ドリーム小説
私を見て小さく笑った景王は急に立ち上がって出て行った。
ついて来いと言われた立場としてはそうするしかなく、私とは慌てて追い掛けた。
もちろん、慌ててたのは私だけだったけれども。
景王はどんどん奥へと進んで行き、周りにいた人がどんどん居なくなっていった。
これって、誰も立ち入れない場所に進んでるんじゃ・・・。
ま、まずくない・・?!
ようやく立ち止まった景王はある部屋に私達を先に通した。
机と紙が積んである執務室のような所を通り抜けると、その奥はどうやら寝室のようだった。
薄手の生地が天井からあちこちに吊るされ、寝台に辿り着くまでに多くの布を掻き分けた。
寝台に近付くにつれて誰かが眠っているのに気付いた。
その静かな部屋に私が息を呑む音が響いた。
布の向こうからでも分かる床に広がる金糸は慈悲の生き物にしか持ち得ない物。
「まさか・・・景麒・・?」
「主上・・・と・・だれ、です?」
***
寝台に臥せる景麒の髪の輝きは光彩を失っているように見えた。
さらに身体のあちこちに見える痣のようなものがより一層痛々しく見え、病の進行を物語っていた。
ちらりととを目だけで見た景麒の傍に景王は腰掛けた。
「お前も一度は耳にした事があるだろう。彼女は杜憐泉だ」
「憐泉・・?しかし彼女は・・」
「そうだ。180年前に仙籍を消されている」
なら、と胡散臭そうに景麒はを見たが、は景王をすがる様に見た。
景王が何を言わんとしているのか、にも想像がつかなかったのだ。
「彼女の名前は。憐泉様の孫だ。だが、間違いなく彼女は杜憐泉だ」
その言葉の意味を理解したのは、その直後だった。
迷いなく言い切った景王には歩み寄った。
「待ってください!私は確かに孫だけど、一生お祖母ちゃんの振りをして生きていくつもりはありません!」
ここまでに言われて憐泉の振りをしてきたが、それだけでも大変だったのだ。
一生、誰かの真似をして、偽り続けていくなんてには到底出来なかった。
お祖母ちゃんはお祖母ちゃんで、はなのだ。
「待て。なぜが真似る必要がある?」
「へ・・?」
本当に困ったような顔をして首を傾げる景王に逆に問われ、は困惑した。
景王は首を幾度が振って景麒とを見た。
「二人ともよく聞け。に憐泉様を真似ろと言ったのではない。私は憐泉とは称号だと思っている」
迷いない声が静かな寝室に凛と響いた。
景麒と、の視線は目の前の王にただただ注がれていた。
「確かに憐泉様は慶に尽くした素晴らしい人だったが、語り継がれているような聖人君子でも、神でもなかった。
憐泉様も人だ。私が称号として引き継いでいきたいのは、誰にも流される事なく、自分の意思で自分自身の道を
定め、揺るぎない心のままに生きた憐泉様のその姿勢だ」
饒舌に話した景王には口の端を上げたが、それに気付く者は居なかった。
ひたすら耳を傾けていたと景麒は呆然と視線を向けるしか出来なかった。
「一度曲がった姿勢を再びまっすぐに戻すのは難しい。
簡単な事のようで難しい事だが、になら出来ると私は信じている」
「え・・?」
「憐泉様のようにとは言わないが、慶を思い、尽くしてくれる者に杜憐泉の名を与えたい。
、憐泉の名、受け取ってくれるか?」
なんで?
そんな言葉しか浮かばないは何とも言えない顔をしていた。
会って間もない景王がの何を見てそんな事を言ったのか理解出来なかったのだ。
困惑していたに気付いていた景王は微笑んだ。
「がなぜ金波宮を訪れたのかは知らぬ。だが、たとえそれが慶のためでなくとも、
いつか心から慶に仕えたいと思った時にその名を名乗るがよい。
そしてが認めた者に憐泉の名を引き継いでくれ。全ては次第だ」
ようするに名乗るも名乗らないもの自由という事らしい。
だからと言って、そんな大層な名前を慶に特に思い入れのないがもらっていい物なのか。
しかも、どうやら景王の口振りからすると、がいつか慶に仕える事が分かっているようだ。
まさか、と思いながら悩んでいると、とんでもない声が聞こえてきた。
「
もらえる物はもらっておけ、」
「はぁ?!」
「無くて困る事はあっても、あって困る事はない」
「確かに。私もの言う通りだと思うが」
え?えぇ?!景王まで何言っちゃってんの?!
床でにギラギラとした視線を送ってる景麒に申し訳なく思いながらも私は溜め息を吐いた。
何が何だかよく分からないけど、は顔を上げて笑った。
「仕方ないなぁ。タダみたいだし、名前でも何でももらっていきますよ!」
* ひとやすみ *
・あー。真面目な話は苦手です。
そんな訳で結局こんなオチです。すいませーん!(09/02/26)