ドリーム小説

「ほう。これはまた可愛らしい杜憐泉よのう」

「お姉さんは誰ですか?」




甫渡宮付近で過ごす事、数日。

突如として青陽門が開き、を訪ねに物凄い美女がやってきた。

背後に数人の女仙を連れているのを確認したが目を細める。




「碧霞玄君か」

「さよう。玉葉と申す。よう来られた異世界からの客人よ。蓬山はそなたを歓迎しょうぞ」




反応に困っていたをあれよあれよと女仙が囲み、気が付けば蓬山の中枢へと招き入れられていた。

さすがに白兎と一緒には入れなかったため、暫しの別れをしては複雑に入り組んだ道を歩く。

壁の無い簡素な造りの宮に案内されて、落ち着かないように辺りを見渡していると見知った金が目に付いた。




「え、景麒?!」

「・・・・杜憐泉、殿」




失道の病に倒れていた景麒が、至って平然とそこに立っていた。

病が治る。

それは慶が建て直った事を意味しており、は嬉しさを滲み出しながら景麒に走り寄った。

代わりに眉根を寄せたをチラリと見た玉葉はに告げる。




「杜憐泉。女仙を迎えにやるまでゆるりと話でもなされよ」




しゃなりと絹をはためかせて玉葉は宮をあとにした。

残された達は近くにあった小卓に腰掛けて、久々の再会を喜んだ。




「景麒、治ったんだね」

「・・・全て主上のおかげです」

「よかった」




ニコニコとはち切れんばかりの笑顔を漏らすとは反対に、景麒はどこか顔色悪く淡々と返した。

事情をどことなく察していたはどうするべきかと主を見やる。

複雑な心持で思案している内に、景麒が口を開いた。




「・・・あなたは、全てご存知だったのか?」

「え?景王が慶を建て直してくれる事?そりゃ信じてたよ!景王は元気?」




どこか安堵したような、悲しげな顔をした景麒には初めて眉根を寄せた。

何か様子が変だ。

は空気の重たさに思わずを見たが、同じようにどこか悲哀の色を滲ませて俯いていた。




「・・・何か、あったの?」

「主上が、禅譲しました」

「ぜんじょ、う?」




禅譲とはその位を降りる事。

つまり景王は天帝に王位を返上したという事だ。

王は神籍に入るために一度死んでいるようなもの。

籍を返すという事がどういう事かゆっくりと理解したは俯く二人に緩々と首を振って立ち上がる。

激しく倒され転がる椅子を余所には二人から離れるようにして呟く。




「う、そだよ。嘘!だって景王はいい国にするために出来る事をするって・・・!」

「主上にとってそれが禅譲だったようです」

「おそらく紗亥は慶のために景麒を残したのだろう。慶果が実り、国に下るまでは時間が掛かるからな」




言葉を失ったは、ここに来て初めてこの世界の厳しい制度に向き合った気がした。

どこかで簡単に考えていたのだ。

王がいて、麒麟がいれば国が栄えて豊かになる。

その実、どこかで王が道を間違い、中から時をかけて崩壊へと向っている国がある。

何のための仙で、何のために朝があるのか、は安易に考えていた自分を悔いた。

王だってただの人で、間違うのだ。

起こってしまった事は覆りはしないけれど、その決断しか王に与えられなかった人達が憎らしい。

そして何も出来なかった自分に一番腹が立つ。




「景麒、国を憂えた主上のためにも良い王を探せ」

「・・・はい。必ず」




景麒は深々とに礼を言って、宮を出て行った。

その場には何とも言い難い空気が淀んでいたが、背を向けひたすらに黙り込んでいる主には声を掛けられなかった。






***






日が落ちようとしているのか辺りが薄暗くなって来た頃、女仙と共に玉葉が姿を現した。

全てを知っているように玉葉がどこか労わりの視線をに向け、その場に座らせた。

は今まで本当に一言も話さなかったを心底気にしていたが、は打って変っていつもの明るさで話し出した。




「えっと、玉葉様が来たって事は何か私に話があるんですよね?」

「あぁ。今、そなたの仙籍は私が預かっておる」

「何だと?!それではは・・・!」

「黙りゃ、簪の」




ピシャリと言い放った玉葉には不機嫌そうにしながらも黙り込んだ。

一体、天は何を考えているのか。

玉葉は口を開けっ放しのに向き直り、続ける。




であったな。そなたの立場は非常に厄介な所での。何せ異世界の客人であるから周りに与える影響が大きい」

「・・・私にどうしろと?」

「天帝はが玉京に仕える事をお望みじゃ」

「有り得ん!!コイツは・・・」

「全く、今度の簪殿は血の気の多い事。はそなたが思うておるようなただの海客ではない」

「・・・じゃあやっぱりお祖母ちゃんじゃなく、私が時間を越えた?」

「いかにも」




落ち着き払っているは目を見開いた。

は何にも執着しない。

おそらく流されるままに是と返して天帝の手足となるのだろう。

だが、はそれがどんなに大きな出来事で、どんなに厳しい者の下に就くのか分かっているのだろうか。

今まで見た事も無いくらい冷静で英明な様子の主に動揺を隠せないが喚くように言う。





「玉京に仕えるという事は天仙に、神の端くれになるという事だぞ?!」

「・・驚いた。更夜ってそんなに偉い人だったんだ」

!」

「・・・、ちょっと黙ってて」




暗緑の鋭い眼光を向けられては今度こそ黙り込んだ。

正確には、あの憐泉に似た力ある視線に声を失ったのだ。

一体、に何があったというのだろう。




「玉葉様、そのお話なんですけど・・・・・お断りします」

「・・・・・ほう。なぜじゃ?目的あって流れておる訳でもないそなたには悪い話ではなかろうに」

「その目的が出来たからです」




ついと細められたの目がキラリと光った。

唖然としていたは何かが変わった主を追うようにひたすら見つめる。




「私、慶に下ります。そのための号が私にはある」




は目眩がした。

号を厭い、何かに縛られるのを嫌い、自由奔放に駆け抜けてきた憐泉の孫が、自分から慶を選び取った。

それがただひたすらに嬉しく、ひたすらに切なく、ひたすらに不思議であった。

それを聞いた玉葉はあっはっはと大声で笑って、を見る。




「形は違えども、魂の器は同じか。よかろう。行くがよい。の役目果たして見せよ、杜憐泉」

「必ず」




は新たな決意を胸に、天に誓うように微笑んだ。


* ひとやすみ *
・衝撃の事実を知る。
 今一、蓬山の様子が分からないので皆さんの想像で補って下さい!(オイ
 この連載で初めてヒロインが大人に見えた瞬間。               (09/07/06)