でたらめギミック


00. Overture.


ドリーム小説

今日もまた変わらない日々の幕開け。
少し肌寒い中、朝の気ダルさを感じながら瞼を開ける。
ベッド際に置いてある携帯に手を伸ばして時間を見ると
毎日同じ時間に鳴るようにセットしておいたアラームが鳴る直前だった。



「よし、今日もパーフェクトってね」



ひんやりとしたフローリングを裸足で歩いて洗面所に向かう。
水の冷たさに気合を入れて顔を洗ってリビングに足を運ぶと
新聞を読むパパとフライパンを持つママが笑顔で迎えてくれた。



「おはよう、ご飯できてるよ」
「作ったのは私なんですけど?」



パパが新聞を片付けながら言うとママが不服そうに頬を膨らまして呟いた。
うちのママは私が言うのも何だけど美人で何をしても様になる。
年甲斐もなく頬を膨らまして似合うなんてちょっとずるい。
私はどっちかと言うとパパ似だから心の中でパパを恨んでみたり。

ママは所謂、外人さんでイギリス生まれだそうだ。
パパがどうやって国際交流したのか気になって仕方ない。
どうやって純日本人のパパがママと知り合ったのかと何度聞いても
天使が空から降ってきたんだよとしか言わない。
このバカップルめ。

楽しそうな両親をよそ目に、私は目玉焼きの乗ったトーストを口に運ぶ事に集中した。
小さい頃に見た某映画で少年が目玉焼きの乗ったトーストを食べているのに衝撃を受けて以来
私はいつも朝ご飯にこれを食べている。
私のはベーコンエッグと映画より豪華なんだけど。ごめんよ、パズー。

いつも見る朝のお天気姉さんの声を聞きながら
家族で他愛ない話をいくつかして時計を見るとそろそろ学校へ行かなきゃ遅刻の時間だった。
立ち上がって鞄を手に取るとママが小走りでやってきて折り畳み傘を差し出してきた。
思わず窓の外を見るといつもの様に窓から光が差し込んでいた。
そんな私の気持ちを察したようにパパが続ける。



「今日は晴れって天気予報で言ってたぞ?」
「あら? 天気予報なんてアナタの約束と一緒よ」



ママは首を思いっきり振って腕を組んだ。
まるでクイズのような口ぶりに私も不思議に思ってママに聞き返した。



「その心は?」
「嘘ばっかり!」



ママが似合わずも眉間に皺を寄せてパパを叱る様に見つめるとパパはコーヒーを噴いた。
ママの肩越しに見えるパパは、昨日破った約束を思い出してか、急に慌て出したから思わずママと一緒に笑ってしまった。



、持っていく? 持っていかない? 選びなさい。どっちを選んでもいいのよ?」
「有り難く頂戴いたします」



私は平伏して傘を受け取ってママの後ろで必死に謝ってるパパを憐れみながら家を出た。
空は青空、陽は眩しく雨なんか到底降りそうにない。
急に静かになった家の中ではきっとパパがキスして許しを請うたのだろう。
ホントにうちの両親は……。

家を飛び出して大通りまで出ると同じ制服を着た子達がちらほらと見える。
みんな一様に急いでるように見えて何だか仲間が増えたような気がした。
歩道橋を渡り、通いなれた道を歩いていると急に頬が濡れたような感じがした。



「ママ正解」



空は晴れているのに急に大雨が降り出した。
急に降り始めた雨に、道行く人は頭に手を翳して走り抜けて行く。
道の真ん中でモタモタと傘を出しながら予報について考える。
ママの勘は信じられないくらい良く当たる。
交通状態の悪い道を避けたり、迷子になったペットを見付けたり、その実績は数知れず。
天気予報なんてお手の物だ。

ようやく広げた傘の陰に灰色の猫がちらりと見えた。
大人しく座ってこっちをジッと見ているその瞳の色は赤茶色をしていた。
何だか吸い込まれるような瞳に私は傘を差すのも忘れて茫然と眺めていた。

すると急に世界が眩しく光り、猫の瞳も不気味に赤く光っていた。
光の根源を確かめようと翳した手の隙間から覗き込むがすごく眩しくて分からない。
眩しい光の正体が眼前に迫ったトラックのヘッドライトだと気付いたのは鋭い衝撃と宙を舞う感覚がした後だった。
トラックに身体が跳ねられて思ったことは呑気にも事故った時は世界がスローになるってホントなんだって事だった。
不意に道脇にいた猫が目に入り、真っ赤な瞳を煌かせて笑っている気がした。




あぁ、ごめんパパ、ママ。




私、死んだ。


 ひとやすみ

・ポタ連載、頑張りますvv(08/11/05)