ドリーム小説

が更夜と一緒に黄海を旅して数日、昇山者達とは道は違えども着実に蓬山へ向って歩いていた。

その道すがら、、更夜、ろくたの三人の関係も変わってきているようだったが。


襲い来る妖魔を退けつつ、三人は深い森を進んだ。

ちまちまと流れていた川を辿れば、大きく窪んだ土地に水溜りが出来ていた。

まるで湖のような水に指を浸して口に含めば、無味無臭でどうやら飲める水らしい。

久々の飲み水を更夜が確保し、三者三様に気が済むまで喉を潤しても水量は揺るがない。




「ねぇ更夜、飲み水はもういい?」

「・・・いいけど、、キミは、」

良いって!行くよ、ろくた!

「ガ」




更夜の声を遮って、とろくたは目を輝かせて湖に飛び込んだ。

ザッパーン!と音を立てて溢れ飛び散った水は、縁にいた更夜を激しく濡らして辺りの土を湿らせた。

飛び込んだとろくたは水面から顔を出して楽しげに笑っていたが、雫を滴らせ無言で立ち尽くす更夜を見て固まった。






***






「遊ぶのは構わないけど、もう少し考えた方がいいよ、キミ達・・・」

「ゴメンナサイ」




落ち込んだように座り込むとろくたに、更夜は最近クセになってきつつある溜め息を吐いた。

濡れた服を木に引っ掛けて乾かしつつ、に似てきたようなろくたに頭が痛くなる。

更夜はにペースを崩されっぱなしの自分達を情けなく思った。

だが、同時にどこか楽しんでいる自分がいるから手に負えない。




「本当にに似てきて困る・・・」

「?」




更夜の心情も知らず、首を傾げてくるが何だか憎らしく見えた。

吹き付けた風にはためく衣服を見に更夜がとろくたの元を離れると、は隣の天犬に声を掛けた。




「犬狼真君って号は天犬の『犬』と、ろくたが狼っぽいから『狼』なのかなー?」




は首を傾げてみたものの、もちろん目の前の妖魔から答えが返ってくるはずもなく肩を落とす。

やはり更夜でなければろくたの言葉は分からないのだ。

言葉が通じない不便さと寂しさを感じて目を細める。




「簪失くしちゃったから狼のとも言葉通じないんだよね・・・」




果たして今、狼のと会話して心が通じるだろうか。

絆で結ばれているのが目に見える更夜とろくたがはほんの少し羨ましかった。

喉を鳴らしたろくたがどこか不思議そうにしている気がして、は何でもないと笑った。




「私が貰った号はねー、名乗らないって決めてるから秘密なの」

「それは残念」




背後から掛かった声にビックリして振り返ると、いつの間にか更夜が立っていた。

まだ少し濡れていたらしい服が今度はしっかりと木に結ばれているのが見える。

こっそりと聞いていた更夜には眉根を寄せた。




「どうして名乗らないの?」

「名乗らないんじゃなくて、名乗れないの」

「名乗れない?」

「・・・・・名乗れないよ、あんな大層な名前」




どこか不貞腐れるように呟いたに、更夜は首を傾げた。








***







乾いてパリパリになった服を着て、二人と一匹は旅路を進めた。

口数の少ない更夜と、意外と喋らない、天犬のろくたの旅は結構静かなものだった。

更夜の案内で道なき道を進み森を歩いていると、は静かな一行に物足りなさを感じていた。

これがこのメンバーでは当然でいつもの事だったのだが、不意にその正体に気付いた。




「珠晶のお喋りだ・・・」

「何、急に」




いつも凄い勢いで話していた珠晶が近くにいたので、静かな旅に物足りなさを感じたのだろう。

先を歩く更夜がチラリと振り返ったので、は苦笑しながら説明する。

もちろんろくたは聞いていない。




「珠晶は昇山しにきた子なんだけど、私より小さいのにしっかりしてて物凄い子。

 何だかすごい力を秘めてそうな子だから、王様に向いてると思うな」

「・・・王とは、そんなに甘くない」

「だろうね。でも面白い子だよ。更夜も珠晶と会ってみたら分かるよきっと」

「私は人には会わないんだ」




更夜の言葉に、じゃあ自分は何なんだ、とは首を捻った。

再度訪れた静けさに黙々と足を進めていると、ろくたの耳がそよぎ、それに更夜だけが気付く。

何もない方向をただ見つめるろくたを視界に入れて、更夜は立ち止まった。




、この先の様子を見てくるから、ここから動かないように」

「え?うん、分かった」




急に訪れた休息に素直に頷き、が近くにあった大岩に座ったのを確認すると更夜はろくたと足早に先へ進んだ。

残されたは先程とは違う沈黙に心寂しさを感じ、無意識に自分の膝を抱え込む。

風が森を走り抜け、まるで何かの生き物の声のように聞こえる。

いつも誰かが傍にいたのだと改めて実感して、膝に顔を埋めて更夜達の帰りを待つ。

ガサリと草木が揺れ、帰って来たと嬉しそうに顔を上げると、音は違う方角からしている事に気付いた。

何か来る、と身体を固くさせた途端、草むらに獣の眼が一対不気味に光った。







***






を残して来たのには訳がある。

道の確認なんかではなく、更夜の声が届かない妖魔がこの先にいる。

ろくたの唸り声が妖魔に近付くに連れて大きくなっていく。

何か得体の知れない物が気配を隠さずにこっちへ向ってきているらしい。

を巻き込む訳にはいかず置いてきたが、ウロウロしてないか変に心配していた。

また一つ溜め息を吐いた途端、ガサガサと大きな音を立てて揺れる草に身構える。

ろくたが毛を逆立てて咆哮した瞬間、草むらから素早い何かが更夜とろくたに襲い掛かってきた。


* ひとやすみ *
・ろくた懐く。と言っても、天犬なんで気分次第なんですけどね。笑
 濡れ鼠の更夜、怖かっただろうなー・・・。
 さて、襲われる、更夜、どうなる?!       (09/06/19)