ドリーム小説

えーと、何だか言い辛いんですが、です。

元気です。

むしろ、マヌケにも崖から足を滑らせて落ちましたが、無傷です。

いや、ホントに無傷なのかな?

この状況が飲み込めない私は、幻覚が見えちゃうくらいに頭をしこたまぶつけたのかも。




「空から人が降ってくるとはね」

「えーと、私、まだ生きてる?」

「今はね。こら、ろくた。まだ食べちゃ駄目

「・・・私の死体はすでに売約済みだから他をあたってね」




地面に寝転がるを覗き込む青年と赤い大きな妖魔が、何だか恐ろしい話をしていては泣く泣くそう呟いた。






***






が落ちたのが何を隠そうこの赤い妖魔、天犬の上だった。

天犬は背中の異物を振り落とし、青年と共に覗き込んだら人だったという訳だ。

青年はが涙声で呟いた言葉に興味を示したのか、面白そうに目を瞬いて起き上がるのに手を貸した。




「麒麟ではないようだけど、妖魔と死後の契約でも結んでいるの?」

「・・・まぁ」




妖魔みたいなものだからまあいいかとは白い狼を思い出しながら曖昧に頷いた。

皮甲を纏い、玉の披巾を持つ青年が天犬の首を撫でているのを見て、彼も似たようなものだろうかと考えた。




「助けてくれてありがとう。私は。あなたの名前は?」

「人には犬狼真君と呼ばれているね」

「・・・犬狼シン君?もしかして自分を君付けで呼んでるの?」

「・・・・いや、それは号で」

「え?名前じゃないの?号が犬狼真君だなんて、ご家族に犬か狼でもいる?」

「・・・・・・・・。」




青年は隠さずに顔を歪めた。

黄海では結構有名な号も、人が怖がる天犬も通用しない女を助けたまではいい。

だが、いかんせん話が噛み合わない。

自分の常識をすり抜けていく人間に会ったのは何年ぶりだろうと、目の前で嬉しそうに話すに溜め息を吐いた。




「―――更夜。更夜だよ、名前」

「こうや・・?それが名前?それならそうと最初からそう言ってくれればいいのに」




不満気な顔をしているに苛立ちながらも、更夜は素直に名乗った自分が酷く滑稽に思えた。

人に交わる事を止めた自分に、今更人に名乗る名前など必要ないというに。

大きな溜め息を吐いて、更夜はを助けた事を再び悔いた。






***





「それで、いつまで付いてくる気?」




更夜は自分の隣で焚き火に枯木を投げ入れるに目を向けた。

昇山者の群から逸れたというは、言葉を濁しつつ困った様に眉根を寄せている。

黄海の知識も殆んどなく昇山者にくっ付いて来たが蓬山までの道を知るはずもなく、

挙句に逸れて一人きりの状況で生き残れるはずがない。

だから天の恵みとばかりに更夜にくっ付いて来たのだが、そんな風に聞かれると答え辛い。

は炎の中で灰と化していく枯木を眺め、窺うように更夜を見た。




「だって、更夜はここに住んでるっぽいし。変わり者って言われない?」




枯木がパチンと踊るように爆ぜて音を立てた。

の誤魔化すように呟いた言葉に、また溜め息を吐かれたが更夜はの問いに答えてくれた。

溜め息が吐かれるのはこれが何度目かは知れぬが。




「玉京でもそう思われているらしいな。だが、私は生まれてからずっとろくたと一緒だったし、

 黄海にいるのだって・・・・」




遥か昔にした約束を彼らは覚えているだろうか。

不意に思い出した約束に言葉を切って更夜は黙り込んだ。

懐かしい記憶に思いを馳せていると、クスクスとした笑い声が聞こえての存在を思い出した。

何がおかしいのかと眉根を寄せるとは楽しそうに答えた。




「やっぱり更夜と私似てるかも」

「私とキミが?」




別に嫌がる事でもないはずなのに、更夜にはなぜかそれがすごく不快に思えた。

ろくたと共にいる事で受けた傷や苦労が軽んじられたせいかもしれないし、

更夜と正反対の性格のが妬ましかったのかもしれない。

理由など分からなかったが、その言葉に素直に頷く事は出来なかった。




「どこが?私は昇仙して号を戴いた。キミと同じではないはずだ」

「やっぱり。私も気が付けば仙だったし、理由があるんだけど一応私も号がある」

「キミが?」




更夜は驚きを隠さず、を見た。

少し食い違いがあるのだが、更夜はが自分と同じ玉京に仕える天仙だと思ったのだ。

困ったように笑ったは小さく頷いて言葉を続ける。




「私も妖魔みたいなの連れてるし、黄海に来たのだって昇山じゃない」




末尾がだんだん小さくなっていくに更夜はどんどん疑問を膨らませる。

一体、このという女は何者なんだろう?

天仙で妖魔を連れている奴なんて更夜は自分以外に知らない。

考えを巡らした所で、ずっとずっと昔に聞いた話を思い出した。




「・・・そう言えば昔、白い妖鳥を連れた人がいると聞いた事がある」

「ホント?」




更夜はほんの少しそれがではないかと思っていたが、驚いたの反応で違うと知り、落胆した。

更夜はに調子を狂わされっぱなしだった。

一体、に何の期待をしていたというのだろう。

立てた膝に両腕を回していたは、そこから窺うように更夜を見ていた目を嬉しそうに細めた。




「やっぱり、どこにでも似たような人はいるんだね、更夜」




ろくたと一緒の自分は特別で、異質なんだと思っていた更夜は、その言葉に何か重い物を掻っ攫われた気がした。

替わりに胸に降り積もるのは温かい何かで・・・。

何だかそれを認めるのが癪で、更夜はそれに気付かないフリをしてまた溜め息を吐いた。

そして完全に灰になった枯木を見て、更夜は火に砂をかけた。

くすぶる燃え滓から煙が上がり、まだ温かい熱気が包む。




「さっさと寝ないと蓬山に辿り着けないよ、




背を向けて横になった更夜の後ろで、嬉しそうにしている様子のに気恥ずかしくなって更夜は寝たふりを決め込んだ。

更夜が初めての名を呼んだ夜は、満点の星を瞬かせて更けていった。


* ひとやすみ *
・犬狼真君と出会う。
 雰囲気が違うのは、似てないのにどこか共通点のある主人公に出会ったから。だと思いたい…。
 は底抜けに明るくおバカっぽいけど、大人な女性なんです。        (09/06/17)