ドリーム小説

遊びに来たものの、忙しそうなの姿を見て、恭弥は頼まれ事を一つ返事で引き受けた。

封筒を手渡すくらい何のことではないし、兄の役に立てるのが純粋に嬉しかった。

すぐさま隣りの部屋に向かうが、普段締め切られているこの部屋には一度も入ったことがなかった。

兄が持つこのマンションに度々押しかけてはいるが、許可なく家探しをしたりは流石の恭弥もしていない。

何より至上主義の執事が許すはずもなく、少しの期待を寄せて恭弥は扉を開けた。

部屋は案の定、書類や本ばかりで、テーブルやソファーなども形だけ置かれているようだった。

入ってすぐの所にあった机の上に積まれた茶封筒を見付けて近付くと、

学ランの裾をどこかで引っ掛かけたようでドサリと、分厚い本が落ちてきた。

深緑の豪奢な表紙の本を拾おうとしゃがみ込んで、間からはみ出している物に気付いた。




「写真・・・」




つい気になった恭弥は本から写真を引き抜いて見て息を呑んだ。

そこに写ってたのは小さな生まれて間もない赤ん坊。

身体よりも大きなテディベアに抱き着いて、こっそりと窺うようにカメラに目線を送る愛らしい男の子。

そしてその子の大きな瞳は輝くような黄金色をしている。




兄さん・・・?」




驚いて息を止めていた恭弥はハッとして、すぐに落ちていた本を手に取り開いた。

するとそこには幼いの写真が溢れんばかりに貼られていた。

ベッドで眠っていたり、花を掴んでいたり、虫を眺めていたりと、幼いの姿がそこにはあった。

よりもかなり年下の恭弥はもちろん幼い兄の姿など知る由もなく、偶然見付けたアルバムに心躍った。

ここには僕の知らない兄さんが居る・・・!

恭弥はすっかりアルバムの虜となり、頼まれたことなど記憶の彼方へとやり、じっくり見ようと座り込んだ。










それからどれくらい経ったのか分からないほど、恭弥は写真の中のに見入っていた。

一体、誰が作ったアルバムなのかは知らないが、様々な写真に添えられた一言などから深い愛情が感じられる。

何時の間にやら恭弥はその作者に共感しており、幼い兄の愛くるしさに完全にやられていた。

ついにはアルバムを持って帰ろうかと考え出した時に、部屋の扉が開いた。




「おい恭弥、お前一体何して・・・、うわ、何だよその締りない顔は?!」

「チッ、うるさい、咬み殺すよ」

「大事そうに抱えてるの、もしかしてアルバムか?え、誰のだ?俺にも見せてくれ」

「いや」

「減るもんじゃないだろー?」

「へる」




抱え込んでいた恭弥だったが、様子を見に来たディーノにあっさりとアルバムを奪われた。

一気に機嫌が悪くなったが、アルバムを汚すのも忍びなかったため、渋々諦めた。

ディーノは表紙を開いた瞬間、顔を輝かせた。




兄さん!すげー!ちっせー!うわー!すげー!ヤバいなこれ!」




大興奮のディーノに同意を求められて恭弥はすんなりと頷いた。

不本意ながらではあるが、ディーノの気持ちはよく分かった。

だって、すごく可愛い。




「う、かわっ・・・!」




言葉になっていないが、ディーノも同じ気持ちなのだろう。

柔らかい目でアルバムの中の幼い兄を追うディーノと共に、いつの間にやら恭弥も肩を並べて見入っていた。




「俺、これ持って帰る!」

「だめ。僕が貰う」

「・・・いやいや、兄さんのだからダメだろ。ちょっと落ち着こうぜ。そもそも何でアルバム見てたんだよ」

「そこの棚から落としたみたい」




恭弥が指差した棚に視線をやったディーノは元あった場所に戻そうとして気付いてしまった。

何冊もある色違いの表紙のアルバムの存在に。

ぎこちない動作で持っていたアルバムを棚に戻した二人は、ジッと棚を眺めて息を呑んだ。




「こ、これは・・・ッ!」

「まさかの動画・・・っ」




いくつか並んだディスクに二人は思わず固まった。

思わぬ宝の山に戸惑ったのは一瞬だった。

視線が合った二人はディスクを掴んで、テレビの前へと移動した。

動く兄さんとか見ないわけにはいかない!

こうして二人は時間を忘れての過去に没頭するのだった。








***







「別に怒ってないが、気恥ずかしさってものがあるだろ?」

「え、兄さん超可愛いから大丈夫だって」

「赤ん坊って強いよね」




そういうことじゃないと複雑な顔をするに力説する弟二人。

あの後、に見つかった二人は勝手に触った罪悪感から謝り倒した。

からすれば小さい頃の自分というだけで何も感じないのだが、

さすがに自分の姿をジッ見られると恥ずかしい。




「小さい頃の兄さんなんて写真やビデオでしか見られないし、何かすごく新鮮だったんだよ」




弟達の必死な訴えに絆された兄はなぜかこのまま二人と自分の成長記録を見る羽目になった。

イタリアで過ごした幼少期の映像がなぜここにあるのかと首を傾げつつも、は弟達とまったりと過ごすことが出来た。

後日、自分のコレクションを荒らしたと二人は執事からこっぴどく責められ、

こっそり貰ってきた写真も容赦なく回収されるのだった。


* ひとやすみ *
・「・・・私の宝に触れるとはいい度胸ですね」
 「「ご、ごめんなさい」」
 「一体私がどれだけ苦労して様の愛くるしいお姿を内緒で手に入れたと思ってるんですか!」
 「あ、やっぱ後ろ暗いことしてんだな、アンタ」
 「それより『お昼寝兄様』と『振り返り兄様』の写真を返して下さい!あれらは『初離乳食』の次に良い写真なんですからね!」
 「「あぁ、それ分かる」」

 「(えーーー?つか、あの写真のほとんどはロマーリオに撮られた奴のような気がするんだが、何でここにあるの・・・?)」


 最終的に意気投合みたいな。兄様置いてけぼりを食らいます。笑
 一気に書き上げましたが、何か他人視点の書き方忘れてて違和感を覚えました。あれぇ?
 まさかよあけうたに皆さんが200万回も遊びに来てくれるとは思いもせず、滾ってやらかしました!
 開店休業中ですが、時々こうしてお届けするので、今後も遊びに来て下さると光栄です!
 ちまちま精進しますので、これからも何卒よあけうたをよろしくお願いします!        (14/07/08)