ドリーム小説
一体何が起こっているのだろう?
今の王が長く治めている雁は滅多に妖魔が出ないと言うのに、妖魔が群れて街に降りるなんて何かがあったとしか思えない。
鳥のような妖魔の尾には毒があるから気を付けろと注意すると、はを背に乗せたまま同じように街へ降りた。
そこには夥しい数の妖魔の亡骸が転がり、石畳は血に塗れていた。
暗く視界の悪い中、鮮やかな赤色が剣を片手に先程の妖魔と青い牛のような妖魔を相手にしてた。
おそらくあの赤い髪を高く結った少年がこの亡骸の山を作ったのだろう。
近くで心配するように少年を目で追う鼠の形をした半獣がいる。
が石畳に降りるとはすぐにその背から飛び降り、は少年を助けに地を蹴った。
「ねずみさん、怪我はない?」
「おいらは無事だが、陽子が・・・!それにあんたは・・・?」
「私は。あの狼は。あれもまぁ半獣みたいなもんよ」
ふと戦闘態勢にある少年をは目を凝らして見つめる。
・・・女の子だったのか。
鮮やかに太刀を振るう少女は袍を見事に着こなしているため、全然気付かなかった。
男装の麗人、何てカッコいい。
それに比べて、嬉々として二尾と爪を振るって妖魔を吹き飛ばしてる白い相棒に溜め息を吐く。
さらにわらわらと出てきた猿の妖魔を見るとは困惑したように眉根を寄せた。
するとハッと鼠が息を呑む音が聞こえ、顔を上げると妖鳥の毒のある尾が陽子の目の前に迫っていた。
思わず身を乗り出した瞬間、豪快な太刀筋が見え、気が付けば妖鳥も青牛も猿も一気に数が減っていた。
見覚えのあるその美丈夫には思わず歓声を上げた。
「延お・・・尚隆さん!!」
その声にも気付いたのか猛烈に残りの妖魔を蹴散らし始めた。
うわー、めちゃくちゃ怒ってるよ。
だから何でそんなに仲悪いの?
とても強い延王と陽子と言う名の少女、そして怒りで我を忘れてるの三人に掛かれば妖魔の群など瞬殺だった。
全ての妖魔が地に伏せ、延王と少女がに剣を向けたので慌てては止めに走った。
「待って待って!尚隆さん!」
「?!」
「そんなの向けたら本気でに殺されちゃいますよ!」
と尚隆が騒いでいる後ろでほたほたとやって来た鼠と陽子が首を傾げていた。
妖魔の毛で血を拭った陽子の剣はキラリと光を反射しての目を刺激した。
眩しさに目を細めた直後、急にの視界を白い靄が包み込んだ。
気が付けばそこは容昌の街ではなく、濃い霧の広がるどこか別の場所だった。
霞の奥には人が二人いて、聞こえてくる声はどこか懐かしい。
が近寄るたびに足元でピチョンピチョンと水音がする。
顔が見えるくらいまで近付けば、はようやく二人が誰なのか気が付いた。
亡くなったはずの紗亥と自分だった。
短い槍だった水禺刀を肩に乗せられ、緊張している自分がそこにいた。
これは杜憐泉の称号を戴いた時の任命式だ。
まるで他人のようにその様子を眺めながら、過去の自分を見つめる。
『。そなたに杜憐泉の称号を与える』
『ありがたく頂戴いたします』
手渡された水禺刀を覗き込んでいる過去のは驚いたように足元を凝視している。
そうだ。
あの時、私は足元の水に誰かを見たのだ。
は薄れ行く靄から視線を離して、ピチョンと音のした足元を見た。
あの時、私が見たのは・・・。
足元の波紋の奥を探るように目を凝らせば、水は真っ赤に染まりさらにその奥には綺麗な翡翠がを鋭く射抜いた。
ざぁっと音がするように霧が晴れると目の前に尚隆が立っていて、の心配するような声が頭に響く。
あぁ、また簪の記憶を見ていたのだと理解した途端、目に飛び込んで来た赤色に思わずは目を見開いた。
突然、動きも話もしなくなったの様子を窺う陽子と鼠には微笑んで口を開いた。
その様子にギョッとしたのは全員で、は涙を溢しながら笑っていた。
「あなただったんだ、」
それだけ呟いてふらりと倒れたを尚隆が受け止め、は慌てて人へと戻った。
何がどうなっているのか誰も分からぬまま、一行は尚隆に導かれて場所を移動した。
***
が目を覚ましたのは尚隆達が宿に入ってすぐの事だった。
寝台に寝かす暇もなく目を覚ましたをは強引に寝かし付けようとしたが、
は先程のことを不意に思い出して尚隆の声がする部屋の方へと駆け出した。
尚隆が手にしていた刀を目にしたはどこか遠くで水音を聞いた気がした。
「それがどういう代物だか知らないのか」
「どういう代物、って」
「それは水禺刀というの」
倒れて間もないはずのが室に入ってきて尚隆と陽子、鼠の三人は驚いた。
の身を案じて追いかけて来たはずのもここにあるはずのない宝重を見付けて目を見開いた。
まさかと驚くを余所にはするすると陽子に近付くと水禺刀の説明をし始めた。
それを補うように尚隆の言葉が続き、そこで初めてはこの三人の事情を知る。
「この楽俊が、わたしを景王だと」
「間違いないわ」
「あぁ」
「どうやらそのようだ」
三人が全員肯定した上に隣の楽俊という名の鼠まで頷くものだから陽子は困ったように尚隆を見た。
水禺刀は慶の宝重だ。
景王にしか使えない物だと説明しても陽子は頑なに信じなかった。
それは陽子が海客だからか、王になりたくないからかには分からない。
「あなた達は何者?」
「俺は小松尚隆という。称号でいうなら俺は延王だ。―――雁州国王、延」
「私は高峰。称号でいうなら杜憐泉。慶の秋官です。私はあなたに仕える為に海を越えてやってきたんです、主上」
陽子は尚隆にギョッとし、尚隆はにギョッとしていた。
そしてもう一人、呆然と最敬礼で陽子に頭を垂れる主を見ている簪の化身がいた。
がこちらに渡ってから慶は数人の王を迎えた。
しかし、今までが王に向かって「主上」と言った事は一度も無い。
・・・あぁ。
ようやくお前は見付けたのだな。
は主が呼ぶ懐かしい響きに静かに目を閉じた。
* ひとやすみ *
・はー!ようやくここまで!!
てか鼠や鳥、牛という文字が乱舞しすぎて何だか面白い事に!笑
原作に無理矢理ふたりの出会いを盛り込んだら尚隆がオマケみたいになった!笑
あれー?延王様メインのカッコいい場面のはずなのになー? (10/02/17)