ドリーム小説
ねぇ、転変して人型になった麒麟の髪は黄金色をしていてそれはとても美しいんだよ。
― 変身して金髪の人になるの・・?
ふふ、そうだよ。麒麟の髪は本当は鬣なんだけどね。
― それでそれで?
男の子なら麒と呼ばれ、女の子なら麟と呼ばれるのよ。
― き?りん?
例えば、慶の国にいる男の子の麒麟なら景麒。奏の国にいる女の子の麒麟なら宗麟とね。
― へぇー。
そして麒麟は王を選び、決して王以外に膝を折ることをしないんだよ。
天帝が麒麟を慈悲の生き物にし、血の穢れを厭う仁道の生き物にしたその日から。
― 何だか難しいね。
そう?でもいつかにも分かるわ。
懐かしい思い出を夢に見ながら目を覚ますと視界に飛び込んできた光景に眩暈がした。
白銀の狼が牙を剥き出しにして私を食べようとしてる!!
私みたいなヒョロいの食べても美味しくないよ!!
怖くて声も上げる事も出来ずにきつく目を閉じると額に前脚を掛けられた。
『おい。寝るな』
は・・・?
今の声はどこから?
そっと目を開けるとおかしな事に狼は離れた所に座っていた。
辺りを見渡しても声の主らしき人は周りに居ない。
するとヒヤリとした感覚が足を撫でて、私は砂浜に打ち上げられていた事を引いていく波に理解した。
どうやらあの真っ黒な穴に落ち、その先がこの不思議に黒い海だったらしい。
打ち寄せる黒い水は下半身だけを濡らしていて頭は乾いていてどこもかしこもパリパリして潮臭い。
離れた所で前脚を舐めている狼を目の端に入れながらキョロキョロとしていると再び声がした。
『誰を探している?』
空耳じゃなかった。
今、ジッとこっちを見ている狼から声がした。
声というか耳の奥だけで響くような声で実際に声がしている訳ではない。
てか狼が喋ってるよ!!
「あなた・・・なの?」
『何がだ』
「ホントに狼が喋ってる・・」
『・・その玉を持っている限り、お前は私の主で話す事が出来る』
大型犬より大きい狼は白いと言うか銀に近い色をしていて某ジブリ作品に出てくる狼を思い出した。
違う所は物凄く長そうなふさふさの尻尾が二本あるぐらいだ。
何だかとんでもないファンタジーに巻き込まれた気分だ。
喋る狼が居る、変な色の海の浜辺に狼と二人きり・・・
混乱してても可笑しくないよね?
玉って何?主って何?!
何言われてんのか全く分かんない!
『人が来る。来い』
立ち上がった狼は波打ち際に座り込む私の背中を鼻先で弄ったと思った矢先に大きく口を開いた。
その直後、狼の牙は私の背中を貫き、胴体をかじる様に咥えられた。
「いやぁ!」
私を咥えたまま狼は急に走り出した。
叫び声を聞いてた人が居たようで大声で何か叫んでいる。
「妖魔だ!!妖魔が出た!」
私は狼に咥えられるという貴重な体験をしながらようやく声を発した。
ゆさゆさと揺られて喋りにくい。
「・・移動するなら背に乗っけてよ。メチャクチャ怖かったんだから」
口先に咥えられブンブンとなす術なく狼に振られる私は傷一つなく凄いスピードで運ばれていた。
いや、唯一傷付いたのは牙に貫かれたパーカーである。
結構気に入ってたパーカーだったのに。
を指差し心配してくれているのだろう人々の声を聞きながらなす術なく揺られていた。
『汚いお前を乗せたら背が汚れる』
「綺麗好きの妖魔さんで」
『妖魔なんかと一緒にするな』
「違うの?」
もの凄いスピードでの移動の代償に、着ていたパーカーに大きな穴が開いた事は間違いないだろう。
どんどん離れる変な海の次は古い中華風の町並みだった。
狼は森の中を走るので途切れ途切れにしか見えなかったが確実に日本ではないようだ。
「(喋る狼の時点で諦めてたけど)」
どれだけ走ったのか深い森の中で川を見付けた所で狼は止まった。
川に近付いていくと狼は咥えた私を軽く振って遠慮なく川に放り投げた。
「ぷはっ!いきなり何すんのよ!」
『これで少しは綺麗になるだろう』
「ふざけんな!」
深くも浅くもない川に投げ入れられびしょびしょだ。
お風呂に入ったのが遥か昔に感じられる。
狼はここを動くな、と言って私を川に置いたままどこかへ行ってしまった。
仕方なく服を脱いで身体を洗い、海水で固まった髪に手を伸ばした。
そこにあった簪の事をようやく思い出して、よく流されなかったものだと軽く笑って岸に置いた。
帰ってきた狼は何だか色々咥えていてそれを地面に置くなり呻り出した。
何だかよく分からないが、怒っているのだけは分かる。
まさか私を綺麗に洗って食べるとか言うオチじゃないよね・・?
呻るばかりで何も言わない狼は簪を口で拾って私に突き出してきた。
それを受け取った途端、怒鳴られた。
『馬鹿かお前は!玉を手放せば話せんと言っただろうが!』
「うわっ!じゃあ玉ってこの簪の事?」
『言い忘れておったが、玉が主以外の手に渡れば私も役目を終え、主を喰い殺す』
「主って私よね?!そんな大事な事、先に言いなさいよ!」
『ふん』
私は慌てて簪を隠すように抱えて息を吐いた。
この狼は私を主と言ってるけど、どう見ても友好的な様子は微塵もない。
水から上がれと狼は言うが、生まれたままの姿をさらすのは両親だけで充分だ。
『全く、人間という物はよくわからんな。見なければよいのだろう?こっちへ来い』
狼は目を瞑ってくれたようでおずおずと川から上がって手早く木に濡れた服を引っ掛けて狼の元へ行った。
するとふさふさの尻尾と首の毛ですっぽりと私を覆ってくれた。
「あったかい・・」
『私は冷たい』
は小さく笑うと目線の下にある狼の頭を撫でて眠りについた。
* ひとやすみ *
・名前変換が出てこない。申し訳ないッス!(08/12/16)