ドリーム小説
蓬山を目指して長蛇の列がひたすら黄海を渡る。
かれこれ数日進んでは休み、進んでは休みを繰り返し着実に歩みを進めていた。
一日のほとんどを歩く事に費やすからか、人々は黙々と歩き続けた。
はそんな中、相変わらずクルクルと舌が回り続けている珠晶に視線をやるが疲れた様子は全く見えない。
脅威の十二歳に感心しながら珠晶の話に耳を傾けた。
もっとも、は気付いていないが小さな昇山少女と手ぶらで物々交換娘はすでに有名人であり、
珠晶だけじゃなくも周りから脅威に思われているのだ。
それに気付かず、淡々と話す珠晶に感心しているを見て利広はクスクスと笑いを漏らした。
「襲撃があってから三日は大丈夫って頑丘が言ってたけど、もう前の襲撃から三日以上経つわよね」
「そうなの?まぁ怪我人が出ないに越した事はないでしょ」
「そうだけど」
黄海に入って結構な日数が経った。
初日に手ぶらのを叱り付けた珠晶達一行とは何だかんだと言いながら、旅路を共にしていた。
ずっと一緒な訳ではないし食事や寝床などは別にしているのだが、歩きだけが旅の手段であるため
同じ道を共にして言葉を交わす事が多かった。
最近利広に教えてもらったのだが、珠晶との間を隔てるようにのっしのっしと歩く星彩は騶虞という種らしい。
騶虞は賢く力も強いので騎獣の中では貴重な種類らしい。
こっちは頑丘が嬉しそうに話してくれた。
白地に黒のしま模様を眺めていると、ふと白い狼が懐かしく思えた。
「(はどうしてるかな・・・)」
心配して探し回ってるかな・・・。
それとも新しい主人を探してるかな・・・・。
珠晶や利広、頑丘達と一緒にいるのも悪くないけど、やっぱりちょっと無愛想で意外に面倒見のいい白い狼が懐かしい。
に会いたいなぁ・・・。
星彩を軽く撫でて俯いたに珠晶と利広は互いに目を合わせて瞬いた。
の寂しそうな、泣きそうな顔に利広がそっと声を掛けた。
「大丈夫かい、?」
「え、あぁ、うん。ちょっと家族に会いたくなって」
「ご両親?」
「え?違う違う!でも、うーん。お姉ちゃん?それも違うなぁ。ペット?うわ何かヤダ。じゃあ・・」
「「「(どんな家族だ、それは)」」」
うーん、うーんと唸るにそれを聞いていた三人は眉根を寄せた。
利広はの言葉を聞かなかった事にして仕切り直した。
「どんな人なのかな?」
「星彩に似てるかな。とにかく白い人」
「「「(・・・人なのか?)」」」
星彩の背を撫でながらふわりと笑うをよそに、三人の眉間には皺が増えた。
そんな事には気付かずは続ける。
「それですっごく不器用で無愛想で、なのに世話好きで口の悪い人」
「何その人、頑丘そのものじゃない」
「おい!」
「何よ?似てないって言うの?自分の胸に手を当ててよーく考えて見なさいよ」
「と頑丘が・・?似てるけど何かが足りないような・・・?」
言われてみると確かに似てない事もないが、何かが足りない気がした。
は顎に手を当てて頑丘を観察したが、今いちピンと来なかった。
「そのって人はが黄海にいるの知ってるのかい?」
「え?ううん。だってと逸れて勢いでここまで来ちゃったし、私がここにいるって知ったら・・・」
そこまで言ってピシリとは固まった。
三人は不自然に言葉を切って、動かなくなったを不思議そうに見た。
にあって、頑丘にないものには気付いてしまった。
それは恐ろしいまでの執念と怒気、ついでに勢いと覇気。
ががここにいると知ったら、は怒り狂って追い掛けてくるに違いない。
無性に寒気がしたは急にあの白い狼に会いたくなくなった。
「知ったらどうなるの?」
「
こ、殺されるっ・・・」
「「「 は? 」」」
「うわーっ!だって簪失くしたし、手ぶらでサバイバルしてるし
絶対殺される!!!」
「お、落ち着いて。ここは黄海よ?追い掛けてこれるはずが・・」
「
なら出来そう・・・」
黄海で生活するのにも顔色変えず、飄々と乗り越えてきたが真っ青になって震えていた。
益々の家族に疑問を持った三人であったが、の気を紛らわそうと利広が話をすり替えようとする。
「が言ってた簪はさんから貰ったのかな?」
「ふぇ?違うよ、貰ったのはお祖母ちゃん」
「どんな簪なの?」
「玉の簪。見る度に色が変わる不思議な玉が真ん中にあって金の装飾が周りに施されてる派手なやつ」
「そう。憶えといてあげるわ」
「?」
「あたしが王様になったらその簪探してあげる」
頑丘が呆れたように溜め息を吐いて、利広が面白そうに珠晶の案に乗った。
キョトンとして目を瞬いたはその豪勢な啖呵にクスクスと笑って、頭を下げた。
「よろしくお願いします、未来の供王さま」
* ひとやすみ *
・にかかれば頑丘だろうが利広だろうがツッコミ要員。笑
実は狼さん後ろから追い掛けて来てるんだよーって言ってあげたい。 (09/05/11)