ドリーム小説

金波宮を出てから数日、は相変わらず旅を続けていた。

空路と陸路の両方を使い、今回ばかりは野宿ではなくきちんと宿を取っている。

実は宮殿を出る少し前に、立派な旌券と金子を手渡されたのだ。

金額も袋を開けて驚くような額で、おかげで結構裕福な旅を続けている。




「それで、はこれからどうしたいんだ?」

「いたた!優しく結ってよ」




陽が昇り、宿を出ようと身支度を整えるためにの髪を結っていた。

宿では当然の如く人型をとるの朝の仕事は最近ではの髪結いだった。

簡素ではあるものの、最後にあの玉簪を挿せばどこか威厳があるように見えた。

服装も街に降りてからは質素な物に着替えてはいたが、はその髪型の出来栄えに満足そうに頷いた。

の問いに悩むようにゆっくりと荷物を纏めながらは思考する。

十二国に来てから考える暇もないくらい慌しくて、何がしたいとか、どうするとか、考えた事もなかった。

に言われるまま慶に行って、景王に会って、杜憐泉の称号を貰ったりしたけど

自身は何一つ変わっていない。

今も何がしたいとか、どうしたいとか、全く分からないけど、思ってる事はただ一つ。

経験してみなきゃ分からない事はたくさんあるという事だ。




「とりあえず、世界三周しとく?」

「なんで三周なんだ・・・」




成せば成る、成さねば成らぬ何事も!だ。








***








世界旅行を目的にして私達は早速、歩き出した。

途中、にこちらの世界地図を教えて貰ったけど、おかしな感じだ。

こっちの世界は平らいらしい。

あっちの世界地図も平面で描かれているので実感はないけど、何か変なの。

その地図で十二国を左回りに旅しちゃおう!て事で私達は慶から雁に向って北上した。

何日経ったのか、もう数えてないけど、いつしか気が付くと雁の西側にまで来ていた。

そこは小さな港町で塩の香りがどことなくする。

世界を覆うようにある虚海ではなく、内海の黒海に面する町だ。

RPGじゃないけど、常識があるのかないのか分からないに遠慮なくしごかれて、

私は着実に経験値を積んでいる。

そろそろ進化してもいい感じだと思うよ。




誘われるように美味しそうな匂いを嗅ぎつけ、辺りを見渡すと小さな路地に食堂を見付けた。

海の家、ならぬ、海浜食堂だ。

食堂と言っておかしくない様な佇まいに、女将さんははつらつとした人だった。

どことなく忙しそうな雰囲気に申し訳なさそうに注文すると、女将さんは豪快に笑って説明してくれた。




「お客が何縮こまってるんだい!遠慮なんかするもんじゃないよ」

「なんか忙しそうで・・」

「はは。何のこっちゃないよ。恭行きの船が出てるからバタバタしてるだけさ」

「恭・・・?」




の質問に答える前に女将さんは他のお客に呼ばれて行ってしまった。

残された私は食堂から海の方を眺めた。

小さな港町にしては大きな船が停泊していて、お祭好きの勘が騒いだ。

私がニヤニヤしているとの視線を感じて向かいの席を見た。




「この所、ずっと考えていたんだが・・・」

「何?」

、いつの間にこっちの言葉が分かるようになったのだ?」

「・・・・へ?」




・・・・・・・・・。

何ですとーッ?!

そ、そう言えばそうだ!

私、海客。言葉わかりませーん。状態だったはずなのに!!

どういう事?!

ていうか・・・!




「気付いてたならそういう事は早く言ってよー!!」

「いや。むしろ気付くだろう、普通




だってだってだってだって!

最近は仙人とばかり関わってたから気付かなかったんだもん!

というか何が起こったの、私の身体!




「・・・おそらく、お前、人間じゃなくなったな」

「えぇ?!経験値積みすぎてそこまで進化しちゃったの、私ー?!




お祖母ちゃん。

人間、成長しすぎるのもどうかと思うよ。



* ひとやすみ *
・仙人にレベルアップ!
 相変わらずオリジナルど真ん中連載ですが、ドタバタ主従をよろしくお願いします。
 第2部、始まるよー!                           (09/03/01)