ドリーム小説
維龍襲撃の日、陽子は吉量という騎獣に乗り、雁の王師軍と共に関弓を発った。
百二十騎の精鋭部隊が雲海の上を駆け、陽子も尚隆と並んでその中を走る。
偽王軍の拠点である征州都維龍を急襲し、景麒を助け出すためだ。
「こちらが百二十、維龍には五千。まぁこの兵力差は話にならないが、こちらの目的は景麒だけだ。
連中に偽王だと疑わせられれば上々。州侯の三人ばかりが目を覚ませば、一気に形勢は逆転するが・・・」
尚隆の言葉が別行動の六太達に向けられていると陽子が覚る前に、威嚇するような咆哮が耳を打った。
二人の近くを飛んでいた体躯の白い狼が牙を剥き出して尚隆に唸るので、傍を固める兵士達にも緊張が走る。
自分達に付いてきた狼の言葉は分からないが、陽子は何となくその怒りの意味が分かった気がした。
「そうだな。あちらにはが付いているし、必ず州侯を説得してくれるはずだ」
「いや、別に俺は疑っている訳ではないぞ?」
当たり前だと言わんばかりに鼻を鳴らしたに陽子は苦笑した。
滅多なことは言えんなと溜め息を吐いた尚隆に、ようやく周りの兵達も息を吐いた。
しかしおかしな縁があるもんだと尚隆は思う。
「と初めて出会った時、面白い海客だと思ったが、まさかあんな成長をするとはな。
やはりあの時、口説いておくべきだったな」
その直後、激怒の咆哮が天地を裂くように轟き、再び兵士達は飛び上がった。
怒り狂うとは裏腹に陽子は戦前の緊張が吹き飛び、目の前のおかしな光景に噴き出した。
***
陽子達が維龍へ発つ少し前、玄英宮では議論が紛糾していた。
陽子が前線に出ると言い出し、楽俊も行くと言って聞かなかったのだ。
自室に荷を取りに行って帰ってくるまでには解決しているだろうと思っていたは、未だに続く揉め事に呆れた。
業を煮やした六太が振り切るように叫んだ。
「あーもう!陽子は尚隆と出て、楽俊は俺と来る。これで決まり!」
半ば自棄っぱちな六太に、陽子と楽俊は顔を見合わせて頷いた。
ようやく落ち着いて皆が息を吐くと、慶の州侯を説得に回る六太・楽俊組はすぐにでも出発すると言い出した。
確かにここから慶は遠いので説得に行くなら早い方がいい。
「じゃあ!いい返事期待して待っててくれな!」
「え?私、残りませんよ?」
「「「 はぁ?! 」」」
思わぬ所から批判の声が上がっての方が驚く。
残るなんて一言も言ってないのに何で残ること前提にされてる訳?
怪訝そうな顔をするに尚隆が声を掛ける。
「陽子を守るため付いて行くとか言うつもりじゃないだろうな」
「まさか!私、超絶弱いので戦場なんか出て行ったら瞬殺ですよ!それくらい弁えてます」
「じゃあ、おれ達と行くのか?」
「はい。交渉なら任せて下さい。じゃなきゃ何のために必死になってこの資料作ったか分からないですし」
大量の荷物をペシペシ叩くにはここ数日の徹夜の意味をようやく知った。
物凄い形相で何をしているのかと思えばそんなことを・・・。
それから不意にはと目が合って思わず瞬く。
「は主上と行って。必ず二人とも無傷で帰って来るのよ」
「待て!私はと・・・!」
「」
「・・・っ」
暗緑色の瞳が強い光を放ち、は黙り込むしか出来なかった。
まさかここに来て別行動を取らされると思わなかった。
心は反対しているが、主に逆らえない悔しさを飲み込んではキッと六太と楽俊を睨んだ。
「いいか、そこの黄猿と鼠!に怪我などさせてみろ。その毛皮、敷物になると思え!」
「ひぇ?!」
「あのなぁ!前々から思ってたがその黄猿っておれの事か?!」
「何だ。猿でないなら馬か?鹿か?」
「はいはい、喧嘩しない!陽子、景麒をお願いね」
騒がしい六太と楽俊の背を押して達が出て行くと、陽子は漠然とした不安に駆られた。
これをどうしろって言うんだ・・・?
すでに視線で激しくぶつかり合うと尚隆に陽子は小さく溜め息を吐いた。
* ひとやすみ *
・陽子の苦難話。笑
適材適所で振り分けた結果なんですが、まさかの組み合わせに。
いや、だって、陽子側にヒロイン持っていくとそこで玉簪終わっちゃいそうで。怖
いろいろ面倒ながらもこんな形に落ち着きました。
さて、赫耀編もそろそろラストです! (10/04/07)