグ何とかとやらは気になるとしても魔法界は何でも有りなんだと言う事で納得する事にした。
だって思いっきり外人の校長が流暢に日本語喋ってるし。
それにどうやら校長は私に会いに来たらしい。
「なるほど、なるほど。この紅茶にはジンジャークッキーが合うのう」
「ここにはありませんよ」
「ほっほ。心配無用じゃよ、」
校長は例の棒を振ってクッキーを出した。
溜め息を吐いたは自棄を起こしたようにそのクッキーを頬張った。
それを嬉しそうに眺めていた校長は私にもクッキーを勧めて自分も食べ出した。
「して今後の事なのじゃが、異世界からとなると知り合いもいない。
と言って8歳前後の女の子を放り出す訳にはいかん」
実の所、それは私も気になっていた事だった。
ここがあの世界と違う場所ならばこれからどうして行けばいいのかすごく不安だった。
けれどもそれ以前に、まるで見ていたかのように淡々と話す校長に驚くしかない。
口髭を濡らしながら紅茶を飲むお爺さんをまじまじと見ていた私を見かねてか、
が何でも見通してる不思議爺さんだから気にしたら負けだ、と小さく耳打ちしてきた。
「そこでじゃ。、お前さんがを引き取ればいいではないか」
ナイスアイデアとばかりに嬉しそうに何度も頷いてる校長に私とは開いた口が塞がらなかった。
手にしていたカップを落とさなかった私の手をほめてあげたい。
最初に我に返ったのはだった。
「はー?! 自分が何言ってるのか分かってるの?!」
「もちろんじゃ。まだ耄碌はしておらんよ」
「でも、この子は……!」
「や、お前さんに育ての親がおったように、にも親が必要なのじゃ」
諭すように言った校長の言葉には息を詰まらせた。
私には何が何だか分からない会話ばかりで二人を交互に見つめるしかなかった。
不安そうな私を見てか、少ししてから大きく息を吸ったは苦笑いして申し訳なさ気に言った。
「引き取りたくない訳じゃないんだが、少々事情があるんだ」
そんな所まで迷惑を掛けられるはずもなく首をブンブンと振った。
それでもは唇を噛み締めて眉間に皺を寄せて見てくる。
埒が明かず悩んだ末に校長に視線を向けて助けを求めたが、ただただ微笑むばかりだ。
その内に深い溜め息がから漏れて振り向けば、は笑っていた。
「私はね、未来は無数にあって些細な事で変えられると思っている。
さぁ、選びなさい。さえよければ私の家族にならないか?」
何故だか無性に泣きたくなった。
それは見知らぬ世界で優しく手を差し伸べてくれる人が居たからかも知れないし、
がどことなくママに似ていたからかも知れない。
優しい目をして縋る手を差し出してくれたこの人の手を誰が振り払えるのだろう。
溢れそうな何かを胸の内に押し込めて私は顔を上げて笑った。
「よろしくお願いします」
新しい家族になったその人の横で、微笑む校長の眼鏡が光った様な気がした。
ひとやすみ
・さん視点は楽しいけど難しい!
が話した英語。上から順に。
何が起こったの?誰かこれ説明して……。
全て真実だ。
翻訳英語なのは許して!私は英語なんて喋れない……!笑(08/11/09)