ドリーム小説
役所で何だか可笑しな質問をされつつも旌券を貰う事が出来た。
これで第一課題はクリアだ。
次なる課題は服の調達をすること。
そして私はかれこれ十分ほど店の主人と言い合っていた。
「何でこれとこれじゃダメなんだろ?じゃ、これは?」
「そうじゃねぇよ!こうならアリだが」
「これは?」
「ダメダメ!」
何でだ?
このワンピースみたいな服とズボンを組み合わせて着るみたいなんだけど、
どういう基準で分けられて着ているのか全く分からん。
両手に掴んだ衣に視線をやって首を傾げれば、店主が呆れたように溜め息を吐いた。
てか、着こなしにそんなにこだわるオシャレ物なの、これ?
意外に頑固な店主と張り合っていた私は、他に私達の様子を見ていた者が居たなんて気付きもしなかった。
今から考えればこっちでは見慣れないパーカーに大きな穴を二つ開け、裸足で店主と揉めてる海客は目立つよな。
ようするに私のパーカーをかじって運んでくれたのせい。
「あー、もう選んで?」
言葉が伝わったかどうか謎だけど、肩を竦めて諦める事にした。
私の投げやりな態度が良かったのか、どうやら意味を理解してくれたらしい。
勝ったって顔してる店主が憎らしいけど、そんな事言ってるほど私に時間はない。
店の主人が選んでくれている間に不意に誰かにお尻を触られた気がした。
何?こんな所まで来て痴漢?
振り返った瞬間、後ろに立っていた男が体当たりして来て尻餅をついた。
何なの?!最近は痴漢した相手を突き飛ばす訳?!
その痛さに恨みを込めて走り去る男を睨み付ければ近くで誰かが叫んだ。
「スリよ!!」
その声に初めてポケットの軽さに気付いて慌てて手を突っ込めば何も掴めない。
あの男、泥棒かよ!!
せっかく手に入れたお金も旌券も全て盗られた。
元々なかった物だから別にいいっちゃいいんだけど、牙を剥く白い狼が想像できて私は走り出した。
じゃないと次に穴が開くのはきっとパーカーじゃなくてこの私!
「旌券!!返してそれだけは!怒られる!面倒!」
それがこちらの世界の言葉で叫べる限界だった。
泥棒も聞こえているのだろうが逃げるのに必死のようでやっぱり振り向きもしなかった。
もうダメだと諦めかけた時に、観衆の中から泥棒を追いかけてくれた男の人がいた。
「え?」
ぐんぐん追い付くその人に泥棒も気付いたようで足が速くなる。
だけど、それ以上に速い男の人に泥棒は無我夢中で何かを後ろに向かって投げ付けた。
カラン、と小さく音を立てて落ちたのは多分旌券だと思う。
どうやら私の言葉を聞いていたらしく旌券だけ投げて泥棒は逃げていった。
てか、聞こえてたなら最初から返せよ!
男の人は落ちてる旌券を拾うと引き返してきた。
私は慌てて旌券を取り戻してくれた男の人に駆け寄った。
髪を紐で一つに縛ったその人はヒーローに相応しい美丈夫だった。
「本当に旌券だけだが」
「いいんです!ありがとうございました!」
「いや、面白い物を見せてくれた礼だ」
「は?」
男の人はその精悍な顔を楽しそうに歪めて衣装屋へ顎を向けてから周りを見渡した。
何かしたっけ、と首を傾げながら衣装屋に視線をやってから同じように辺りを見渡した。
するとニヤニヤと笑ってる多くの人々と目が合って思考が止まった。
そして思い当たったのが先程の衣装屋の主人とのやり取りだった。
「まさか、みんな?」
「そういう事だ」
まさか見られているなんて思わないじゃん!
俯いて恥ずかしさを堪え、どこかに隠れたい気持ちだった。
そんな私を気にせず豪快に笑った男の人は面白そうに見下ろした。
「しかし酷い格好だな」
「あぁ、まぁ」
「なのに旌券しかないので着替えられない」
「まぁ、お金がなくても旅は出来るし、旌券があれば手続きいらずで楽ですから」
ケラケラと笑えばその人は楽観的に笑う私に呆れたような顔をしていた。
だって旌券が帰ってきたから半分課題はクリアした訳だし、に穴を開けられる事はないはずだ。
・・・・ひとつしか。
自分の酷い格好を見て少し沈んでいると助けてくれた男の人に肩を抱かれた。
肩に置かれた手を見て思わずその人を見上げた。
「移動しよう。まだ見られていたいなら別だがな」
その言葉に周りを見ると物凄いガン見されてた!
裸足で泥棒追いかけた海客って・・・。
サザ○さんじゃないんだから。
「う。・・・ご一緒してもいいですか?」
「もちろんだ」
バツの悪そうな顔をしてるだろう私に男の人は声を上げて笑って視線を落とした。
「俺の名は風漢だ」
「です。高峰」
* ひとやすみ *
・名前変換がない!も、申し訳ないデス!!
雁の人、風漢がよーやく登場ですよ! (08/12/19)