ドリーム小説
与えられた部屋はたくさんの装飾品が飾ってあって何だか落ち着かなかった。
は豪華な広い寝台に倒れ込むと大きく息を吐いた。
一体、何が起きてるのだろう。
白昼夢を見たり、景麒失道の報を聞いたり、それどころか憐泉の謎が深まった。
が何か知っているはずだけど、何となく聞いてはいけないような気がして聞けず仕舞いだ。
呆れたように簪を抜いたり、袍を脱がせたりしてくれるにちらりと目を向けた。
「(何だかんだ言って面倒見がいいんだよね、って)」
そんな事をとりとめもなく思っていると不意に何かの匂いが鼻をついた。
これは海の匂い・・・?
周りに気を配り、耳を澄ますと潮騒がした。
なるほど。これって・・。
「雲海ってホントにあるんだね」
「あぁ」
再び静寂がやって来ての耳に波の音が聞こえた。
どうやらも同じように耳を澄ましているようだった。
何だかとても疲れたは重い瞼に耐えながら甘えるようにの衣を握り締めた。
は自分の前に横たわる主の手を見て瞬いた。
の意図が伝わったのかは溜め息を吐いて、と同じ寝台に潜り込んだ。
何となく話すなら今しかないと思ったら口を開いていた。
「・・・瑞花って小さい子、憐泉さんに仕えて嬉しそうだった」
「!!・・・・・玉で覘いたのだな?」
「あれは簪が見せたの?」
「玉の記憶とでも言っておこうか」
「そっかー・・・。も憐泉さんに仕えて嬉しかった?」
「・・・・あぁ」
やっぱりの前の主人は憐泉さんだったんだ。
あのふわふわの緩いウェーブを描いた白い髪と青い瞳を持った瑞花のように
も楽しそうに微笑んでいたのだろうか。
そう思うと何だか急に寂しく思えた。
はとの間に置いてあった簪を軽く握った。
常に定まらない玉の色が月明かりで煌き、今夜は深い紺色に見えた。
それはまるであの憐泉の髪色のようだった。
「憐泉さんは今どこに・・?」
「憐泉は・・・死んだ」
あの時、は延王に憐泉を見付けたと言わなかったか。
はまどろみの中で聞こえた悲しげな声に疑問を覚えたが、迫り来る眠気には勝てなかった。
眠りに落ちた主を見てもきつく目を閉じた。
「憐泉も瑞花も死んだのだよ」
***
ごめんね、。貴方を置いて先に逝く事を許して下さい。
― 何を弱気な事を言ってるの!お祖母ちゃん!
ふふ。本当は気掛かりな事がたくさんあります。
あの雪の子に約束を破った事を謝りたいし、あの方に先立つ事をお許し戴きたいし、
私はもっとと話がしたかった。
― 全部。全部私が叶えてあげる!だから一緒に居てよ、お祖母ちゃん!
そうね。いつかなら叶えてくれるかもしれないわね。
お祖父さんにはもう少し待っていただかなければね。
今の私の願いはの傍に出来るだけ長く居る事ですから。
震える瞼が開けば見慣れぬ景色が目に入った。
ゆっくりと起き上がると目に溜まっていた涙が頬を走った。
最近よく見る祖母の夢。
今見た夢はそう遠くない過去だ。
この少し後に祖母はを残して逝ってしまった。
外はすでに陽が昇り始めたようで少し薄暗いものの、間も無く朝の光で満ちるだろう。
広い寝台の上にはの姿しかなく、部屋にもの気配はなかった。
あの時、祖父の話をする祖母を見たのは久しぶりだった。
は両親が亡くなった数年後、追う様にこの世を去った祖父に想いを馳せた。
母が勘当同然に父に嫁いだと聞いていたので、祖父と祖母はあの二人しか知らない。
少しだけれど両親よりも長くと一緒にいた祖父は本当に祖母と仲が良かった。
好々爺と言うより、に言わせれば人の良いオジさんのようだった。
祖母が歳を感じさせないいつまでも若い人だったように、祖父もそんな若々しい人で歳のいった両親の感覚だ。
祖父が亡くなってから、けして祖父の名を口にしなかった祖母から出た名前に何かが引っかかった。
十年以上も前に亡くなった祖父の記憶は曖昧で、何か霧が掛かったようだった。
『どうしておばあちゃんをそんなふうに呼ぶの?』
『どうしてだと思う?』
『あら、今度は何をに吹き込んだんですか』
『何でもないよ、― さん』
『おーしーえーてー』
『人の名前にはちゃんと意味があるんだよ、。
”あわれ”を辞書で引いてみなさい。そうしたら分かるはずだ』
『またそのようなことを・・』
『じしょ・・?』
お祖父ちゃんはお祖母ちゃんを何て呼んでいた?
思い出せないのがむず痒いけど、お祖父ちゃんは確か名前では呼んでいなかった。
お祖父ちゃんを若いと思ったのはお祖母ちゃんをあだ名で呼んでいたからかもしれない。
でも、隠すようにそのあだ名だけが思い出せない。
お祖父ちゃん何で”あわれ”を調べろなんて言ったんだっけ?
あだ名と関係してたとは思うんだけど。
確かこの後、小学校の先生に意味を教えてもらったんだよね。
当時はすごく嬉しくて喜んだけど、今考えたらおかしな話だ。
あわれとは哀しみ、同情の他にも慈愛の心や賞美するなどの意味があったはず。
ようするにお祖父ちゃんの
ノロケじゃん!!
褒め称えたい、とさらりと述べたお祖父ちゃんに呆れてしまう。
「ホントに仲が良かったんだよねー」
そこでは軽く笑って膝を抱えた。
今思えば可笑しな祖父母には肩を揺らして笑った。
そしてふと思い当たった。
あわれを調べろって。
そうだ。
”あわれ”という字は憐れと書いた・・・。
ふと頭を過ぎった紺色に急速に頭に駆け巡る想像が確かな糸で結ばれていく。
祖父は祖母を憐泉と呼んでいなかったか・・・?
まさかと言う思いが確信に変わっていく。
祖母の持っていた玉の簪。綿密な世界観を持つ十二国を語る祖母。の前の主、憐泉。
憐泉さんはお祖母ちゃんだ。
唐突に閃いた答えには膝を抱えて顔を埋めた。
祖母は十二国の話を求めるに快く話してくれたが、どこか少し寂しそうだった。
その意味が今になって分かった。
* ひとやすみ *
・引っ張ってきた謎がここに解明されました!
まだまだ謎だらけですがもう少しお付き合い下さい。(09/01/20)