ドリーム小説
王に残された麒麟に出会うのは何度目だろうか。
正直、気分のいいものではないし、どう接したらいいか分からない時がある。
ましてや今度はあの仏頂面なくせに意外と神経質な景麒なのだ。
放っておく訳にはいかないだろう。
報せを聞いた直後、は腹を括って自室に戻り荷物を纏めた。
いろいろと疑問が残っているらしい桓魋とがついて来たが、はそれを完全に無視。
付き合いも九十年を越し、の性格が分かっているは溜め息一つで説明を諦め、黙って主に付き添う事にした。
あの手この手で桓魋を撒き、は浩瀚の部屋の前に立つと小さく扉を叩いた。
少し疲れた声が返って来て中に入ると、浩瀚がいつもの笑顔で出迎えてくれた。
「州侯、突然で申し訳ないですが、暫しお暇を頂きたく参りました」
「・・・どういう事ですか、」
笑顔が掻き消えて目を細めた浩瀚はようやくの話の重大性に気付き佇まいを直した。
空位になり忙しいのは分かっていたが、が居るべき場所は麦州城ではない。
問うような鋭い視線を向けられたはしっかりと浩瀚を見据えて口を開く。
「ここに来てまだほんの少ししか経ってないけど、政は州侯に安心して任せておけます。
官吏は民のためにあれと言いますが、そこにあなたがいるのなら私は王や景麒のために走り回ります」
朝は民のために王や麒麟が居なくても走り続けなければならない。
けれど一人その輪から放り出された景麒はこれから孤独な道を迷走しなければならないのだ。
全ての官吏が民のためならば、一人くらい王や麒麟のための官吏がいてもいいではないか。
の強い瞳の力を見た浩瀚は見定めるかのように目を細める。
「ならばお行きなさい。ですが覚悟を決めた以上、何があっても振り返らずに進むのですよ」
浩瀚にはが背負っている物が何なのか分からなかった。
けれど何か自分が口出ししてどうにかなるような物ではないような気がしていた。
使命感たっぷりに宣言したは浩瀚の言葉を聞いて目を輝かせて返事を返した。
その直後、再び部屋を叩く音がしたと思ったらが入って来て、その背後の人物を見て思わず浩瀚は立ち上がった。
「台輔!!」
「来たのね、景麒。州侯、少しの間この室をお借りしてもいいですか?」
すぐさま浩瀚は頷き、憔悴しきっている景麒と、の三人を部屋に残して立ち去った。
***
自分が床に伏してから主上は泣いてばかりだった。
思えば、笑っている顔など随分見ていなかった気がする。
自分が口下手で人と係わるのが不得手だと承知はしていたが、そのせいで主上は闇へと堕ちていった。
半身であるのに言葉でも態度でも何一つ救うことが出来ず、気が付けば私だけが取り残され私は唯一の光を見失った。
やはり彼女を見出したこと自体が間違っていたのだろうか。
私のせいで彼女は自ら命を投げ捨て、私のせいでまた慶が荒む。
深い海の底へと沈んで行くような苦しさを感じながら途方に暮れていると、ふと彼の人物に言われた言葉を思い出した。
『私はいつか私が仕えるべき人のために慶を守ろうと思う。私はアナタの力になりたいの』
縋れる物があるならば何でもいいから縋りたかった。
彼女は自らを杜憐泉だと言ったが、確信があった訳でも、信じていた訳でもない。
だけど少しでも楽になりたい一心で気が付けば、がいる麦州へと駆け出していた。
「・・き!・・・景麒!聞こえてる?」
「・・・?」
目の前でが溜め息を吐いているのを見た景麒は自分のおかれた状況に眉根を寄せた。
両頬はに掴まれているし、僅かにヒリヒリする感覚に叩かれたのだろうと思う。
の背後に呆れたような顔をしているが見え、ようやくここが麦州城だったことを思い出した。
「もう!抜け殻になってる場合じゃないわよ!」
「抜け殻・・・」
「そう!『王様いない。僕もうダメ』そんな顔したって妖魔は待ってくれないし、誰も聞いちゃくれないよ。
文句もあるだろうけど麒麟に生まれちゃったんだから仕方ないって諦めなさい」
「・・・おい、。お前ウチの麒麟を使い物にならなくする気か?」
呆れ返ってるに心外だと怒るを見て景麒は目を瞬いた。
今まで多くの官や女仙が景麒を気遣う言葉を掛けてきたが、ここまでバッサリと諦めろと言ってきたのはが初めてだった。
の言葉はきついがそれは事実でもあった。
実に小気味のいい言い方に景麒は小さく噴き出した。
それをキョトンとして見ていた二人は咳払いをして、話を元に戻した。
「えと、だからね?次の王を選ばない限り、誰も景麒を手伝えないわけ。落ち込むのはそれからにしなさい。
でも私は景麒だけが悪かったなんて思ってないわよ?寧ろあの悪鬼巣窟のが性質悪いわ!・・・というかね、
選んだ俺悪くなーい。王気があった舒覚様が悪いんだーい!て言い捨てるくらいの根性持ちなさい!」
最後の方は完全に逆ギレ状態のにも景麒も開いた口が塞がらない。
の何度目かの溜め息で、景麒はおもりが付いていたような心が軽くなっていたことに気付いた。
きっと自分はが言うような根性は一生持てないだろうが、おかげで目が覚めた。
私にはまだやる事がある。
目の前のがあの杜憐泉だとはまだ信じ難いけれど、何だか不思議な力を持っていると景麒は思わず頬を緩めた。
「あ、笑ったね?よし、なら大丈夫!蓬山に顔出して王様見付けておいで」
「すぐとはいかないでしょうが、必ず」
「うん。慶は任せて。私は下で成り行きを見守るから」
何をするとも言った訳ではないが、が慶にいるなら大丈夫だと景麒は頷いて颯爽と部屋を出て行った。
来た時とは全く違う表情に擦れ違った浩瀚は目を瞬き、は笑顔でその背を見送った。
* ひとやすみ *
・ひ、久々すぎてビックリした!!3ヵ月以上放置とかどうなの私?!
は清々しくて書いてる私の方が楽しくなってきます!
居場所を転々としてる辺り忙しないですが、あとひとふんばりしてもらわなきゃ!! (10/01/15)