ドリーム小説
「まさか白兎まで来てくれるとは思わなかったよ」
「私を捨て置いた薄情者だがな」
「まだ怒ってるの、ー?」
は心底震え上がっている白兎を憐れに思いながら、不機嫌そうなに苦笑した。
更夜と別れ、達一行はの背に乗って一気に蓬山へと駆け上がった。
砂漠を抜け、そこからは徒歩であったが、今までの旅が嘘のように思えるくらい楽な物だった。
長かった道のりもすでに終わりを迎えていた。
牌門を潜り、登山道を行けば拓けた場所に出た。
が言うにここが終着地で、目の前に見えるのが蓬山の離宮である甫渡宮らしい。
ここで麒麟は香をあげに来る昇山者を迎え、天意を見定めるのだ。
は誰もいない広場を見渡して、ここで次の安闔日を待つのかと安堵の息を吐いた。
騎獣よりも足の速いに乗って来たは、ほんの少し昇山者に対する罪悪感を感じながら仲のよかった少女を思う。
「珠晶は無事に旅してるかな・・・?」
***
の心配を余所に昇山者達は不測の事態に陥っていた。
紆余曲折しながらもここまでやってきたのだが、道の先に手に負えない妖魔が棲み付いているという印に
迂回をやむなくする事になった。
しかし、室は何を思ったか強行突破に踏み切った。
そして意見の相違で室の元へ身を寄せていた珠晶もまた、妖魔の住処へ飛び込んでいったのだった。
「あたしって本当にバカだわ。頑丘に大口叩いてどうして助けてあげないのなんて言ったけど、
助けないんじゃなくて、助けてあげたくてもその余裕がないんだわ」
黄海では何が起こるか分からない。
どんなに黄海に慣れた剛氏も、経験と知識を駆使して僅かに出来た余力で主人を守っているのだ。
今更理解した所で妖魔の住処の真っ只中な事には違いないし、どうにもならない事だった。
愚かな自分に溜め息を吐きながら、珠晶は一人来た道を戻っていた。
妖魔に襲われた際に室が置き去りにした人々と合流するためだ。
ただひたすらに歩き続けると、不意に人が息を呑むような音がした気がした。
駆け足でその先の窪地に駆け寄り、珠晶は声を掛けた。
「そこに誰かいるの?」
湧き上がったのは歓喜の声、珠晶は困ったように笑って彼らと合流したのだった。
***
珠晶を筆頭に彼らは妖魔に追われながらも前へと進んだ。
その途中、捨てられた室の馬車と家生達を見付け、役立つ物を探していた珠晶は油や酒、首飾り等の細工物に思案する。
妖魔は玉に酔うという。
それが駄目でも酒が使えるかも知れないし、上手くいけば妖魔に油をかけ火を点ける事が出来るかもしれない。
珠晶は人を集め、自分を囮に妖魔を狩る作戦を提案した。
片っ端から玉の付いた首飾りや簪を集めたり、武器を作っている時に、共にここまで来た鉦担が珠晶に声を掛けた。
「あの、珠晶様・・・」
「どうしたの?」
何だかすごく居心地が悪そうにしている鉦担に珠晶は作業を止めて、首を傾げた。
何かあったのだろうかと鉦担を見上げれば、言い難そうに口を開いた。
「先程の妖魔が玉に酔うという話をしていらっしゃる時にお出ししようかとも考えたのですが・・・」
「何なの、一体?」
「これを」
鉦担が懐から取り出した物を見て、珠晶は目を見開いた。
珠晶自身、見た事はなかったのだが、一瞬にしてそれが何か分かってしまった。
「の簪じゃないの、それ!」
「やはり・・・」
「どうしてあなたが?!」
豪奢な金細工の真ん中に角度によって色の変わる不思議な玉が飾られ、
見るからに派手なそれと鉦担との関連性が全く分からない。
鉦担が言うには、黄海に入る前に乾県で多量の食材の仕入れをした時に、おまけとして簪を押し付けられたとの事。
タダならば家公に渡す必要も無いかと持っていたのだが、が黄海に簪を探しに来たと後から知り
何度も言い出そうとしたが言い出し難く今の今まで持っていたらしい。
「それなのにさんがあんな事になって・・・。だからこれは珠晶様が持っていた方が喜ばれるはずです」
珠晶は差し出された簪に、を追って崖へ飛び込んだを思い出した。
その力強い言葉を噛み締めて、珠晶は静かに首を振った。
「は絶対生きてるわ。それはに返してあげてくれる?」
「・・・それならば尚更これは珠晶様がお持ち下さい。さんの無事を祈る珠晶様が持てば願いが届くでしょうから」
珠晶はおずおずと差し出された簪に手を伸ばした。
ずっしりと重い簪に珠晶はの無事と作戦の成功を祈った。
* ひとやすみ *
・予告通りぶっ飛ばしです。笑
そろそろ鵬翼編も佳境です。バラ撒いてきた伏線を回収していきます!
どうしてですかね、ヒロインより珠晶の方が大人に見えるのは・・・。 (09/06/28)