ドリーム小説
お祖母ちゃんは帰りたかったんだろうか。
は首を振ってそれは考え直した。
最後はちゃんとの名前を呼んでくれたし、最後に呟いた名前は祖父だった。
祖母がどうやって日本に行ったのかは分からないけど、幸せだったはずだ。
衝立の向こうから桶を持って現れたを見上げたは泣きそうな顔をしていた。
はそれに気付いたが、何か言おうとしたを遮って顔を洗えと言い放った。
衝撃の事実に更なる疑問が次々と浮かんできたが、
纏まらない思考をに話すのは難しく、結局黙る事にした。
渦巻く感情を沈めようと冷たい水の張った桶に顔を突っ込んだ。
勢いよく顔を上げれば、顔を伝って流れる水がの意識を別の場所へ向けた。
目の前でのためにテキパキと動くに目を向けた。
無理矢理の顔を吹いてせかせかと身嗜みを整えてくれるがこの前までの狼だとは到底思えない。
視線を感じたのか怪訝そうに見ているは今度はの髪に櫛を通した。
「どうしたらこんなに髪が跳ねる」
「でもが綺麗にしてくれるんでしょ?」
「こんなに汚ければ直す私が大変ではないか」
「どうせ私が逃げても寝癖のままでは許さーんって追いかけて来て直しちゃうんだから一緒じゃん」
「・・・小賢しい」
寝台の淵に腰掛けて足をパタパタしながらは首を傾げた。
こんな掛け合いをどこかで聞いたような気がして、思案していたら傾いた首を真直ぐ戻された。
スッと何度も音を立てて髪を梳かれるのを聞きながらふと思った事を口にしていた。
「もしかして、は私のお祖母ちゃんが憐泉さんだって気付いてたの?」
途端にはたりと消えた音に気まずい空気が流れる。
聞こえてくるのは波が打ち返す水音だけだった。
「・・・・あぁ」
溜め息交じりに呟かれた声は哀しみの色を滲ませ潮騒に溶けていった。
***
「えぇ?!私、慶の胎果なの?!」
驚愕の事実って奴は一体どうしたらなくなるのでしょう。
朝食までの時間にが慶に向かう理由を話してくれると言った途端にこうなった。
こっちに来て姿が変わった、くらいにしか思っていなかったのだが、
言われて初めて自分がこっちの人間なのかと考えた。
何しろ髪は黒に近いが確かに暗緑色だし、瞳も同じく緑色だ。
「この私の主になれるのは慶の者だけだ」
「てことはお祖母ちゃんも慶の人で、だから私も慶の胎果なの?」
「いや、それは偶然だな。だがも慶の民なのは間違いない」
「も慶の人だから主は慶の人しかなれないの?」
お茶を用意しながらは豪快に笑った。
悪戯っぽく見てくるその目には眉根を寄せた。
「私は人でもなければ、何でもない」
「え、何?」
「強いて言うなれば、簪の分身だとでも思え」
またもぐらつく思考に頭を抱えながら叫びそうになるのを何とか抑える。
盃と急須を暖めているのを見ながらの頭は思わず魔法のランプを思い浮かべた。
「その昔、慶の冬官玄師が冬器だけでなく主上への献上品に呪を施した」
「武器だけでなく、献上品まで?それがあの簪?」
「まぁな。だが、ただの呪だけなれば私は生まれていない」
面白そうに笑うは蒸らしたお茶を音を立てて入れた。
それが終わるまで話そうとしない所がじれったい。
「景王が自ら呪を掛け直したのさ」
「え?」
「どうやらその素質があったようでな、慶の為に仕える簪を作り出した」
お茶を啜りながら人の姿を取れるようになったのは100年を越えたくらいからだ
と、いうを唖然と見た。
これはもしや日本で言う八百万の神って奴ではないだろうか・・・?
「・・・私には憐泉を可愛がっていた主上に報告しに行く義務がある」
簪を見つめて目を細めるには一つ頷いて決意した。
慶に行かなければならない。
なんとしても沈み行く慶に行って、お祖母ちゃんの事を伝えなければ。
* ひとやすみ *
・発覚第2弾!!人でなし狼!!(意味が違う・・
本格的に慶に向かって行ってもらいましょう!!(09/01/23)