ドリーム小説
遠い遠い国のお話を聞かせてあげよう。

それは12の国にある12人の王と12人の麒麟の物語。









優しい声音で囁いたそれを懐かしいと感じながらは瞼を開けた。

いつの間にやら眠っていたようで、目が覚めた今、ちょうど授業が終わったようだった。

そそくさと教室を出て行く受講者を見送りながらも荷物をまとめて部屋を出る。



10年以上も前に両親を不慮の事故で亡くし、この大学に入るまで祖母が育ててくれた。

その祖母もつい先頃寿命を全うしてこの世を去ってしまった。

残されたのは昔ながらの古い家と高峰家の財産全て。

つまり天涯孤独の身となった訳だ。




は学校を出ると家の近くのスーパーに立ち寄った。

どんなに面倒臭くても食べなければ死んでしまう。

今晩の夕食になりそうな物を適当に選んでかごに放っていく。

夕方になり忙しくなったスーパーは人でごった返してきた。

は自動ドアをくぐり、重さで伸びていくビニール袋を握り直して見慣れた道を歩き出した。

暗く静かな家に着いたものの、迎えてくれる人は誰も居ない。

テーブルに家の鍵を投げてはすぐにお風呂に向かった。

とにかく早く汗を流してしまいたかった。

じめじめと身体に纏わり付くような今の気候がは好きではなかった。

さっぱりして出てきた時には喉が渇いてガシガシと髪を拭きながら冷蔵庫を開けた。

缶ジュースに口を付けると仏壇に目が行って位牌の前で姿勢を正して座った。




「ただいま、お祖母ちゃん」




今日一番の笑顔を見せたは手を合わせて目を閉じた。

しばらく動かなかったは一つ頷いて位牌の正面に置いてあった簪を掴んで濡れた自分の髪を纏めた。

元々は祖母の物だった簪を何年か前に譲り受けた。

中央には不思議な色をした玉が付いていてその色は見る度に色が変わる。

必要以上に装飾がゴテゴテと施されていたため、は家でしか使った事がない。

こんな派手な物は成人式くらいしか付けて外を歩けない。

今日の仕事は終わったとばかりに仏壇の前を離れてもう一度風呂場に向かう。

残り湯を捨てるために、栓を抜いて手の水を振り払いながら出て行こうとすると背後から不審な音がした。




「何の音?」




ゴゴゴゴと不吉な音に振り返ると穴が開いていた。

もちろん風呂の栓を抜けば穴が開くのだが、今やその穴は浴槽より大きくなっていた。

どんどん大きくなり迫ってくる穴は暗くどこまでも深い。

まるで穴は全てを飲み込んで行くようだった。




「嘘でしょ・・」




絶句してるさえも飲み込もうと穴は大きくなり呆然と立っていただけのは呆気無く闇に落ちていった。



* ひとやすみ *
・12K連載、はじまるよv(08/12/16)