ドリーム小説

それからの情勢は目まぐるしく変わっていった。

あの小さな泰麒は蓬莱より帰還し、一年も経たずに戴国へ下り、落ち着く間もなく政変が起きた。

戴王並び泰麒の行方は今も分かっておらず、その報せは景麒とを酷く悲しませた。

景麒の推薦でが官位に就いて数年、新米として扱き使われたはその実力と人望で順調にのし上がっていた。


しかし、国情は酷くなる一方だった。

呀峰が景王舒覚に園林を与えてから彼女はさらに表へは顔を出さなくなった。

最近では景麒に恋着し、周りの女官達を疎うようになったとの噂もある。

さらに追い討ちをかけるように青海沿岸に妖魔が出るようになりは大きく溜め息を吐いた。



官と言うものは私腹を肥やす奴が少なからずいるものだが、ここは悪鬼の巣窟だった。

昇進すればするほど画策や派閥に深く絡まり、泥沼に足を突っ込んだ。

先の呀峰はその最も分かりやすい部類だ。

景王に園林を差し出し、変わりに和州侯の座を得た。

上手いこと王を政から遠ざけたものだとは眉根を寄せた。

例え王や麒麟が倒れても王に罷免されない限り、官は残される。

どうやら国や政は二の次らしい。


呀峰が悪名高いのは有名なのに、それの物証を押えられないのは狡賢いだけだからじゃない。

誰かそれなりの地位にいる人物が裏にいなければ、成り上がりの和州侯が今も居座っていられるはずがないのだ。

侯位以上の誰か、か・・・。




「のし上がるのも楽じゃないな」




近寄ってきたが声音低く呟いたの声を拾って呆れたように息を吐く。

の持つ書物を受け取り、隣で思案に耽る主を見る。




「そうだ、。私もそう詳しくはないが、数日前に松塾が焼き討ちされたそうだ」

「松塾って義や道を説くっていうあの?」

「あぁ。どうやら人に道を教える者を厭う奴がいるようだな」

「・・・全く、どこもかしこも腐った人間ばかりね」




は大きな溜め息を吐いて、現状を嘆いた。

目に見えて慶が綻び始めているのが分かり、まもなく決断の時がやってくるなと憂いた。




「それでも私は景麒を、慶を助けるたい。今は這い上がる事だけを考えなきゃ」







***






「這い上がるって言ってたのに何で降格されてるんだ、お前は!」

「あー!人のせいにしてるけど、元はと言えばが上官にカボチャ男とか言うからいけないんでしょ?」

「便乗して、こんな馬鹿と一緒にするなんてカボチャに失礼だと言って左遷されたのはどこの誰だ?」

「・・・だって、ムカついたんだもん」




不貞腐れたように眉根を寄せたは小さく息を吐いた。

そんな子供染みた失態で中央を離れさせられた二人は新たな就任先へ足を運んでいた。

突然の降格、州城への赴任。

おまけに景麒の格別な計らいによりは州侯と面会する事になっていて、州城は大騒ぎだった。

しかし全く緊張の欠片もなく、州侯を待っている間も謁見の間で喋り続けている二人に周りの方が警戒している。

令尹の声で待ち人が来たことが知れたが、は目の前に州侯がやって来ても一切頭を下げなかった。

は驚き、周りは怒り、そして州侯は微笑んでいた。




「初めまして、殿。私が麦州侯、浩瀚です。景台輔の破格な待遇は

 麒麟の哀れみからかと認識していたのですが、どうやらそうでもなさそうだ」

「初めまして、麦州侯。最初に言っておきますけど、私、方針を変えたので権力に阿り、私腹を肥やし、

 画策するような人には仕えないと決めたんです。その上で私を返品するなり何なりして下さいね」




の発言にその場は一瞬で静寂に陥った。

誰も彼もがその単刀直入な言葉にポカンとしており、までもが可笑しな顔をしていた。

そんな沈黙を破ったのは他でもない浩瀚だった。




「あっはははは!なるほど。それでは中央にいられないはずですね。いっそ清々しくて面白い」

「私もここに来てよかった。景麒が私をここにやった理由が分かりましたから。あなたは中央に向いてない」

「お前、麦州侯に何て事を!!」




の言葉で周りの怒りが一気に爆発したが、浩瀚は周りを手一つで黙らせて楽しそうに見返してきた。

その様子を見渡してはその場に相応しくなくニッコリ微笑んだ。




「なぜそう思われるのです?」

「なぜってあなた中央嫌いでしょう?規律を無視してる事がいくつも。あそこの州師左将軍だって半獣でしょう?」

「!・・・それを密告し、中央へ返り咲くつもりですか」




一気に険悪な雰囲気になった中、を守ろうと警戒したが、当の本人はキョトンと目を瞬かせた。

一体、何でそんな話になるんだろう?

は首を振り、おかしそうに笑った。




「言ったでしょう?私、中央嫌いなんです。何であんな悪鬼の巣窟のような面白くない所へ

 好き好んで帰らないといけないんです?冗談じゃない」

「・・・、お前それでも一応官吏か?」

「いいのよ。その内、あいつ等一掃して私が改革してやるから」



の発言に転がされる麦州城の皆は何が何だか分からぬままを見ていた。

官吏にあるまじき、不敬なこの女は何だ、と。




も半獣みたいなものだし私は半獣追放に反対よ。それにもうあそこで私のすべき事は何もない。

 なら地方から変えていくしかないと思いませんか?ここに来てあなたを慕う官が大勢いるのを知りました。

 麦州侯、私はあなたの元で慶をよくするため働きたい。私の就任をお許し下さいますか?」




そこで初めて頭を下げたに浩瀚は参ったように天井を見上げて息を吐いた。

全てを曝け出して信用を地まで落とし、ここで就任を口にした事で、

浩瀚を仕えるに値する人物だと認めたと言っているようなものだった。

これ以上、に対する好感が下がることなく、むしろこれでは上がる一方だ。

周囲のを見る目が変わっていることに気付いた浩瀚は、面白い人材を送り込んでくれた景麒を思い苦笑した。

そして不敵な顔をして返事を待っているに浩瀚は心からの微笑みを返した。


* ひとやすみ *
   ・出しちゃった浩瀚!
    てかヒロイン降格って、何やってんでしょうねー・・・。
    遠ざかって景麒は泣いてる事でしょう。とりあえずカボチャ好きです!笑(09/09/01)