ドリーム小説
前の官位や景麒の推薦を考慮して、浩瀚はに随分と位の高い職を用意してくれて、流石のもこれには驚いた。
しかし、やるからには全力で、と決めていたはテキパキと仕事をこなし、今度は浩瀚を驚かせたのだった。
麦州城に就任してから数ヶ月、休憩を兼ねてとは外の空気を吸うために州城の頂に立っていた。
慶から女という女は全て追放せよ、というとんでもない勅命が下って久しいが達はまだこの麦州城で働いている。
「桓魋、私、女の子なのにどうして誰も何にも言ってくれないんだと思う?」
遠い目をしたがポツリと呟いた声を同じくその場に居た左将軍の桓魋が聞き取る。
とて出て行きたい訳ではないのだが、女の身としては何も言われないのが少々複雑で。
苦笑した桓魋は頬を掻いてに視線を向けた。
「そう言えば、お前の戸籍は墨で黒くなっていたな」
「そう!州侯ったらは男だから此度の勅命は関係ありませんねって言うのよ」
「あの方は俺の戸籍も破り捨てるような人だからなぁ」
「ホント滅茶苦茶だよ。絶対あの笑顔で州司徒に性別の欄を塗り潰させたんだ。だから州司徒あんなに痩せこけて」
「いやいや、彼は前から痩せ過ぎなだけだろ」
まるで日常の会話のように淡々としているが、内容は要するに戸籍を詐称したと言うことだ。
なかなか食えない州侯の用意周到さには小さく息を吐いた。
***
が麦州城に馴染むのに時間は掛からなかった。
それがの長所と言えば長所なのだが、この州城が変わっている事も無関係ではない。
たくさんの人と関わり仕事を行く中で、どれだけ浩瀚が人に好かれ、いい仕事をしてきたか手に取るように分かった。
女追放の命が下り、形だけでも麦州から女達は消えなければならなかった。
ぞろぞろと女とその家族が慶から出て行くのを見送った時は、さすがの浩瀚も口を引き結び拳を握り締めて悔しがった。
だが、それでも民は浩瀚に期待を寄せて笑顔を向けていた。
こんな風に慶を作り変えることが出来れば、とは何度思ったことか。
小さく笑ったの声はきつくなった風に攫われていった。
「様!中央から火急の報せです!」
慌てて転がり込んできた官に不思議そうに首を傾げた桓魋を横目には深く溜め息を吐いた。
どことなくその報せの予想はついた。
軽く目を瞑ったに気付いたが視線を向けると同時に官は泣き叫ぶように口を開いた。
「景麒、失道!」
「何だと?!」
「・・・まだ続きがあるんでしょう?」
「っ・・・はい!主上が禅譲。今朝のことだそうですっ」
あぁ。やっぱり。
は何かと叫び回っている桓魋の声を追いやるように、空へ視線を向けた。
落ち着き払っているには低い声で問う。
「、お前、知ってたのか」
の声でピタリと止まった桓魋の視線を受けて、は風で靡く深緑の髪の軌跡を目で辿る。
そして小さな声で肯定の言葉を発した。
「失道と禅譲が同日なんて有り得ない。黙ってたのね、あの狸共」
「知ってたってどういう事だ?!」
「舒覚様に禅譲を薦めたのは私だからね」
***
金波宮ではすでに女官を排除しようという動きが見られており、その命はおそらく慶全土に下されると予想がついた。
中央ではそのせいで混乱が起き、最早これまでと決断した時、悲愴な表情を浮かべ痩せ細った景麒が二人の元を訪れた。
どうやらとが降格処分を受けたと耳にしたらしい。
「、どうか主上を・・・。慶を助けて下さい」
「台輔、私に出来る事はもう何もありません。私が女の身である以上、舒覚様に何を言っても無駄でしょう」
悲痛な表情を浮かべた景麒にも胸を痛めた。
舒覚はおそらくもう戻れない。
彼女が慶に出来る事は二つに一つ。
景麒と共に滅びるか、景麒を残して滅びるか、しかない。
は景麒にあの時言った言葉をふと思い出した。
あの言葉を違えるつもりはないとは景麒に小さく呟いた。
「だけど、私は景麒に慶を守ると約束した。舒覚様に説得だけはしてみる」
景麒は安堵の息を小さく吐いて、に微笑んだ。
だが、景麒はきっと気付いていない。
が説得するのは改心することではなく、禅譲だということに。
は景麒の権限で宮の奥にまで進んだ。
むしろ勝手に隠れて侵入したと言っても過言ではないが、景麒と一緒だったためにあっさりと入れた。
舒覚がいる部屋の扉を開け放ったは見る影もなく痩せこけた景王に目を細めた。
そしてと舒覚だけがその部屋に残された。
「初めまして、舒覚様。私は杜憐泉と申します」
「何なの?!どうしてここに女がいるの!!」
もはや狂気。
まともに会話する事すら出来ない様子の舒覚に胸を痛めながらも、は言葉を続けた。
「このままでは慶は滅びます。あなたは慶も景麒も民もみな殺してしまうおつもりですか?」
「ア、アナタもそう言って私の景麒を奪おうとしているのね!!」
「景麒は失道します。間違いなくあなたの手で。その時、どうするのです?そのまま景麒を殺しますか?
それとも禅譲し景麒を生かす道を選びますか?選択するのは景王であるあなたにしか出来ません」
「どうして私が景麒を殺すの?!出てお行きなさい!!」
一方的にしか話せなかった状況には目を瞑り、踵を返した。
外で待っていた景麒に小さく首を振り、はと共に金波宮を去ったのだ。
そして今、達は麦州城にいる。
「そっか。彼女に出来る最後の仕事をしたんだね」
「、お前まさかあの時、舒覚に・・・」
「おい!一体何の話をしてるんだ?」
事情を知らない桓魋にはニコリと微笑んで、これからが大変なんだよと言い、
風に攫われた髪を押さえながら真剣な目を州城の外へと向けた。
* ひとやすみ *
・熊将軍出しちゃった!ついでに仲良しだといいなという願望。笑
この辺りはサクッと行きたいものです。何せ暗い!
楽しいお話をブワー!!って書きたい。ブワー!!って。笑 (09/09/29)