ドリーム小説
帰って来た。

ようやくこの町に帰って来た。


忙しないニューヨークの街とは打って変わって静かな町。

車を降りて随分変わった町並みを見ながら探索する。

腕にはめた時計を見ると日本に降り立ってから思った以上に時間が経っていた。



さてそろそろ目的地を探すとするか。

さっきからこっちをチラチラ見ているレディが居る事だしな。



「ちょっと失礼。立海大附属中学を知らないか?」









親切な女の子達はわざわざ学校まで案内してくれると言う。

いつの間に日本の女の子はこんなに親切になったのだろう?



彼女達によると立海テニス部は強豪らしく有名なようだ。

そして彼女達はテニスの熱烈なファンらしい。

他校の選手についてここまで語れるなんてすごい事だ。

ようやく学校に着いた頃には、おかげでテニス部に詳しくなった気すらしてきた。

彼女達に礼を言って別れ、目当ての職員室を探す。

校内に入ったものの、職員室の場所が分からずキョロキョロしていたら思わぬ所で声が掛かった。



「ん?もしかして、編入学のか?」

「え?進藤先生、ですか?」



ニカリと笑った男の人はどうやらこれから会うはずだった担任らしい。

運よく通りかかった先生に連れられて応接室に入った。






それから手続き等の詳細を聞いて改めてよろしくお願いしますと頭を下げた。

すると何故か先生は苦虫を噛み潰したような顔でマジマジと顔を見てくる。



「な、なんですか?」

「いやな、にはホン・・・ット!関係ない話なんだがな

 大人しいアイツを見ているようで何かむず痒いというか・・」

「は?」

「いや、忘れてくれ。色々大変だろうが頑張れな」



先生は何だか今とても不吉な事を言ったような気もしたが、素直に頷いておいた。

それから先生に学校を見学して帰ると伝え、応接室から出ると廊下を歩く男子生徒が見えた。

休日に校内をウロついていると言う事はどこぞの部活に所属している生徒と見た。

ジャージを着込んでいるのでまず運動部に違いないだろう。

何やら大きめのカゴを持っているようだが、上に乗せられたファイルでよく見えない。



(部活見学というのも面白いかもしれない)



口の端を上げて一人で笑うとどんどん離れていくその生徒に声を掛けた。



「なぁ、ちょっと!」



立ち止まって振り返った彼に追い着くと、急に声を掛けたからかすごく驚いていた。

近くまで来てようやく見えたカゴの中身はテニスボールだった。

思わず学校まで案内してくれた彼女達を思い出してあまりのタイミングのよさに苦笑する。



「立海テニス部だよね?悪いんだけど見学したいからコートまで連れてってくれないか?」



そこまで言い切って相手の顔を見ると何とも言えない顔をしていて首を傾げる。

何か変な事でもしただろうか。



「君は・・・氷帝のアトベ君、でしたか・・?」

「いや、私の名はというんだけどな」

「すいません。人違いのようです。知り合いに似ていまして・・。

 申し遅れましたが、私は柳生比呂士と申します」



柳生は軽く頭を下げた。

何だかよく分からないが、つられて私も頭を下げていた。

空いた方の手で眼鏡を押し上げた柳生は見学でしたね、と前置きして私を見た。

何かを探るような視線に気付いて考える。



(まさか、スパイだとか思われてる・・・?)



その線が強そうだと苦笑して手に持っていた封筒を掲げ上げて見せた。

相変わらず怪訝そうに封筒を見つめる柳生に説明する。



「今度、2年に編入する事になったからいろいろ見て帰りたかったんだ」



封筒に書かれていたこの学校の名前が効いたのか柳生は見るからに表情を和らげた。

どうやら本当にスパイだと思われていたらしい。



「私でよければ案内しますよ。ですが見学については部長にお聞き下さい」

「オーケー!」



それから柳生は少し遠回りをしながらコートに連れて行ってくれた。

最初はいつまで経っても辿り着かないので怪訝に思っていたが、

どうやらそれは私に施設の説明をしてくれる為だったらしい。

通る場所ごとに柳生はここが何で、あれが何で、と事細かに説明してくれた。

やっぱり柳生は律儀な奴だ。







***







ようやくボールを打つ音が耳に届き、コートが見えた。

まるでスクールのコートのように設備がすごく整っていた。

私の感動も束の間、何だか不穏なざわめきが聞こえてきて思わず柳生を見た。

柳生は眉根を寄せて呆れたように溜め息を吐いていた。



「またですか」

「また・・?何なんだこれは?」

「我が立海テニス部が強豪と言われるのには努力し、常に頂点に立つために厳しい練習を行ってきたからです。

 しかしそれに耐え切れず脱落していく者も居る訳ですが、その際に揉め事が起こる事があるのですよ」



何だかよく分からないが、腹立たしい事には違いない。

別にいざこざを見学しに来たという訳ではないのだから。

一向に収まりそうな気配もなく、益々怒りが込み上げてくる。



「せっかく、噂のテニス部を見に来たと言うのにッ」

「申し訳ありません。ですがすぐに副部長が・・っ。さん!!どこ行くんですか!」

「止めてくる!!」


* ひとやすみ *
・てに連載、走り出しました!(08/11/09)