ドリーム小説

様は海客でいらっしゃるのに本当によくご存知で。こちらの事を教えて下さった方は良い師の様ですね」

「そう、みたいです」




朝食を終えると、雁の大司寇である朱衡さんがやってきた。

私達はいろいろな話をして楽しい時間を過ごした。

私に十二国の事を教えてくれたのはお祖母ちゃんだ。

それは私にとってすごく誇りに思う事で、にとっても大事な意味があった。

お祖母ちゃんは元々こちらの人での前の主だったからだ。

憐泉とはお祖母ちゃんの名前で、私は慶の胎果、そしては簪の化身。

こちらに来たばかりの私にわかってる事はこれくらいしかない。




「朱衡さんは憐泉という人物をご存知ですか?」




机を挟んで向かい側でお茶をしていた朱衡さんは目を瞬いた。

はすでに机から離れて、本棚から見付けてきたという本を窓際に座って読んでいた。




「憐泉とは・・杜憐泉殿の事でしょうか。ならば彼女は伝説の慶の官吏です」




私は思わずポカンと口を開けて固まり、反応しようがなかった。

だって、まさか官吏だったなんて思わないし、てか伝説って何よ?

もこの話題が気になったのか本を閉じて朱衡さんの話に耳を傾けていた。




「彼女ほどの人物なれば様もどこぞで耳にした事があるのでしょうね。

 さんが見付けたと仰ったようですが」




ちらりとを伺い見た朱衡さんの言葉に目を伏せた。

の発言が嘘ではないと分かった今、あの言葉は胸に痛すぎた。

確かには憐泉を見付けたけれど、お祖母ちゃんはもうこの世には居ないと私はよく知っている。




「伝説とは言いましたが、私も実際お会いした事があります」

「どんな人だったのですか?」

「とても優しく美しく、それは聡明な方で達王の治世に突如現れた有能な官人と聞いております。

 その外交の巧みさと官吏を縛る法の手腕は特に素晴らしく各国が羨むほどで、私も彼女に憧れたものです」




本当に嬉しそうに語る朱衡さんの言葉に私も自分の事のように喜んだ。

お祖母ちゃんがそんな凄腕の官吏だったなんて。

やっぱり自慢のお祖母ちゃんだ。




「外交と言う事は彼女も秋官だったのですね」

「えぇ。私と同じ大司寇でした」

「えぇ?!」

様・・??」




大司寇ー?!

まさかそんな国の中枢にいたとまでは思わないでしょ!

衝撃のあまり、本当に能吏だったのですよ、と呟く朱衡さんに翳りが見えたのに気付かなかった。




「彼女は180年ほど前に地方の公田の視察に出掛けたきり行方を晦ましました」

「180年・・・?!」

「はい。大体ではありますが」




多分その時、お祖母ちゃんは日本に流れ着いたんだろうけど、それにしても辻褄が合わない。

いくらなんでも行方を晦ましてから180年間日本で生きてたなんてあり得ない。

お祖母ちゃんは仙籍を削除され、日本で76歳の生涯を全うした。

何らかの要素が働いて、私かお祖母ちゃんが世界も時間も飛び越えたと考える方が自然な気がする。




「憐泉殿を重用していた達王は冢宰の席を渡そうとしていたようなのですが、その矢先に・・」

「ちょっと待て!そんな話、私は聞いていない!」




が椅子から立ち上がり、急に叫んだので私と朱衡さんは振り向いた。

その勢いで膝に置いていた本がバサリと落ちたがは気にもしなかった。

残念そうに目を瞑った朱衡さんは首を静かに振って否定した。




「いいえ。確かに達王は冢宰の席を憐泉殿に差し出そうとしていました」

「そんな事までしていたとは・・・」




悔しそうに顔を歪め首を振ったは再び椅子に身体を沈めた。

重い沈黙に唇をなぞる様に触りながら過去に思いを馳せた。




「達王は180年前に憐泉殿を追う様に崩御なさり、現景王は・・・」

「景麒失道・・」




朱衡さんの言わなかった言葉を補うと、どちらからでもなく溜め息を吐いた。

お祖母ちゃんが尽くして働いた慶東国は何代もの王の手によって栄え、そして滅びようとしていた。




「さて、そろそろ主上も起床なさった頃でしょう。私はここで失礼します」

「朱衡さん、楽しかったです。ありがとうございました」




ペコリと頭を下げると朱衡さんは笑いながらこちらこそ、と返してくれた。

するとが私の元へやって来て朱衡さんと一緒に行くと言い出した。




「こちらも時間がない。延王に暇願いたい」




朱衡さんは頷いて踵を返し、私達もその後を追った。



* ひとやすみ *
・祖母ちゃん一体何歳なんですかね・・。
 話の都合上、無理矢理設定ですのでA型気質の人、
 計算は無意味になっちゃいますー!悪しからず!!(09/01/25)