ドリーム小説

必ず正義が勝つ!

お祖母ちゃんの口癖だもんね。

目の前で目を見開いてる盗人の前に達を縛っていた縄と檻の鍵束を投げ捨てた。

見物人は投げ捨てられた物と男の顔を何度も見比べている。




「この女が私の騎獣を盗んだ!捕まえてくれ!」




男が考えた末に口にした言葉には減滅した。

周囲の反応もどっちつかずで誰も動こうとしない。




「いい?まずどうせさっきもここで騎獣が盗まれたって叫んだんでしょ?

 私にまた同じ事言っても信用はされにくい。

 二つ目に、私が盗人なら鍵をわざわざ返しに来ないわよ。騎獣盗んでさようなら。

 それに騎商でもないくせにこんなにたくさんの騎獣持っててどうする気?

 どう考えてもアンタの方が怪しいじゃない」




が呆れた顔して言い捨てると周囲の目がきつく男に向いた。

冷や汗を流しながら辺りを見渡した男は、自棄になって叫び出した。




「俺はちゃんと証書を持っている!全部俺の騎獣だ!」




束になった証書を懐から引っ張り出した事で周囲の目が今度はに突き刺さった。

人は証明するのに確固たる物があれば、それを手に入れる過程がどのようなものであれ簡単に信用してしまう。

は溜め息を吐いて懐から小屋で見付けた小さな紙を取り出した。




「ここに『今から三騅がそっちに行く』と書いてある。これは仲間と示し合わせて人から盗んだ証書で

 その三騅を自分の物だと言い張って逃げるために書いた物でしょ?」

「そ、そんなの俺が書いたんじゃねぇ」




は阿南が一緒に連れてきた青鳥の足にその手紙を括り付けた。

この手紙を書いた主の所へ行ってきて、と言えば、青鳥はあっさり男の肩に止まった。

それを見た周囲の人達が男を取り押さえた。

これにて一件落着。

騎獣達を町人達に任せて邪魔な髪を掻き上げた。

ここに来て、はその違和感に気付いた。

邪魔な髪・・・・?




「あ、アニー?私、えーと、今、玉の簪着けてな、い?」

「あ。あのね、あの簪、姉ちゃんが寝てる時にあいつ等が室様の所の家生に売っちゃったんだ」

「簪を売った?!」




一気に青ざめたを阿南は必死に慰めた。

どうにか気を逸らそうと話していたのだが、それが逆に仇になった。




「貢物にするって言ってたから追いかければ間に合うかもしれないけど、あそこは危ないし・・・」

「まだ間に合うのね?!阿南、白兎を頼むね!」

姉ちゃん!待って!」




は一人で目の前に見える大きな門に向って走り出した。

その門が、危険な黄海へと続く扉だとは露知らず。

ただひたすらは走った。

地門を潜り、目の前の門が令乾門だとは気付きもせず、ひたすら人の流れに沿って走った。

を占めるのは出会った頃にが言った言葉であった。




『玉が主以外の手に渡れば私も役目を終え、主を喰い殺す』




まさか、とは思いつつもただ簪を取り返す事だけを考えては足を進めた。

の中で広がる不安は確かに恐怖から来るものであったが、それは死の恐怖ではなかった。

死が怖くないか、と聞かれればもちろん怖い。

しかし、が何より怖いのはいつも傍にいてくれたを失う事だった。

このまま、簪を、を失えば、私はどうすればいいの?









***








市にポツンと取り残された阿南は、同じく残された白兎を見て呆然とが去った方を見た。

街の人達が盗人達を捕まえて府第に連行していった。

万里も返ってきて万々歳のはずなのに、が間もなく閉じる令乾門の中へと走って行ってしまった。

何の装備も持たずに。

言い知れぬ不安と動揺で、阿南は人がまばらになっても通りの真ん中に突っ立っていた。

すると後ろから大きな怒声が聞こえて振り返ると、目に飛び込んだのは白だった。

ハッと息を呑んだ阿南にはその白が希望の光に見えた。

迫力があるので阿南は恐る恐るその人に近付いて声を掛けた。




「あの、もしかしてさん?」

「!誰だ?を知っているのか?!」




阿南は肩を掴まれてビックリしながらも、ようやく息を吐いた。

よかった。

僕と同じように姉ちゃんを探している人に会えた。

姉ちゃんの言ってた通りだ。

さんは、白くて、怖くて、いつも不機嫌そうだけど、本当は優しい人だ。

だってこんなに必死に姉ちゃんの事探してるんだもん。



* ひとやすみ *
・孤独にまた戻るのは嫌だ、というの必死さが伝わると嬉しいです。
 何と言うか、玉簪で初めてシリアスっぽいもの書いたんじゃないか、私?(09/03/20)