ドリーム小説
「ではは盗まれた玉の簪を追って黄海へ?」
「う、うん」
「あの馬鹿娘がッ!」
阿南の必死の説明ではようやく事の次第を知った。
閉門の時間が迫る中、は阿南に礼を言うと門に向き直った。
すると足元で何か白いものが門を向いていて首を傾げた。
同じように何故か付いて来ようとしている孟極には思わず黙り込む。
「・・・何だこれは?」
「あ。姉ちゃんに懐いてた白兎って子なんだけど、多分一緒に探したいんだと思う」
「・・・・」
はを一緒に探そうと息巻いてるらしい白兎を見下ろした。
付いて来る気満々ではないか・・。
は目を見開いてギンッと白兎を睨み付けた。
「
付いてくるならば私に従え。いいな・・・?」
「・・・・・ッ」
震えながらまるで返事をしたように頭を少し下げた白兎には満足したように頷いた。
勢いよく門へ駆け出したに付いて行く白兎を見て阿南はちょっぴり居た堪れなくなった。
「なんか、白兎・・・
ごめん」
***
は馬車がやっと通れるような狭い道をひたすら走った。
道には人がちらほらいたが、皆大体は来た道を戻って行く所であった。
そんな中、身一つで危険な黄海を駆けていくに何人かが閉門の時刻が迫る事を忠告するが、
焦るには一切聞こえていなかった。
狭い道を朝から一斉に歩いているのだからそれは自然な事なのだが、
まるで人で出来た道のような群をようやく見付けた。
その中をは身軽にもスルスルと抜けて前の方に出た。
その間に室と言う人物の情報収集も忘れずに。
先頭集団にいる馬車と荷車を引き、一番大きな団体を見付けたは、すぐに周りを歩く家生に声を掛けた。
「すいません!急用で室様にお話があるんです!」
「!!何ですか、あなたは・・・」
「と言います。少しでいいんでお話させてくれませんか?!」
「・・・事情は知りませんが、大変な事みたいですね」
人の良さそうな男は息を切らして走ってきたに労わりの声を掛け、近くにいた家生を呼び付けた。
新たに呼ばれた家生を残してその男は馬車へと消えた。
がその姿を目で追っていると、残された家生が声を掛けてきた。
「よかったですね。鉦担が聞いてきてくれるそうですよ」
鉦担と言うらしい家生が馬車に消えてから間もなく、はあれよあれよと馬車に呼ばれた。
そして気付けば目の前に室季和と言う初老の男がいた。
「妖魔が出た訳でもないのにこの黄海を走って来る者がいるとは驚きだ。しかもこんな若いお嬢さんときた」
「あの室様!乾県で家生に貢物として頼んだ玉の簪、あれは私の大事な物で・・・」
「落ち着きなさい、お嬢さん。それに私は簪など頼んでいないよ。
そのような物はここにないと思うが、何なら探していくといい」
「・・・・え?」
困ったように笑った季和には呆然とした。
まさか初めから全て間違っていたのか・・・?
は再び会った鉦担に引かれて荷車へ向った。
樫の木で作られた頑丈な箱に鉦担は刀を差し込んで抉じ開けた。
中には金銀、玉がキラキラと輝いていた。
は簪だけを探して箱の中身をひたすら漁った。
しかし、見慣れた簪はどこにもなく、愕然とした。
事情を知らない鉦担は全ての装飾品を片付けて、再び樫の箱に蓋をすると精気のないを心配そうに見た。
「あの、一体何を探して・・・」
「簪・・・玉の簪を捜してたんです・・・」
まるで幽霊のように答えたにビクリとした鉦担をその場に残し、は荷車を後にした。
その後姿を血の気が引いた鉦担が呆然と見ていた事も知らずに。
やり場のない気持ちをどうする事も出来ず、は呆然と歩いた。
狭い道から少し開けた所に出た頃、不意に後ろから何かの鐘や太鼓の音がした。
誰もが振り返り、も振り返る。
一体何の音だろう・・・?
誰もが祈るような顔で来た道を見ていて不思議に思ったは近くにいた人に声を掛けた。
「あの音は何の音なんですか?」
「おや。知らない人がいるとは。あれは門が閉じた事を知らせてる。つまり後戻りは出来ないって事だね」
「門?あの、もう一つ・・・・ここはどこですか?」
がその人に質問した途端、大きな声がそれを遮った。
「
はぁ?!バッカじゃないの?!ここは黄海!アンタ死にたいの?!」
「うおっ」
白い虎が吼えたと思ったが、よく見るとその間を歩く小さな女の子が腰に手を当てて眉を吊り上げていた。
そして、そこで初めては引き返せない道に来ている事を知ったのだった。
* ひとやすみ *
・この連載でようやく何人目かの原作キャラ登場です!
いやしかし、原作沿いって難しいー・・・。 (09/04/08)