ドリーム小説
「。そなたに杜憐泉の称号を与える」
「ありがたく頂戴いたします」
簡単ではあったが、簡易式任命の儀が執り行われ、純日本人であるは恐々と膝をついて頭を垂れていた。
慶の宝重である水禺刀を両肩に乗せられれば、ビクビクしてしまっても仕方ないだろう。
水禺刀とはお祖母ちゃんが仕えた達王が作った物で、主によって形が変わるそうだ。
今は少し短めの槍、と言った感じだ。
鞘を抜いて手渡された水禺刀の刃を覗き込んでいると、ピチャンと雫が落ちる音がした。
音に反応して足元を見ると、薄く水が張ってあり、気付けば辺りは真っ暗だった。
再びピチャンと音がして、波紋の広がる足元には真っ赤な何かが映し出された。
揺れる波間に惑わされながらも、その紅が人の髪である事に気付いて思わず声を上げると
水面の人物は長い髪を揺らして振り返った。
翡翠色の力強い瞳と目が合った途端、光が射し込んでいた。
「?どうした?」
「・・・え?」
気付けば元居た場所で、何度か瞬きをすると慌てて水禺刀を景王に返した。
玉簪の記憶を覗いた時と似たような感覚には頭を振って現実に目を向けた。
***
「え?する事がない?」
「用は済んだからな」
景王に再び用件を聞かれてを見れば、あっさりそう言われた。
じゃあ一体何しにきたんだ、こんな所まで?!
何故か上機嫌のに首を捻るしかない私は、宮殿を出ることにした。
寝殿に繋がる禁門からこっそり出ることになった私達を景王と病気の景麒がわざわざ見送りに出てきた。
むしろ痛々しいから寝ててよかったのに。
「ありがとうございました」
「いや。こちらこそに会えてよかった。もう一度、慶のために出来る事をしようと思う」
「主上・・・っ」
感極まった感じの景麒が景王を見つめていても嬉しそうに笑った。
すると、その時信じられない事が起こった。
が景王の前に膝をついたのだ。
「一度傾いた物をすぐに元に戻すのは難しい事。けれども何か動かねば変わる事などあり得はしません。
確かに達王と同じ道を歩んでおられたが、ここからが主上の道です。
どうか、我が慶東国をお頼み致します」
開いた口が塞がらないとはこの事だ。
てか、
って人を敬えたんだ・・・。
やっぱり、自分の仕える国の王様ともなればでも頭を下げてしまうんだね。
そして窺うように景王を見れば、こっちも感極まっていた。
瑞花様に認めてもらえたのだな、と呟いているのを聞いてしまった。
そして私達は金波宮に別れを告げた。
元の白銀の狼の形をとったに跨って私達は下界へと旅立った。
***
「景麒。私は愚かだ。国を無闇に荒させ、お前を病ませた。
もう一度、この慶のために私が出来る事をしたいのだ」
「主上・・・。私も共に誠意を尽くしたいと思います」
達が去っていった空を眺めながら困ったように笑った景王に景麒も微笑んだ。
真っ暗闇の中、見えた光は希望。
景麒の心にも、慶に仕える者達の心にも僅かな希望が灯った。
この後、これは金波宮で杜憐泉の奇跡だと大きく噂される事になる。
そして他でもない景王によって、仙籍簿にの名が記載された事をはまだ知らない。
そんな中、景麒は病の身体を引き摺って、我が主を探して歩き回っていた。
どこにも姿が見当たらないのだ。
何故だか胸騒ぎがして、ふらりと立ち寄った梧桐宮にいた白雉と目が合う。
白雉は一生にたった二度、人語で鳴く。
一度目は王の即位を鳴き、二度目は王の死を鳴く。
そして明るい未来が差し込んだ金波宮の奥、梧桐宮では静かに白雉が「二度目」を啼いた。
* ひとやすみ *
・シリアスとは難しい。補足しておくと、タイトル通りって事です。
景麒と景王、どちらも気持ちが通じたけれど、そのカタチが違っていたと言う感じです。
これにて1部は完結ですので、新たな旅立ちに期待してください。
また主人公主従のハチャメチャっぷりが出せるといいなと思います。感謝。 (09/02/26)