ドリーム小説
縄から抜け出したと阿南は手足を確認して辺りを見渡した。
身体は自由になったが、小屋に窓はなく、騎獣を捕らえている檻も頑丈で壊せそうにない。
阿南は真っ先に万里と言う三騅の元に向ってその首を撫でた。
はその様子を眺めてから唯一の出入り口である部屋の扉を確かめた。
やはり到底、女、子供が壊せる代物ではない。
溜め息を吐いた所で阿南の声が聞こえた。
「やっぱり無理だよ姉ちゃん。檻は壊せないよ」
「アニー、諦めたらそこで終わり。僅かな可能性にすがればどうにかなるかもしれないんだよ」
どこかで聞いたような台詞を口にしたに阿南は目をパチクリさせた。
それから年に似合わない顔つきで笑った。
「ねぇ、さっきから気になってたんだけど、そのアニーって僕のこと?」
「そう。十歳くらいの子で赤毛と言えばアニーでしょ」
「??でも何か女の子みたいだよ、それ」
「(うぅ。意外と鋭い)」
は言葉に詰まってその場しのぎに懐に隠してあったものを阿南に見せた。
チャリンと音を立てたそれに阿南は大きく目を見開いて叫びそうになった。
それを察したが阿南の口を塞いで、藁の上に鍵束が鈍い音を立てて落ちた。
「見付かったらどうするのよ」
「だって、だってそれ檻の鍵・・・。一体どうやって?」
「ホントは部屋の鍵だと思ったんだけど。ただでやられるのも悔しいじゃない?だから倒れる前に盗んだの」
「うわー。姉ちゃんって本物のスリ?」
「
アニー・・・。万里の檻の鍵いらないみたいだね」
「いる!ごめんなさい!」
阿南は慌てて鍵束を拾って万里の檻に向った。
しかし、自身も同様に驚いていた。
いくら心の師匠が不二子ちゃんだからと言って危機的状況に鍵を盗むなんて信じられない。
阿南が他の騎獣達を檻から出している間、呆然とそれを見ていたに何かが寄ってきた。
よく見ればあの時の白い豹で、確か白兎と言ったはず。
「孟極は元々人懐こいけど、白兎は姉ちゃんが気に入ったみたいだよ」
「孟極?白兎?どっちが名前?」
「え?孟極は種族名で白兎が名前。ここから少し離れた所で僕くらいの女の子から盗んだんだって。
街のおじさんが女の子の白兎って言う孟極が盗まれたって言ってたの覚えてて、呼んでみたら返事したんだ」
分かっているのかいないのか、白兎は寂しげにに擦り寄ってくる。
はその首元を撫でてやってから、部屋を物色し始めた。
何か使える物はないかと藁の間を掻き分けて数分経った時、皺くちゃの小さな紙が何枚か出てきた。
の行動を見ていた阿南がそれを覗き込んで息を呑んだ。
悪戯っぽく微笑んだは立ち上がって入り口を睨んだ。
「あとはここから脱出するだけなんだけど、どうやって出ようか」
「それなら僕に任せてよ、姉ちゃん」
「え?」
***
主が何を考え、何を思い、どう行動するのか、知り合って間もないに分かりようもなかった。
それだけに焦ってはいるものの、その反面そんなに心配していない自分が居た。
それが何なのかは誰にも分からないが、確実に風はに向って吹いていた。
と逸れて二日が経った。
何となくが令乾門に向かってる気がしては乾県に入っていた。
そしてついに今日、春分がやってきて令乾門が開いたのはもう随分前のことのようだ。
もう間もなく扉は閉ざされ、夏至まで黄海は再び隔離される。
あんなにこの日を楽しみにしていたが傍にいない事だけがには不思議に思えた。
を探して市を歩き回っていたは可笑しなまでの空気の揺れと喧騒を感じて近くに居た男に声を掛けた。
「おい。この騒ぎはなんだ」
「何でも隣の市に騎獣の群が馬小屋壊してなだれ込んで来たらしい」
「しかもその騎獣に女と子供が乗って出てきたらしいじゃないか!」
「今、大捕り物してるってさ!見に行くぞ!」
野次馬達が走り出した中、は何となく溜め息を吐いて主の名前を呟いた。
そして同じようにただ真っ直ぐ隣の市を目指して走り出した。
***
「三騅はあんまり知られた騎獣じゃないけど、馬力はすごいんだよ」
「そうみたいだね」
三騅の万里の前足で小屋がぶっ飛んだ。
それはもうド派手に、木っ端微塵に。
そのおかげで小屋から出られたと阿南は多くの騎獣を連れて、騎獣を盗んでいた男達の元へ走った。
どうやらが眠っている間に移動したらしく、すでに臨乾とは全く違う町並みだった。
白兎に跨り、街を走っていると男を見つけた。
どうやら新たな被害者もいるようだった。
大所帯のと阿南の疾走に街の人々は目を丸くして道を開けた。
「見付けたよ、盗人さん」
と白兎が止まれば騎獣達も一斉に止まった。
周りを野次馬が取り囲み、も盗人も誰も逃げられなくなっていた。
* ひとやすみ *
・人間ピンチにはとんでもないチカラを発揮するものです。笑
分かる人には分かるネタ第2弾!やりたい放題で申し訳ないです・・・。(09/03/20)