ドリーム小説

いつも通り学校で長い長い授業を受けて、帰宅すると何故か部屋の灯りが点いていた。

朝の内は雨でもない限り灯りは点けないし、今日は曇りでも雨でもない。

点けた記憶なんてないんだけど?

ふと合鍵を渡している相手を思い出して、私は慌ててカードキーを差し込んで扉を開けた。

家政婦の三千四さんが来てるんだ!

バタバタと廊下を走って、そこで思い出した。

あれ?

三千四さん今日来る日だったっけ?

急に止まれるはずもなく、リビングに飛び込んだ私はそこで地獄に転落した事を悟った。




「三千四さ・・・・げ!

「げ!とは随分な挨拶ですね、




ソファーに座って優雅にコーヒーを飲んでいたのは、の使用人で私の兄のような存在であるだった。

あぁ、私の自由はこれで終わった・・・。






***






かれこれ何分ここに正座させられて説教されているだろうか。

の足元に座り込み、足の痺れで顔を歪めている。

どうやら母親に解放されたらしく、一人暮らしをしているが心配になって飛んで来たらしい。

確かにはいいお兄ちゃんではあるが、このガミガミとするのだけは頂けない。




「部屋が小汚いのはもういいとしても、聞きましたよ。氷帝学園で太郎様にご迷惑をお掛けしたとか」

「・・・耳が早い事で」

「それから跡部財閥のご子息にも無礼を働いたとも」

「あとべ・・・?あとべってあの顔だけパクリ男のこと?」




ポカンと暴言を吐いたに鋭い視線をが向けたので慌てて口を閉じる。

あの顔だけそっくりさんが跡部財閥の息子?

溜め息を吐いたにはキョトンとしているが何を考えているか手に取るように分かった。




「散々言いましたよ?奥様が跡部ご夫妻とお食事なさるので、私は一緒に日本へ帰国出来ないと」

「あ、そう言えば母様の次の取引相手が跡部グループの何とかって・・・」

「さて、一体誰がご子息の跡部景吾様に無礼を働いたんでしょうね?」




その一言で一瞬にしては血の気が引いた。

何で忘れてたんだろう。

私が一人で帰国して一人で暮らしているのは、母様が跡部夫妻とのビジネスのためにを連れて行ったからじゃん!!

バッと顔を上げて泣きそうな顔で見上げてきたは溜め息を吐いて首を振った。




「大丈夫ですよ。商談は破談にはなっていません。景吾様も告げ口するような子供ではないって事ですよ」

「・・・よかった」

「全然よくありません」




ターゲットをロックオンしたはビクリとして再び懇々と説教を聞かされた。

足の痺れはすでに限界を超えていた。






***






「はい。紅茶です」

「ありがとー」




ようやくガミガミ攻撃から解放されたは嬉しそうにカップを受け取った。

再びソファーに腰を降ろしたは、床に座って紅茶を飲んでいるに眉根を寄せる。

足が痺れて立てなかったため、座り込んだままなのだ。




「まだ立てませんか?」

「んー、これ飲んだら立てそうな気がする」

「全く」




溜め息を吐いたは立ち上がって、奥の部屋へと入るとすぐに大きな箱を持って戻ってきた。

それを見たは箱を見つめて、思い当たったようにの元に走り来た。




「何それ、お土産?」

「足はどうしたんです」

「治った!で、それ、私の?」




子供のようなはクスリと笑って、箱を差し出して頷いた。

受け取った箱を開けるとシックなネイビーのワンピースが納められていた。




「これ母様が選んだ奴でしょ?」

「はい」

「やっぱり!趣味いいからすぐ分かった」




普段、あまり物には頓着しないだが、母親の選んだ物は何でも好きだった。

自分の趣味をよく理解してくれていて、どれも魅力的だから。

嬉しそうに着替えだしたはその他の小物をごそごそと持ってきてコーディネートする。

初めは喜んでいただったが、メイク道具をが持ってきた辺りで何かが変だと気が付いた。




「どこか出掛けるの?」

「はい。、動かないで」




ニコリと笑って顔を弄り、髪を弄り、気が付けばバッグまで持たされていた。

あまりの周到さに目を瞬いていると、が着替えて出て来た。

髪までばっちりだ。

ポカンとしているの背を押して家を出ると、地下の駐車場へと向かう。




「どこに行く気?」

「謝罪をしに行くのですよ。食事付きで」

「まさか叔父様の所?!」




パァっと笑顔になったは微笑んで、車に乗り込むとエンジンを掛けてミラーを合わせた。

待ちきれず飛び乗ってきたに、は苦笑してその乱れた髪を整えてやった。




「さあ早く出発して!」

、元気なのはいいですが、あまり無礼をしないで下さいね」




踏み込んだアクセルはゆっくりと車を動かし、夕方の町を走り出した。

そして嬉しそうなに本日何度目かの爆弾が落とされる。




「いいですか。くれぐれも顔だけパクリ男なんて口にしないで下さいね」

「・・・・は?」

「跡部ご夫妻と会うのは数週間ぶりですね」

いやぁぁぁぁ!!降りるぅ!!!

「あははは」




絶叫しているを乗せた車は地獄の晩餐会に向けて快適に走り続けた。


* ひとやすみ *
・24話にしてようやく出てきましたよ、彼が!!
 何だか妙に可笑しなキャラになりつつありますが、どうぞよしなに。笑
 さーて!そっくりさん対決を征するのはどちらか?!違                 (10/01/15)