ドリーム小説

「つまりキミは簪の化身というわけだね」

「あぁ。ところで、。お前が説明しろと言ったからしたが、この男は何者だ?」




感動の再会を見ていた更夜に気付いたが、人妖発言を思い出して一触即発な雰囲気になったがは頑張った。

その場を取り繕うようにに説明させてようやく今に到る訳だ。




「何って、更夜だって」

「説明になっとらん」

「またの名を犬狼真君」

「・・・何?」




飄々としているに顔を顰め、は黄海の守護者だと言う青年を見る。

犬狼真君と言えば玉京に仕える天仙だろうが、一体こんな所で何をしてるのだろうか?




「天仙が気安く人と交わるとはどういうつもりだ?」

も仙だろう?」

「何を勘違いしておるのか知らぬが、はただの飛仙だ」




は眉間をさらに寄せ、更夜は目を瞬く。

はそんな二人をキョロキョロと見比べて、不思議そうにしていた。

もっとも本人は気付いていないが、が付いている時点でただの飛仙ではないのだが。




「私の早とちりだったようだね」




困ったように笑った更夜に溜め息を吐いたを見た途端、ピシリと動きが止まった。

話が一段落したので、振り返っただけなのだが、そこには何故か正座したの姿。

一体何が起こったというのだろうか。




・・・。私、覚悟は決まった。さあ!煮るなり焼くなり私を食べてちょうだい!

「・・・・は?」




気合いっぱいに叫んで地面に寝転がったを呆然と見ているのはだけではない。

むしろこんなに呆けている犬狼真君などもう二度と見れないだろう。

シーン、と静まり返ったその場には思い出したように我に返り、いつにも増して変な主人を見る。

返答に心底困ったが、この状況を打破出来るのはだけだった。




「遠慮しないでさあ!」

私にそんな趣味はない

「・・・何なの、キミ達」




何故かビックリしている、目を逸らす、溜め息を吐いた更夜。

三者三様の反応に気にせず、ろくたが欠伸をする。

しばらくしてが大きな声を上げて、に詰め寄った。




「え、だってあの時『玉が主以外の手に渡れば私も役目を終え、主を喰い殺す』って言ってたじゃん!」

「・・・・いつだ?」

「何で忘れてんの?!契約結ぶ前だよ!」

「・・・・あー。お前が玉を放り出して水浴びしてた時か」




気が狂ったようにキャンキャンと噛み付くに、は困ったように頬を掻く。

玉簪がの手元にない今、の役目は終わったと言える。

それであの言葉か、とようやく合点がいった所でを振り返る。




「あれはな、嘘だ

「・・・・は?」

「そうでもしなければ、お前、玉を失くしてしまいそうだったからな」




淡々と言い放つはフルフルと肩を震わせる。

じゃあ今までがいなくなるとか、食べられちゃうとか、必死こいて簪探してた私の苦労は?

よく覚えていたなそんな事、とが言った所では噴火した。




純真な私の心を返せー!!!





***





の裏拳で気絶していた白兎が目を覚ますと、は更夜に別れを告げた。

と合流したからには蓬山を目指すが、がいるので犬狼真君が道案内する必要がなくなったのだ。

不貞腐れ、未だに不機嫌なに更夜は笑った。




には私の上に落ちてきた強運がある。無事を祈るよ」

「更夜、ホントにありがとね。ろくたも」




がろくたの頭に手を置いてそう言うと、ろくたも喉を鳴らして別れの挨拶をする。

少し寂しそうに笑ったは更夜を振り返って呟いた。




「早く叶うといいね」




は何がとは言わなかった。

更夜はその意味を考えて辿り着いた答えの一つにまさかと目を見開く。

には何も言っていない。

黄海にいる理由も、王と交わした約束も。

知っているはずはないと思いながらも、どこかでその事だと確信し、笑顔で荷物を取りに行ったを見つめる。

残されたが苦笑したのが聞こえて、更夜は視線を向けた。




「不思議な奴だろう?馬鹿なのに時々核心を突く。おそらく本人も分かってないのだろうが」

「・・・だから私は彼女が号を持つと聞いた時、天仙だと勘違いしたのかもしれないな」

「あいつが号があるとそう言ったのか?」

「あぁ」




は一瞬何かを考えるそぶりを見せたが、すぐに更夜に主が世話になったと短く礼を述べた。

白兎が持っていた荷物を抱え、がこっちに来るのを目の端に入れながら、小さく笑ったを見る。




が自分から号の事を言うとはな。黄海で何があったのかは知らんが、餞別にあれの持つ称号を教えてやろう」




声を低くして、楽しそうにしているは去り際に更夜に囁いた。

その名に聞き覚えのあった更夜は目を見開いてを見た。

白い妖鳥を連れていたという慶の能吏の名に言葉を失う。

再び喉を鳴らしたは一瞬で白銀の狼に変化し、主と孟極を背に乗せた。

手を振るに振り返せば、狼に大きな翼が生え一行は黄海の空へと飛び立っていった。




「杜憐泉・・・・。数百年に一人と言われるほどのキレ者だったと聞いたが・・・」




数日共に過ごした快活な少女を思い浮かべると、更夜はクスクスと声を漏らして笑った。

杜憐泉が号であった事を知ったのは今しがたの事であるが、想像とのギャップがあまりに大きくておかしかった。

そしての中にその片鱗を見た更夜は、楽しそうに一つ頷いてろくたと共に踵を返した。




「うん。確かにに相応しい号だ」




行幸に会ったのは更夜か、か。

クスクスと笑いながら闇夜色の髪を泳がせて、黄海の守護はあるべき場所へと戻っていった。


* ひとやすみ *
、相棒と再会した途端にフルスロットルです!笑
 そして引っ張ってきたのにまさかの嘘。これ早く書きたかったんですよ!
 なのに35話にして繋がるって、私もお馬鹿のようです。             (09/06/22)