ドリーム小説
「無理だ。もとあった場所に捨てて来い」
そうに向って言った不遜な男は一瞥をくれてすぐに作業に戻った。
あれから何故か小さい少女にガミガミと怒られたは列の流れに沿って蓬山を目指した。
ここがあの黄海だと知ってビックリしたをさらに少女が怒鳴り散らしたのだけれど。
そうは言っても最早、門は閉じられた。
次に外へ繋がる門が開くのは夏至なのだ。
は早々に諦めて蓬山を目指すことにしたのだが、何故か少女が隣でずっと説教をしている。
少女の名前は珠晶、そして星彩と言う名の騶虞を連れた若いお兄さんが利広と言う。
虎よりもよく吠える珠晶の向こうに駮と呼ばれる鋭い角を持つ馬に似た妖獣と三十くらいの男がいたが、
完全にをない物として扱っていた。
男の名は頑丘。
完全にを馬鹿にしている。
実際、自身もそう思っていたので何も言うつもりはなかった。
陽が落ち、次々と野営の準備に周りが取り掛かり始めた時、一行も森に入った所に腰を落ち着けた。
も空を見上げ、夜動くのは危険だと判断したので寝る所を探そうと一行から離れた瞬間、
襟を引かれて息を詰まらせた。
咽ながら振り返ると説教少女がの手を引いて自分達の野営地に行き、を頑丘の前に突き出して
一緒に蓬山へ行くわ、と言ったのだ。
そして捨てて来いと言った頑丘には今度こそ米神をピクリとさせた。
「頑丘だって聞いてたでしょ?この馬鹿、ここがどこだか知らずに来たのよ?
放って置いたら一日で野垂れ死によ!そんなの目覚め悪いじゃない!」
「この馬鹿って・・」
「いいか。仲良しごっこをしにここに来た訳じゃないだろうが。
何の準備もしてないこんなド阿呆を連れて歩けるほど黄海は甘くない」
「ド阿呆・・・」
そっちのけでヒートアップしていく二人に自分の事ながら溜め息を吐いた。
聞いてる限り、黄海のエキスパートである頑丘達と一緒に行けたらの安全はある程度確保出来るだろう。
しかし、妖魔の巣窟である黄海で素人一人増える事がどれだけハンデになるかを知らないではない。
伊達に妖魔だらけの森をと二人、野宿旅してきていないのだ。
もとより自分のために言い争ってくれてる・・・らしい小さな雇い主の世話になるつもりはなかった。
言い合う二人を笑うように近くで喉を鳴らした星彩に笑い返しては森に目を向けた。
「、君は混ざらなくていいのかい?」
くつくつと笑っている利広には頬を掻いて言い争う主人と猟尸師を見た。
混ざるって言ったって・・・。
うーん、と唸るに利広の笑いは苦笑に変わった。
「その様子だと何だか諦めてるみたいじゃないか」
「諦めてるって言うか最初から期待してないって言うか・・」
「おや。生きるのも諦めてるのかい?」
どこか響きの違うその言葉にはハッとして利広を見た。
表情はどこも変わっていないように見えるのに何か鋭い物を突きつけられているような気がした。
何より、その言葉に因縁じみた物を感じては空笑った。
この世界に来る前に祖母が亡くなり、天涯孤独で何もかもが億劫でつまらない物に思えた。
今思えば、あの時の自分は抜殻で生きる事を諦めていた。
きっかけこそ分からないけれど、はこの世界で再び家族を得て生きる事を知ったのだ。
そこでは簪を失い、何をそんなに恐れていたかに気付いた。
「(そうか、は私にとって家族なんだ)」
は利広の言葉に固く決心した。
もうあの頃に戻りはしない。
必ず玉の簪は取り返してみせる。
黙り込んだを覗き込んだ利広はの目に力強い何かを見た。
「諦めたりしない。一人でも何かをやり遂げる事が出来るって私は学んだから」
* ひとやすみ *
・うーん。暗い。真面目。はっちゃけてるのが玉簪なのに・・・。
頑丘がいると落ちてしまいます。ううーん。 (09/04/08)