ドリーム小説

一体、何が起きてるんだろう・・・?

布を引き裂く様な男の悲鳴と逃げる男達、恐怖を煽り立てる強い風に天を覆うような黒い影。

ゆっくりと自分の指に視線を落とすと、延ばされた血液が赤黒く変色し乾燥していた。

耳に衝く絶叫にゆっくりと首を回すと、さっきまで目の前にいた男が大きな鳥に圧し掛かられていた。

徐々に小さくなっていく悲鳴には目を逸らす。

変わらぬのは目の前で未だ燃え続ける炎だけ。

何だこれ、何だこれ、何だこれ、何だこれ?!

ただ呆然とその場に立ち尽くしていたが無事だった事は奇跡に近かったが、

遠くで男二人が小さな妖魔に襲われたのが見えた瞬間、金縛りが解けた様に後ずさった。

逃げなきゃ殺される!

本能的にそう思ったが、悲鳴を上げながら妖魔に背を向けて逃げる方が危険な気がした。

はいつもどうしてた?

今までだってが教えてくれた事を思い出しながら黄海を乗り切ってきた。

運悪く妖魔に会った場合は・・・!

・・・・・・・・・・答えは分からない、だ。

妖魔に会うといつもが囮になって私を逃がした。

だから一対複数での対処法なんて知らないし、がどうやって妖魔を倒してたかなんて知るはずもない。

恐怖と混乱で肩を震わすに気付いたのか、大きな妖鳥と目が合う。

すでにもうどこからも悲鳴は聞こえてこなかった。

赤濡れた鋭いくちばしを鳴らして妖鳥がに身体を向けた瞬間、もうダメだときつく目を瞑った。

次に大きな悲鳴を上げたのはではなく、妖鳥だった。

驚いて目を開けると矢を射され身体を斬り付けられてる妖鳥と数人の男達が見えた。




か?!」

「っ頑丘!」

「歩けるな?さっさと逃げろ!」




相変わらず冷たい物言いだったが、むしろ再び知人に会えた事にホッとしては頷いて駆け出した。

ひたすら走って自分の少ない荷物を掴んでまた走り出す。

分かってる事はここで血が流れた。

おそらくまた妖魔が来る。

は遠目ではあったが、利広に抱き締められてる珠晶の姿を見付けて安堵し、駮の側に駆け寄った。




?!」

「しー!」




口に人差し指を翳して驚いて声を漏らした利広を黙らせ、駮に頑丘の荷物をくくり付けた。

同じように利広も荷物を結び付けて、不安そうな珠晶を安心させるように微笑む。




っ・・顔から血が・・っ」

「あぁ。それは・・大丈夫。じゃ先行くわ。あとでね」




珠晶の口を塞ぐように素早く別れを告げてはまた走り出した。

騎獣のいる珠晶達と一緒にいれば足手纏いは必至。

荷積みくらいしか役に立たないけど、これで助けてもらったお礼になるかな?

まもなく戻ってくるだろう頑丘には心の中でそう呟いた。








***









広場から歓声が沸き、焚き火がちらほらと見えた。

おそらく終わったのだろう。

そう思った利広と珠晶は無意識に息を吐く。

少し落ち着いた珠晶がキョロキョロしていると、頑丘の硬い声がここを離れると言った。

すでに準備が整っているので利広は一つ頷き返したが、怪訝そうに駮を見ている頑丘に気付いた。




「あぁ。それだよ」

「・・・そうか」




すでに鞍が駮に置かれ、荷物が付けられているのを見て驚いていた頑丘に苦笑して、利広と珠晶も星彩に跨った。

しばらくして珠晶が詳細を聞いてきた。

それに答えたのはもちろん利広だったが、詳しい事は頑丘の方が知っている。

利広のその視線に思い出したのか珠晶が頑丘に声を掛けた。




「それよりは大丈夫なの?血が出てた」

「何か知ってるかい?」




手ぶらで黄海に乗り込んできたという女がまさかここまで自分達に関わるとは思っていなかった。

食事や行動をいつも一緒にしてる訳ではないのに、この場にいないのがおかしいと思うなんて。

頑丘はを心配する二人の視線に言いようもなく呆れ、同じように心配した自分に呆れた。

広場は惨状だった。

そんな中、血をかぶり呆然と突っ立ってるに心底驚いて、さらに生きていた事に驚いた。

正直、頑丘にも何がどうなってがそうしていたのか分からなかったが、自分の声に反応した事に安堵した自分がいた。

いい様にに巻き込まれてる自分に舌打ちをする。

一体、アイツは何なんだ?

不貞腐れながら頑丘は他の二人に妖魔に襲われていた、とだけ呟いた。

見るからに動揺した二人を見てさらに眉間の皺を深め、知るかと言い残して駮を進めた。

不機嫌な頑丘に首を傾げた利広と珠晶は目を瞬いて前を歩く駮を追い掛けた。

先を歩くを見付けたのはそのすぐ後だった。

並ぶように駮と星彩が汐の隣に来るとはへらりと笑って言った。




「先に行って。私は後から付いてくから」

「でもそれじゃは・・」

「珠晶。王様になるんでしょう?何があっても先に進まなきゃ。今は早くここから離れないと」




うぐ、と下唇を噛み締めた珠晶は利広を見上げ、利広も申し訳なさそうに星彩のたずなを握り締めた。

別にそこまで急ぐ事はないのだろうが、わざわざ遅い者に足並みを揃える必要はない。

名残惜しそうにを追い越した星彩に手を振ったは、隣にまだいる駮を見上げた。

頑丘が苦虫を噛んだ様な顔をしていて首を傾げた。




「どうしたの?」

「・・・こうすれば問題ないだろう」

「は?ちょっ、えぇー?!




の声に珠晶達が振り返るより先に、駮が颯爽と星彩を追い越していった。

それを見て流石の珠晶と利広も声を失った。

頑丘がの腰を攫って駮に乗せていたのだ。




「降ろして頑丘!駮が重いって」

「お前に駮の言葉が分かるのか?」

「聞かなくても分かるわ!大人二人も乗せたら重いに決まってるでしょ、このスットコドッコイ!

黙れ。お前がもっと軽ければ駮も楽だったのにな」

「ギャー!女の子になんて事言うのよー!!」




呆然と眺めていた珠晶と利広の元に、先程会った近迫と言う男が鹿蜀を並べた。

前で騒いでる二人を指差して質問してきたが、二人もそれに答える言葉が見付からず首を振り、

もう一度、と頑丘を呆然と眺めて、三人とも不思議そうに同じ方向に首を傾げた。



* ひとやすみ *
・続スプラッタ!ゔぅ。想像しただけで恐ろしい・・。
 なぜか頑丘といちゃラブ・・・。あ、あれれ?      (09/05/17)