ドリーム小説
まだ陽も昇りもしない時間に起こされて、顔を洗って服を着ろと狼が煩い。

もう少し寝かせて、と言うと食べられそうになりました・・・。

おっかねえ、この狼!



しぶしぶ顔を洗って少し頭がはっきりした所で朝食となった。

どうやら昨日獲って来てくれたらしく、木の実や果物などを与えてくれた。

変な虫やら何かの生肉じゃなくてよかった。

食べ終わると狼が話し出した。

ようやく詳しい話をしてくれるらしい。




『玉をどこで手に入れた?憐泉を知っているのか?』

「え?これはお祖母ちゃんに貰ったのよ。憐泉って何?」

『いや、知らぬならいい。では契約譲渡とし、お前が新たな主なれば死ぬまで仕えてやる。

 主でないのなら今すぐ立ち去るがいい。ただし逃げられるのならな』

「・・・脅しじゃないの」

『主になるならば契約に基き、死後の主の身体を頂く』

「げぇー・・」

『どちらがいい?』

「手立て無しじゃない。勝手にこんな契約譲ってくれたアンタの前の主人を恨んでやる」




こんな理不尽な契約ってない!

クーリングオフ制度も完備しとけっつーの!

で、どうしたらいいの、と聞けば狼はニタリと笑って散らばっていた木の実を差し出した。

軟らかいどんぐりのような木の実を拾い上げて狼を見ると、木の実の一つを踏み潰して汁を飛び散らせていた。

何遊んでんの・・・?




『この汁で私の額に印をつけ、名を与えろ。それで契約完了だ』

「しるし・・?」

『何でもいいがお前が死ぬまで消えないから変な物にしたら噛み殺す』

「(うわ、肉って描こうとしたのがバレたみたい・・)」




悩んでいたら不意に頭に浮かんだマークを狼の白い額に指で描いていた。

しばらくするとその印は急に色が緑と青に変色した。




『私に名を』

「・・・ってどう?」

・・』

「この不思議な簪の分身みたいな物だし、それにっていうのは雪って意味なのよ」

『・・雪』

「だってアナタ、雪みたいに真っ白で綺麗じゃない」




と名付けられた狼は目を細めて、真直ぐに私を見た。



『主の名は?』

。高峰よ」









***







「何ですってーッ?!」

『煩い!耳元で叫ぶな』




何日か森を駆けて今になって衝撃の事実が発覚した。

の背に乗って森を駆けながらいろいろと質問をして事態に気付いた。




「ホントに十二国の雁なのね?!」

『何度も言わせるな』




この所、祖母がよく話してくれた十二国の物語の夢を良く見るとは思っていたが、

まさか飛ばされた所が異世界で、今いる所が十二国であるとは露にも感じていなかった。

第一、あの物語が現実に存在しているなんて思ったことが無いのだ。



お祖母ちゃんは知っていたのだろうか。

十二国が存在している世界だという事を。

この簪だって元々ここの物だったみたいだし。

簪はどうやって日本のお祖母ちゃんの手に渡ったのだろう?

お祖母ちゃんも人から貰ったと言っていたが・・。




『もう一度言うが、役所で旌券を貰って来い』

「その後は慶の国へ行くのよね?」

『・・そうだ』




この時点で私は日本に帰る事をすでに諦めていた。

私はきっともう日本に帰れない。そんな気がする。

なのにストンと理解してしまった自分がいる。

帰れなくても後悔する事は何一つ無いからだ。

あ。お祖母ちゃんの仏壇が気がかりではあるけれど。

初めから私は何も持ってやしない。

それにここからすぐ帰れる場所なら、世界がこんな摩訶不思議な所を放っておく訳が無い。

こうなってくると如何にしてこの世界で生き残るかという事だった。

幸いにも私にはが居たので困難は少なそうだった。



それにしても雁州国の都、関弓まではの足を以ってしてもあと3日はかかるという。

この何にも無い青い空を飛んで行けたら早いのに。

こっちの人の旅は大変そうだ、と溜め息交じりに呟くと下の方から声が上がった。




『なるほど』




その瞬間、の背に白い天使のような羽根が生えた。

うえぇ?!そんなのあり?!

私が驚きに声を上げるより先にの足は空を掴み、駆けていた。




「狼って飛べたっけ?!」

『私は狼ではない。ご希望なら鳥にでも何でもなるが?』

「お、落ちるからこのままでいい!」




愉しそうに喉を鳴らしたは風の様に空を駆け抜ける。

丸1日かけて空を走ってようやく関弓が見えた。

雲の上まで聳え立つ大きな関弓山が近付いて来た時に、は森に降りて暗い森を駆けた。

どうやら今夜も野宿決定のようで不思議な白い木の下で休む事になった。

周りを隠してくれる草も無く不安に思い、丸くなったにくっ付けば鼻で笑われた。




『この木は野木と言って、野木の下では生き物は争わない』

「野木?里木とかと一緒?」

『海客のくせには物知りだな』




驚いたように頭を持ち上げたに私は苦笑した。

私自身こんなに十二国の事を知っているとは思ってなかった。

お祖母ちゃんに引っ付いて十二国の話をおねだりした小さかった頃の自分に礼を言いたいくらいだ。

今更気付いたんだけど、そういや私って海客なんだよね・・。

明日は街に入る。

私は、人間の生活に戻れるだろうか。


* ひとやすみ *
・雁州国に滞在中です。
 狼娘、次は街に繰り出します!笑(08/12/16)