ドリーム小説
朱衡に案内されるまま歩いている間、三人は一言も口を開かなかった。
も朱衡も先程の会話でいろいろと思う所があったからだ。
部屋に通されて尚隆を待っている間も会話はなかった。
「あー、早過ぎないか」
頭をガシガシと掻きながら部屋に入ってきた尚隆は眠そうに椅子に身体を落とした。
ハッとしたは顔を上げて軽く笑った。
「おはようございます」
「あぁ。おはよう」
欠伸をしながら肘をついた尚隆は思い出したように話し出した。
「とやら、鸞は今他国に飛んでいるし、青鳥を使うのも止めた方がいいな」
「なぜだ?」
「言ったろ。今慶国は傾いてる。内朝は混乱中でいつ返事が返って来るか分からん。出向いた方が早い」
「・・・そうか」
はそれを聞くと今すぐにでも飛び出して行きそうだった。
そこに目を擦りながら入って来たのは六太だった。
後ろから付いて来ていた朱衡が苦笑いしながらに軽く頭を下げた。
「ほら台輔。様はお暇を言いにいらっしゃったのですよ。シャキっとして下さい」
「んー・・。え?もう出て行くのか?!」
パチリと目を見開いて詰め寄った六太には苦笑して一つ頷くと六太は見るからに落ち込んだ。
はあから様に溜め息をつき、はそれを無視して六太の前にしゃがみ込んだ。
「延麒。縁があればまたお会いできます」
「は人間だからその機会も少ないだろうがな」
「!何でそんな事言うの!」
出鼻を挫かれたは今度はを窘めた。
六太はそんな二人を見て苦笑いした。
「また会える事を信じておれが関弓まで送ってやるよ!」
いつものように晴々とした笑顔を見せた六太にはホッと息を吐いた。
何か言いたげだった朱衡も仕方ありませんね、と呟いていた。
は感謝の気持ちを込めて尚隆を振り返り頭を下げた。
「お世話になりました。それではこれで失礼致します」
「あぁ。また会おう」
「願い下げだ」
「!」
六太と共に部屋を出て行った二人を見送った尚隆は隣にいた朱衡に笑って言った。
「面白い主従だったな」
「はい。貴方達も負けず劣らずですが、また会えるといいですね」
「会えるさ。そんな気がする」
尚隆は窓の外を眺めてから目を閉じた。
そしてこの予感は正しく、これから先、何度か互いに見える事になるとはこの時のはまだ知らなかった。
***
「ホントにだったんだね」
『かじるぞ』
関弓の外れで延麒と別れるとは再び狼の姿をとった。
不機嫌そうな相棒を宥めすかして空を駆ける。
慶までは大体7日くらいかかると言われ、すでに6日以上経っている。
空の旅と野宿にいい加減慣れてきたのが何だか悲しい。
不機嫌そうにしながらも飛び続けてくれるに感謝していると不意に話し掛けられた。
『見えたぞ。、あれが堯天山だ』
遠くに見える天まで聳え立つような山が見えて慶に入った事を知った。
それはまるで黒い影が空を縦に区切っているように見えた。
ここがお祖母ちゃんがいた国。
一言で言うならば緑美しい国だ。
正直、傾きかけている国と言うのは荒れているイメージがあったのだけど、意外にも普通だった。
「この美しい国が荒れるんだね・・」
そう小さく呟いた声はにも聞こえたのか、その背が悲しそうに震えているように感じた。
***
堯天山が目前に近付き、その影に入った頃、は高度を下げた。
町の外れに降り立ったには首を傾げた。
「え?何、これからどうするの?」
『金波宮へ向う』
「え?いきなり行っていいものなの、宮殿って」
『心配ない。少し考えがある』
ならいいか、と気を抜いた時、を見ていたはギョッとした。
狼だったの身体が白く光り、次の瞬間には大きな白い鳥になっていた。
「何なのこれー!!」
『鳥だ』
「それは見りゃ分かるよ!!」
鷲のような白い鳥は大きくて、小型の自動車くらいはある。
ものすごく長い尻尾の先だけは青と緑が入っているが、目は変わらず綺麗なエメラルドグリーンだった。
『悪いが、金波宮へはこの姿で行く。落ちるなよ、』
「・・なんだよねぇ?」
『言ったはずだ。私は人でも狼でもないと。さっさと乗れ』
この不遜で素っ気無い態度は間違いなくであるが、は納得いかないまま鳥の背に乗った。
掴み所もなく、安定感のない背中にビクビクしながら再び空に昇った。
堯天山の影が大きくなるにつれてはどんどん高度を上げた。
もはや地上は豆粒にも満たない気がする。
というか、恐ろしすぎて上も下も見たくない。
『このまま一気に禁門まで行くぞ』
「え?!ぎゃぁぁぁぁぁ!」
* ひとやすみ *
・変身しちゃいました!
そろそろ杜憐泉編も佳境に入ります。もう少しお付き合い下さいませ(09/02/03)