ドリーム小説

ザンザスがウチに来てから2週間が経った。

だんだんお互いに妥協する事を覚え、有り得ないと思っていた共同生活に慣れてきた。

仕事から帰って来ると返事は無いものの、家にはザンザスがいてソファからひらひらと手を振ってくる。

それが何だか物凄く気恥ずかしくて、どこか嬉しい。




「あー、だからそう持ったら危ないでしょ」




は大根に添えているザンザスの指を隠すように折り曲げ、包丁の使い方の指導をする。

この数日で夕食のサラダはザンザス担当と言うとんでもない事が起こっていた。

いつものように喧嘩から始まり、言い合っている内に乗せられて気が付いたらザンザスがサラダを作る羽目になっていた。

言い出した事を今更取り消せず、仕方なくやっていたのだが最近では嫌そうじゃないのがミソだ。

レタスを豪快に千切りながら、ザンザスは鍋を突いているの背に声を掛ける。




「俺に刃物なんか持たせていいのか?」




無防備な背中を見ながら言うが、は全く落ち着いた様子で受け答えをする。

チラリと振り返ったは悪戯っぽく目を細めて笑った。




「アンタに私を殺す度胸なんてないでしょ」




その一言は暗殺部隊のボスに言い放つようなセリフでは全くなかったのだが、

は本気でそう思っているらしく、ザンザスは自分に不釣合いなそのセリフに噴き出した。




「フハハハハハ!傑作だな!」

「何よ、急に。てか、アンタ指血塗れじゃない!!」




どうやったらレタス千切って指切れるの、とはザンザスの指を水で流して絆創膏を取りに走った。

文句を言いながら、器用に手当てをするを見てザンザスは可笑しな女だと再確認した。

自分に甘えるでもなく、媚びる訳でもない、むしろ口煩いし、面倒な女だと思う。

なのに近くにいても不思議と邪魔じゃなく、むしろ近くにいないと何をしでかすか分からないので落ち着かない。




「もう、切ったら切ったって言いなさいよ。見てる方が痛いじゃ・・・、」




顔を上げるとザンザスが思いのほか近くて、は言葉を切った。

互いにただ視線をぶつけ合い、コトコトと鍋が煮える音だけが耳を打つ。

ザンザスの指を掴んでいるの手がスルスルと離れそうになると、逃がさないと言わんばかりに掴まれた。

絡まる視線が離せず、は息を呑んでザンザスの赤い瞳を見つめる。




「あ、の・・・、」

「・・・・鍋が」

「え?」

「焦げるぞ」

「・・・え?キャー!!そういう事は早く言いなさいよ!!」




慌てて火を切ったを喉で笑うようにザンザスはキッチンを離れた。

今のは何だったんだ?と首を傾げるを面白がるようにザンザスはテーブルに肘を着いて言う。




「ガキに手出すほど、女に困ってねェ」

「・・・でしょうね!てかね、私、23歳だって知ってたかしら?」

「・・・・・どう見ても17くらいじゃねェか」

「何かそれ複雑」




は食卓に晩御飯を並べながら困ったように溜め息を吐いた。

何だか少し悔しくてザンザスの怪我した手を狙うように食器を置けば、あの鋭い目で睨まれた。

ザンザスの作った歪なサラダを口にして、はニッコリ笑った。




「美味しい」

「んなもん、誰が作っても同じじゃねェか」

「ザンザスが作ったって事が違うのよ」




何とも言えない表情で咀嚼するザンザスには楽しそうに笑った。








***






「えぇー?!、彼フッちゃったの?!何で?どうして?優しいから好きだって言ってたじゃないの!」

「え、あー・・まぁ、うん」




仕事場の同僚に可笑しな物を見るような目で見られ、は苦笑するしかない。

これまた同僚に突然告白されたのだけれど、ごめんなさいと断ってしまったのだ。

自分でも好きだと思ってた人だったので、そんな自分に驚いているのは自身だった。

少し勿体無いことをしたかもしれないと思いながら、自宅へと帰った。




「あぁ?何ジロジロ見てんだ」

「(まさか私コレに惚れてるわけじゃ・・・?)」




相変わらず柄の悪い居候には絶対にそれはないなと首を振った。

何せ無愛想で暴君な自己中人間なのだ。

自分が好きなタイプとは正反対の位置にいる男のどこに惚れるというのか。

は誤魔化すようにお土産だと紙袋をザンザスに押し付けて隣に座った。

中に入っていたテキーラを早速開けて飲んでいるザンザスに、は溢すようにツラツラと語った。




「今日ね、好きな人に好きだって言われたのよ。あ、アンタが飲んでるテキーラくれた人ね」




ブッと噴き出したザンザスをは小さく笑ったが、すぐに溜め息を吐いた。

なのにこの虚しさは何なんだろう。

大体、何でこんな事をザンザスに言ってるのかすら分からない。

は馬鹿らしくなって話すのを止めた。




「それで、ソイツに何て言った」




まさか続きを促されるとは思っていなかったは少し驚いて目を瞬いた。

大好きなお酒を飲んでいる最中に、こんな不機嫌なザンザスを見たのは初めてだった。

人から貰った酒ってのが気に入らなかったのかしら?そう思いながらは肩を竦めた。




「フッたわよ。大体好きって言ってもそれほ・・・、てかアンタなんか透けてない?」




ふとが視線を上げるとザンザスの肩が透けていた。

慌てて触ってみるものの、まだ触覚はある。

ザンザスの顔を見てはあぁ、コイツは帰るんだ、と気が付いた。

こうなって初めては異世界の話を信じることになった。




「・・・帰るの?」

「みたいだな」

「そう」




ザンザスがいなくなっても、また元の生活に戻るだけだ。

出迎えてくれる人がいなくなるのは少し寂しいが、別にただそれだけ。




「・・・何でその男フッたんだ」




の思考を遮るようにザンザスの声が紡がれる。

何でこのタイミングでその話、と顔を上げたは射抜くような赤い瞳に身を竦ませた。

よく分からないが、この質問からは逃げちゃいけない気がした。

それに今更だがこうなって気付いた事がある。




「・・・もっと好きな人が出来たからよ」

「・・・そうか」

「でもアンタには教えてあげない」




だって、帰るんでしょう?

はその言葉を呑み込んで、見つめてくるザンザスを見返した。

自分は馬鹿だ馬鹿だと思って生きてきたけど、こんなにも自分を馬鹿だと思った事はなかった。

いなくなると知って初めて、ザンザスが好きなんだと気付くなんて。

くしゃりと歪んでいる顔を見られたくなくて、顔を逸らすとザンザスの低い声が耳を打った。




・・・」

「え・・・、今、名前っ・・・ぅん」




振り返るとザンザスとの距離がなくなった。

少しばかり痛い首にネックレスを引かれてるんだと思ったが、唇に触れる温かさにどうでもよくなった。

キツク目を閉じたまま、どれくらいそこに座っていただろう。

次に目を開けた時、そこには空になったテキーラのビンとしか残されていなかった。

大粒の涙を溢しながらは首元に手を当てて、泣き喚いた。




「ネックレス千切って行くなんてサイテー!!首痛いー!ザンザスの馬鹿野郎!!私趣味悪い!もう私のバカぁー!」




どんなにわんわんと泣き叫んでも、もうどこにもあの不敵な赤い瞳は見えなかった。

微かに残る唇の温もりとテキーラの味が酷く悲しかった。


* ひとやすみ *
・消えちゃいました。
 そして展開が早過ぎて私が付いていけないっ!4話に収めると決めたので仕方ないのですが。
 サラダを作るボスとヒロインの行方は・・・。(え                            (09/08/08)