ドリーム小説
ある寒い日の朝、リビングで兄さんが起きて来るのを待っていると、呼び鈴が鳴った。
朝っぱらからの訪問なんて常識外れもいいところだね。
無視を決め込んでいると、聞き慣れた声が玄関からした。
「ごめんください」
最悪だ。
赤い悪魔が来た。
無視することは出来るが、おそらくこのままだと玄関のカギを壊される上に、堂々と不法侵入されるに違いない。
選択肢がないことに気付いた僕は仕方なく、仕方なく執事を客間に通した。
彼女をそこに待たせて僕は兄さんの部屋へ向った。
さっきと違って軽い足取りで向かい、部屋の外から兄さんに声を掛けたけど、一向に返事がない。
仕方なく部屋に入ると、少し寒い部屋の中には誰もいなかった。
「兄さん?」
こんな朝早くからどこへ行ったんだろう?
すると、開け放たれた襖が目に入る。
まさか庭に?
僕は足が赴くままに庭へ出るとそこにはなぜか薄い格好で佇んでいる兄さんがいた。
「朝からそんな恰好で何してるの、兄さん……」
「あぁ、恭弥か。おはよう」
「あぁじゃないよ」
そんな薄着で雪の中に居るとか馬鹿じゃないの。
これで風邪引いたら笑えないでしょう。
世話が焼ける人だ。
僕は兄さんの部屋にあった羽織を掴んで庭に出た。
羽織を肩に掛けると兄さんは口元を緩めて笑った。
……この人の、こういう所がズルい。
何となくすぐに兄さんから視線を離した僕は目の前にある雪の塊を見つめた。
小さくもない雪の塊が二つ、兄さんの前に並べてある。
こんな朝早くから兄さんがわざわざ外に出るくらいだ。
きっと何か訳ありのものなのだろうが……。
説明を求めて見上げると、視線に気づいた兄さんが少し考える素振をみせて頷いた。
「なぁ恭弥、お前、この塊持てるか?」
何なのいきなり……?
持ち上げることくらい訳ないけど、兄さんはこうやってたまに理解不能なことを言って僕を測ることがあるから困る。
ちょっと持ち上げてみろと突然言い出した兄さんに促されて、渋々持ち上げると今度は雪玉に降ろせと言う。
よく分からないながらも従うと、兄さんはどこか満足そうにしていた。
縦に重なった二つの雪玉、これが一体何だって……。
……っ、この形、まさか。
ジロリと睨むと兄さんは一つ頷いた。
「雪だるまだ」
うん、じゃないよ!!
何やらせてくれるのこの人!
やたらと一人満足そうな兄さんに腹が立って、その辺の雪を掴んで投げた。
なのに身軽にヒョイヒョイ避けられて、挙句に背後を取られて背筋を凍らせるような冷たさが背中を襲う。
「……最っ悪!」
この人、雪を僕の背中に入れた……!!
余裕そうな顔で笑う兄さんを呪いながら悪態を吐いていると、さっき渡した羽織が僕に掛けられた。
ふんわりと暖かいそれが気に食わなくて握り締めて黙り込む。
兄さんのこういう所、本当にムカつく。
それから何でここに来たのかと聞かれたから理由を言うと、兄さんは僕の頭に手を置いて言った。
「恭弥、続きは頼んだ」
は?
はぁぁ?!
続きって一体何の……?
この僕に何をさせようとしてるの、兄さんは?
自分が置かれた状況に絶望しながら僕は目の前の雪だるまを眺める。
顔かな……?
顔を作ればいいのだろうか?
だけど何をどうすればいいのか全く分からない。
結構な時間を立ち尽くしていた僕に背後から声が掛かった。
「あぁ。やっぱり様のご想像通り苦戦されているようですね」
「……兄さんは?」
「お仕事です。そのため私が雪だるま制作に派遣されました」
赤い悪魔まで寄越すなんて兄さんは本気だ……。
溜め息しか出ない僕に執事は厚着をして、防寒具やカイロなどを手渡してきた。
「いいですか。作るからには完璧なものを目指しますよ!」
「完璧?」
「凡庸な人参の鼻や、枝の腕など以ての外です。ここは雪のみで勝負しましょう!」
「どうやって?」
「このように雪を押し固めて少しずつ削って顔を作りましょう」
「雪だるまの顔って言ったってどんな顔にすればいいわけ?」
「うーん。完璧な雪だるまの顔……。完璧な顔……」
「完璧な顔……?」
「「 あ、(兄さん・様)の顔! 」」
これ以上の良案は思い浮かばない。
僕と執事は兄さんの写真を見せ合って一番カッコいい兄さんの顔について意見を戦わせた。
そして決まった表情を僕達は黙々と作った。
……作ったんだけど。
「これは……」
「…………」
無い。
はっきり言ってこれはない。
一言で説明するなら、雪だるまの顔だけ兄さんの状態だ。
これほど不格好な兄さんが居ていいわけがない。
僕と執事は険しい顔でお互いをちらりと見た後、黙って身体部分の制作に取り掛かった。
どうせなら完璧な兄さんを目指す。
僕達はただその一心だった。
「できた」
「完成ですね」
出来上がった兄さんは文句なくカッコよかった!
固めたり削ったり大変なことばかりだったけど、僕はやりきった。
妙に清々しい気分で兄さんを見上げていると執事が嬉しそうに頷いていた。
「さすがですね。この辺りの衣服の翻し方が素晴らしいです」
「君もこの指先、本当に兄さんみたいだ」
高揚感のままに言葉を口にしていると、背後から声が掛かった。
「悪い。遅くなった。雪だるまはもう……、」
振り向かなくても分かる。
兄さんの声に振り返った僕達は感情のままに訴える。
「様!どうですこの完成度!」
「おかえり兄さん。かっこいいでしょ?」
「この部分の雪を固めるのが難しくて……」
「兄さんに見えるようにここにはこだわって……」
僕達の話を兄さんはただ黙って優しい目をして聞いてくれた。
時々僕らの話を深く考えるように視線をどこかにやる兄さんに良い気分になって話し続けた。
兄さんは小さく息を吐いて困ったように笑うと僕と執事の頭を撫でた。
「寒いからもう二人とも部屋に戻るぞ」
「うん」
「はい」
触れるその手が暖かくて、僕は思わず雪像と兄さんを見比べた。
やっぱりどんなに似てても本物の兄さんには敵わないね。
僕は途端に雪像への興味を失って、兄さんの背を追って暖かな部屋へと足を向けた。
* ひとやすみ *
ディーノ『兄さん、恭弥から写真送られてきたから俺も作ったんだ兄さんの雪像!』
兄 様 「………………」
―――ズガンズガンズガンッ!
ディーノ『うわぁ!兄さんが雪像を撃ったぁ!!兄さぁぁぁん』
後日、街中にドカンと兄様の像を作った弟にキレる兄の図。笑
雪像の結末を知ってるだけに許せなかった模様。笑
・弟視点でした。雪だるまの定義っていうか、もはや雪だるまを作っていた
こと自体忘れてるよねって話。本人もう雪像って言っちゃってるし。笑
真面目に考えてる人ってたまにぶっ飛んだことを本気で言うよねって感じの話でした。
久々のヒーローでしたが楽しんでいただけたでしょうか?お暇があればぜひまたいらして下さいませ!
では!良い夜を!メリークリスマス! (16/12/25)