ドリーム小説

朝起きたらめちゃくちゃ寒かった。

身震いするような冷気を頬で感じながら身体を起こすと吐いた息が白くなった。

マジか。

この家、木造過ぎて隙間風通しやすいけど、ここまではっきりと息が白くなるのは珍しい。

のそのそと起き上がって障子を開けてみると、そこは一面の銀世界だった。

通りで寒いわけだ。

昨日から雪がチラホラしてたけど、まさか積もるとは……。

朝方、薄っすら積もることはあってもここまで積もるのは珍しい。

俺はその珍しさから近くにあった羽織を手に取ると、真っ白い中庭に繰り出した。




「おぉー」




どうして跡のない雪原ってこんなに心踊るんだろう?

庭に足跡を残して楽しんでいた俺はふと思いたってしまった。




「雪だるま作るぞ」




無造作に雪を掴んで固めるとコロコロと転がして大きくする。

脳内ではエンドレスリピートで、ありのままの女王達が雪だるまの歌を歌っている。

うわ……、少々転がし過ぎて雪玉が大きくなり過ぎた。

30センチくらいの雪だるまを作るつもりだったんだけどなー。

仕方ないので二つ目の雪玉も同じくらいに作るか。

よいしょ、こらしょ、どっこいしょ。

うわっ、またやりすぎたよ!さっきのよりデカいし!




「仕方ない。最初のをもう少し大きくして……」




そうこうしてる内に雪玉は物凄く大きくなってしまった。

やべー……。これ持ち上がる、か?

真っ赤な手を温めながら俺は呆然と巨大な雪玉を見下ろす。

うーんと悩んでいると、後ろから声が掛けられた。




「朝からそんな恰好で何してるの、兄さん……」

「あぁ、恭弥か。おはよう」




あぁじゃないよと恭弥は何故だかプンプン怒りながら、俺の上着を掴んで庭に出てきた。

ブツブツ言いながら上着を俺の肩に掛けてくれる。

何だかんだ言いながらも優しいよな、コイツ。

おお!そうだ!いいこと考えた!




「なぁ恭弥、お前、この塊持てるか?」

「何?」

「ちょっと持ち上げてみろ」

「?」




怪訝そうにしながらも、俺の言った通りに雪玉を持ち上げる恭弥。

わお!お前スゴイな!これ結構重いんだぞ?

凄い顰め面で首を傾げる恭弥に俺は言葉を続ける。




「それをこう、ここの上にだな……乗せてみろ」

「こう?」

「あぁ」




ひょいっと腕を動かした恭弥が雪玉をもう一つの上に置くと、いえーい雪だるま完成!

不思議そうに俺に従っていた恭弥だったが、二つの雪玉が縦に並べられたそれを見て強烈なまでに嫌そうな顔をした。

まさかと言わんばかりの視線を向けてくる恭弥に一つ頷いてやる。




「雪だるまだ」




その瞬間、恭弥は物凄い勢いで雪を掴んで投げてきた!

おいおい!今は雪だるま作りで雪合戦じゃねーぞ?

俺はそれをひょいっと避けて、何でか暴れ回る恭弥の頭を冷やそうと背後を取って背中に掴んだ雪を入れてやった。

あ、頭じゃなく背筋冷やしちゃったぜ。




「……最っ悪!」




背中を押さえて縮こまる恭弥に俺は小さく笑って、さっき着せてもらった上着を恭弥に被せた。

それで、お前、ここに何しに来たの?




「……あの執事が朝っぱらからやって来たんだよ」




あぁ、それでわざわざ教えに来てくれたんだ。

恭弥は家壊されるのは嫌だからと不貞腐れながら言うけど、案外この二人は仲がいいと思う。

執事が待ってるならちょっと行って来るか。




「恭弥、続きは頼んだ」

「え?」




俺は恭弥の頭にポンと手を置くと、自室を出て執事を迎えに行くことにした。

だから、雪だるまの顔、完成させておいてくれな!













「おはようございます、様」

「あぁ、おはよう、執事」




客間に行くといつもの赤いスーツで出迎えてくれた執事。

さすがに朝から悪いと思ったのか早々に謝ってくれた。

どうやら仕事で少々トラブルがあったようでその報告と確認ついでにいろいろ持って来たらしい。

資料に目を通していると目敏い執事が声を上げた。




様、その手はいかがなさいました?」




あぁ。どうやら雪遊びが過ぎたのか手が真っ赤になっている。

霜焼け寸前という感じだ。




「恭弥と雪だるま作って遊んでた」




何だそれと呆れたような表情を見せた執事に俺は肩を竦めた。

いや、だって雪だぞ?遊ぶだろ?

それをお前が来たって言うからわざわざ中断して来たんだぞ?

馬鹿にしたような顔をして見てくる執事に俺はムッとして答える。




「恭弥に続きを任せて来たが、俺はこれを片付けないといけなくなった。これのせいで雪だるまが作れない。これのせいでな」

「……私は何をすればよいのですか?」




資料をピラピラさせながらこれのせいを強調して言えば、さすがに嫌味が通じたらしい。

溜め息交じりに額を押さえた執事に俺はニッコリ笑った。




「多分アイツ、雪だるまサボってるからちょっと見て来てくれ。俺もあとで行く」




すると執事は渋々頷いた後に、資料を取り上げて先に風呂に入って温まって来いと言った。

その後、資料を片付けて来て下さいと言うと、執事は一礼して俺の部屋へと向かった。

……アイツ、人の家を我が物顔で歩くよなぁ。

まぁ今更だけど。

俺は言われた通り、風呂へ向かって歩き出した。










***









風呂で温まって資料を片付けた俺は、放置していた二人の様子を見に急いで自室へ戻った。

さすがに時間が経っており、二人とも心から冷え切っているに違いない。

せかせかと戻った俺は、庭に二人の姿を見付けて声を掛けた。




「悪い。遅くなった。雪だるまはもう……、」




俺はそこで見た光景に言葉を失うしか出来なかった。

唖然。

ただその一言であった。




様!どうですこの完成度!」

「おかえり兄さん。かっこいいでしょ?」




物凄くやりきった感のある二人に俺は何て返事をしたらいいか分からなかった。

何をどうしたらこんなことになるんだ……?!

そこには、俺の顔をした雪だるまがいた。




「どうしてこうなった……」




いや、もはやこれは雪だるまなんて可愛いものじゃない。

雪像である。

顔と手を真っ赤にしながら興奮して話す二人に気が遠くなる。

俺が居ない間にこいつら何やってんだ?!

堂々とした立ち姿を披露する俺を眺めて頭を抱える。

雪だるまって何だっけ……?

深い溜め息を吐いた俺は、心底満足気な二人の頭を少し乱暴に撫でた。




「寒いからもう二人とも部屋に戻るぞ」

「うん」

「はい」




こうして俺の家の中庭には、不気味にもしばらく俺の像が立てられていることとなった。

気温が上がったある日、デロデロに溶け出した俺を見付けた時、不覚にも俺は泣いた。


* ひとやすみ *
・ご無沙汰しています!久々にヒーローを書きました!
 どうしても滑り込みたかったので一気に書き上げたのですが
 おかしなことになってるかもですが楽しんで下さると嬉しいです!
 可愛い弟は賢いはずなんですが、一周回って超オバカというか。笑
 久々にこの兄弟が書けて楽しかったです!我が家に来て下さってありがとうございました!        (16/12/25)