ドリーム小説

「ただいまー」




返事の無い部屋にこうやって挨拶をするようになってもう何年になるだろうか。

理不尽な実家を飛び出して、こっそり隠れるようにマンションで暮らすのにも慣れた。

冷たいフローリングをスリッパを打ち鳴らして歩いてキッチンに夕食の材料を放る。

ちゃちゃっと着替えて、髪を高く結い上げ、腕まくりをした。




「さ、今日のご飯はハンバーグよ」




仕事頑張ったし、明日は休み。

好きな料理に時間を掛けても大丈夫。

そうして私は安い合い挽き肉をストレス発散するように捏ねくり回した。









一人暮らしの寂しい食卓を食べ切れないほどの品目が彩る。

今日食べれなくても明日食べるからいいの、と自分に言い訳して、二人掛けテーブルに座って向かいの席を見る。

前にあの席には彼氏が座っていた。

が、どうもヘタレが多くて全然続かないため、皆一度しか座っていない。

なんて縁起の悪い・・・。

いい男に出会えますように、と無意味に向かいの席に願掛けをして、ハンバーグに手を合わせた。




「いっただっきまー・・・!」




短い食事の挨拶を言い終わる前に、ドン!!と大きな音がして何かが目の前に降って来た。

絶対にありえないそれを見て、私は手を合わせたままとりあえず天井を見た。

穴は、開いてない。

なら、これはどこから降って来たんだ・・・?

そして目の前の席に座っている黒くて目付きの悪ーい男に掛ける言葉を探した。




「・・・・とりあえず、ハンバーグ食べる?」




これが私、とザンザスの不思議な出会いだった。








***









「で、ここはどこだ」

「私の家よ」

「・・・テメェ誰だ」

「アンタこそ誰よ」




突如としてどこだか分からない場所に放り出されたザンザスは思考が混乱していた。

先程まで仕事の真っ只中にいたはずだった。

なのに気が付けば目の前にハンバーグ。

とりあえず食べてみたものの、目の前に女、狭い部屋、美味いハンバーグくらいしか理解出来ない。

つまりは何も分からないという事だ。

状況把握のために声を出してみたが、気の強いに機嫌が悪くなっただけだった。

一方も降って来たザンザスに警戒しながら話してみたものの、口の悪い男に不愉快にさせられた。

ようするに似た者同士なのだが、互いに睨み合って全く話が進まない。




「カッ消すぞ、カス女!!!」

「追い出すわよ、喪服男!!!」




キリがなく仕舞いに立ち上がって激高したザンザスに対抗しても立ち上がり、ザンザスは手を前に翳した。

完璧にキレてしまっているザンザスは憤怒の炎を手に燈そうとしていた。

は意味も分からず出された手に視線を落としていると、ザンザスの手が仄かに光り出した。

え、と驚いた瞬間、小さな炎が出てシュボッと音を立てて消えた。




「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

「何なの?手品が見せたかったわけ?現れたのも瞬間移動マジックか何か?」

「・・・黙れ、女」




分からないのはザンザスの方だった。

いつものようにしただけだったのに、憤怒の炎が出せないのだ。

一体、どうなっている?

ザンザスは思い出したように携帯を取り出し、片っ端から電話してみたが誰にも繋がらない。

急に大人しくなったザンザスには構ってられないと片付けを始めた。




「おい、お前の電話を貸せ」

「お前じゃなくてっていう素敵な名前が私にはあるのよ!そこに携帯あるから勝手に取って」




完璧にザンザスの事を気の狂ったマジシャンだと信じ込んでいたは、

不審者なのに何でこんなに馴染んでるのか皿を洗いながら首を傾げた。

あ、そうか。

この理不尽な喪服野郎は私の父に似てるのだ。

その性格の捻くれ具合が。

思い当たってスッキリしたものの、何だか余計に腹が立ってきた。




「何よ、電話あるならさっさとウチに連絡して帰りなさいよ」

「帰れねェ」

「そう、帰れないなら出口は・・・・、は、何て?」

「パラレルワールドにぶっ飛べば帰れる訳ねェだろ、カスが」




パラレルワールド、それは四次元宇宙に、我々の世界とともに存在しているとされる異世界。(大辞林より)

それを口にしたザンザスも、口にされたも不機嫌そうに眉根を寄せた。

もう完全に諦めてしまったザンザスは寛ぐように、ブーツのままの足をテーブルに乗せた。

は激怒して履いていたスリッパを掴んでザンザスの頭を容赦なくスパーン!!!と殴った。




「テーブルに足は乗せない!!」

「・・・テメェ、殺す」

「私は!!家出したんだか何だか知らないけど、まさか居座る気じゃないでしょうね」

「・・・・・チッ」




当然だと顔に書いてあるザンザスには大きく溜め息を吐いた。

最悪だ・・・。

しかも明日休みの私を狙って来やがったのか、この男。

動く気配の全く無いザンザスには泣きたくなった。

父で充分に分かってしまっているのが癪だが、こうなったこの手の人間は絶対に意見を曲げないと知っている。

第一、自身も実家を飛び出した家出娘な点を考えれば、追い出す気にもなれなかった。




「いい、ここに居座るなら家主の言う事は絶対よ」

「・・・・」

「それから、名も名乗らないような奴は置いてあげないからね」

「・・・・・・・・・・・ザンザスだ」

「私はよ」




こうして私とザンザスのおかしな共同生活が始まった。


* ひとやすみ *
・い、勢いで書いちゃった・・・!!ザンザスが好きなんだという主張。笑
 他サイト様であまりに素敵なボスを見てしまったための出来心・・・。
 勢いで書いたのでいろいろ辻褄合わないんですが、勝手に満足してしまったのでそのままです。(09/08/08)