ドリーム小説
街中を風漢さんとフラフラ歩きながら話していたら、いつの間にか丸め込まれて奢って貰う事になった。

今は風漢さんの馴染みの店に向かっている最中だ。




「ではは六日前の蝕で雁に?」

「そうみたいです。関弓へは今日着いたんですが」

「六日で関弓へ・・。本当に旅は得意なようだな」

「得意と言うか、親切な連れがいるので」

「それはいい人に出会ったな」

「ははっ」




人って言うかなんですけどねー。

風漢さんは何か考えるようにして緑の柱の宿へ入っていった。

・・・何と言うかどこよりも派手な店だな。

慌てて着いて行くと中に居た人達が一斉に見てきて驚いた。

中では風漢さんが私を指差し、それを取り囲むように居た着飾った女の人達が私に群がってきた。

な、何?!

こんだけ美人に囲まれたら嬉しい所かむしろ怖いよ!




「服が欲しい。を着飾ってやってくれ。丁重に頼むよ」




は?!

着飾る?え?何??

一気に言った風漢さんに口を開く前に、周りのお姐さん達に手を引かれた。

何事かと慌てて見回してみたけどお姐さん達は楽しそうに薄く笑うだけだった。

どうなってるの、風漢さん!!




「上に住む官にもなるとこれくらいの楽しみもないとやっていけん」

「ちょっ!風漢さーんッ!」




訴えも虚しくお姐さん達に連れ去られて引ん剥かれ、何枚も服を重ねられ抵抗を諦めた。

楽しそうなお姐さんに髪を梳かれながら窓の外に目をやった。

活気の溢れてきた街は昼食を求める人で賑わってきた様だった。




「終わりましたよ」

「えと、あの、ありがとうございます?」

「いいえ。あとで旅装もお届けしますわ」

「え?」

「風漢様に旅装も頼まれておりますので。ふふ、御代は頂戴しましたよ」




心底お金の心配をしていたら心中を察してか、着付けてくれたお姐さんは笑って言った。

お礼を言えば、手を引かれて部屋を出た。

廊下は中庭を囲むように敷かれていて、純粋に天井を支えているのは柱だけのような開放感があった。

木に複雑な掘り込みのしてある扉を開けて衝立を避ける様に部屋に入れば風漢さんが一人酒を煽っていた。




「ほぅ。これは美しくなったものだ」

「基が良かったので」




楽しそうに笑う二人に居た堪れない気持ちで俯いた。

うん。確かに着物は綺麗だよー?

でも着てるのが私だと思うと・・・。

何て言うか着てるというか着られてるとしか言えない気がするし。

するとお姐さんは目の前にやって来て私の頬を両手で包んで顔を上げさせた。




「さ、綺麗な顔が勿体無いですよ。お酒はそこに置いていきますね」




そう言ってふんわり笑うと軽く膝を折って部屋を出て行った。

風漢さんにちらりと視線を向けて呟いた。




「奢るってまさかこれですか?」




自分を指差すと風漢さんは頷いて空になった杯を差し出してきた。

全く、なんて人に助けてもらったんだろ。

困ったように笑って置いてあったお酒を風漢さんが差し出した不思議な形をした杯に注いだ。




が先に聞いたんだろうが。仙にもなれば何を楽しみに働くのだ、と」

「その答えがコレなんですね」




街を歩いていた時に興味本位で尋ねた答えがこんな形で返って来るとは思ってもみなかった。

それにあの時はあの時で一応答えを貰っていたのだ。




「働いてばかりで金ばかり溜まる一方だからな、たまの休みに散財して楽しむのだよ。例えばに奢るとかな」




そのように丸め込まれて関弓の街をウロウロしてたはずだったのだ。

はずだったのに私は今、蒼い衣に銀の帯を締めて複雑な髪型に重い簪を挿して風漢さんに御酌をしている。

何でこんな事に・・・。




「全く。今日は逃げ切れると思ったのだがな」




溜め息と共に急に呟いた風漢さんに首を傾げれば、何やら廊下が騒がしくなってきた。

大きな音がして衝立から飛び出てきたのは、役所の前で会ったターバンを巻いた少年だった。

驚いて口に手を当てて、そんな自分にさらに驚いた。

こんなに着飾ると服装に似合うような行動を取るようになるらしい。




「ようやく見付けたぞ!!おまえなぁ、また女と・・っておまえは!!」

「何だ知り合いか?」

「またお会いしましたね」




ニッコリ笑えば、少年がすっ飛んで来て私の肩を掴んで何かを喚いた。

聞き取りたいのだがあんまりガクガクと揺らして叫ぶものだから聞き取れない。




「な、な、何て言いました?」

「だから!海客だからって身売りするほど金に困る事なんてねぇだろう?!何で花娘なんてッ!!」

身売りィ?!




笑いを堪えきれず吹き出した風漢さんにハッとした。

女だらけの店にこんな衣装や寝台メインの部屋に少年の焦り様。

恨みの篭った目で風漢さんをねめつけてから私は少年を引き離した。




「違いますから!どこかの誰かさんに騙されてこんな服を着付けられただけですから」




困ったように笑えば少年の目は段々と据わってきてクルリと酒を煽っていた風漢さんに向いた。

ガミガミと少年に怒られてる風漢さんにニマリと笑う。

ふーんだ。ざまーみろっ。




「あ、そだ!おまえ名前は何て言うんだ?」

「え、です」

「そか。おれ六太!よろしくな、




ニカッと音がつきそうなくらい晴々と笑った六太くん、いや、この場合、仙なんだから六太さん?

に、つられて笑えば、風漢さんがこっそり安堵の溜め息を吐いているのが見えた。




「で、なんでコイツと一緒に居るんだ、?」

「あのなぁ、仮にもお前の上司にコイツ呼ばわりはないだろうが」

「煩い!おまえが朝から逃げ出して、どれだけおれが朱衡に苛められたか!」

「それで逃げ出して来たか」

「一緒にすんな!おまえを連れ戻す任務をもぎ取ってきたんだ」

「一緒ではないか」




静かだった部屋は六太さんが増えた事で一気に賑やかになった。

この2人、ホントは仙人じゃなくて漫才師なんじゃないだろうか。




「荷物を盗まれて風漢さんに助けて頂いたんですよ」

「盗まれたぁ?!」

「旌券だけは取り戻せたんだがな」

「それだけあれば旅は楽になるので助かりました」

「・・・おまえ、楽観的だなぁ」

「そう、ですかね?」

「・・・・は俺が知ってる人に似ている気がする」




首を傾ければ、姿や雰囲気は似てないんだが、と風漢さんが呟くのでさらに首を傾げる事になった。

するとまた廊下が騒がしくなり何かあったのかと扉の方を見つめていれば衝立が吹っ飛んだ。

驚いて目を見開いていたのはどうやら私だけではないようだった。

そこには衝立を蹴り倒し、怒りを露わにした女の人が立っていた。


* ひとやすみ *
・雁主従出せたーvv
 気の置けない二人の雰囲気が好きですv  (08/12/21)