ドリーム小説
「ただいま、兄さん」
「・・・あぁ、帰ったか、恭弥」
おかえりと言って振り返れば、スーツ姿の恭弥が小さく口元を緩めた。
俺はほとんど大学かこの基地にいるが、恭弥は調査だか何だかで世界中を飛び回っているので久々に見た気がする。
今回はどこ行ってたのかは知らないが、くたびれた様子もない恭弥に安心していると、
帰って早々に着替えてくると恭弥は草壁Jrを随えて、部屋を出て行った。
・・・別にわざわざ和装に着替えなくても。
これってやっぱ俺のせいだよなー。
調子乗って恭弥の留守中に和室で将軍ごっことかして遊んでたの見られて、
苦し紛れに「和装っていいよな?」と笑顔で誤魔化すと、恭弥は黙って着物に着替えていた。
だってわざわざ家に似せて和室を造らせたから、家と同じように和装の方が楽だし、殿様気分味わいたかったんだよ!
兄を気遣える優しい弟達の背中をしょっぱい気持ちで見送っていると、何を思ったか恭弥が振り返った。
「そうだ。これ、兄さんにあげる。僕はいらないからね」
胸ポケットから出した巾着を恭弥は無造作に投げて、言葉通り着替えに行った。
金属が擦れるような音を立てて手に収まったそれに俺はまたかと苦笑した。
巾着の中身は案の定、C・Dランク相当の霧のリングがひしめき合っていた。
俺が愛用していた霧のリングを失くしたと知ると、恭弥は一体どうやって集めたのか
霧のリングを大量に持ってくるようになった。
まぁ、並々ならぬ興味で術士に関して調べてるようだから、本当にこれはついでなんだろう。
アイツ、本当に骸に敵愾心燃やしてんだなぁ・・・。
霧のリングは有難いけど、他のリングの方が欲しいんだなー。
・・・俺、実は属性、霧だけじゃないんだよ、恭弥。
他の指輪を複数付けてたら、チャラチャラしてんじゃねーぞって怖い人達に絡まれそうだから付けてないし、
何かタイミング逃して誰にも言えてないから仕方ないんだけどさ、
試してみたら炎出ちゃったんだよね、・・・大空以外全部。
溜め息を吐いて俺はつまみのちくわを掴んで障子の外へ投げた。
すると、いつの間に匣から出たのか、恭弥のハリネズミのロールが俺を警戒しながらもちくわに寄って行った。
ロールと仲良くなるのに相当な苦労があったのだが、とりあえずちくわで餌付けしまくったら
ようやく俺に顔を見せてくれるようになった。
ちっちゃな足でテトテト歩くロールにほんわかしていたら、着流しに着替えた恭弥が戻ってきた。
「ねぇ、ロールの後ろにいるあれ、何?」
「後ろ?」
恭弥の言葉にロールから視線を上げて、そこにいたものに俺は心底跳び上がった。
あの白と赤のコントラストは、金さん?!
俺はギョッとして懐に入れていた匣を確かめたが、そこはもぬけの殻でやはりあれは俺のニワトリのようだ。
良い名前が思い浮かばず、俺はそのまま「
千金」と名付けた。
あだ名はもちろん金さんだ。
何でこんなことになったのかと汗をダラダラ流していたら、金さんと目が合った。
すると金さんは何を思ったか、プルプルと震えて突然トサカに炎を灯して羽根を広げた。
・・・何か、抵抗する気はありませんと怯えて両手を挙げる人質っぽく見えるのは俺だけか?
脆弱な炎は何だか可笑しな色をしていて、今の金さんの心境を物語っているようだ。
「・・・へぇ。あれ、兄さんのだよね?」
「、ち・・・・っきんっていう」
「キーン?」
あれ?って思った時には千金さんにキーンとかいう格好良さ気なあだ名が付いていた。
金さん、もとい、キーンさんの翼の風圧で、ロールはコテンと転び、体の大きなキーンに目を丸くしていた。
ちくわを手から落としてガクガク震えてるロールに対して、キーンも大きな体を揺らして怯えていた。
あんなに体格差あるのにロールより酷い怯えようは、さすが俺の相棒だ・・・。
泣けてくるぜ・・・。
キーンは普通のニワトリよりも長い嘴でちくわを突くとロールの方へ押しやっていた。
一方のロールは、上から嘴が降ってきて可哀相なくらい飛び跳ねている。
「鳥ってハリネズミ食べるのかな?」
不思議そうに恭弥が首を傾げているが、心配しなくてもあれは食わない。
ていうか、俺にはむしろ、ちくわをあげるから命だけはお助けをとキーンが命乞いをしてるように見える。
こうして、よく分からない内に、俺の匣はお披露目され、財団の施設ではたまに見掛けるようになるのだった。
* ひとやすみ *
・そんなわけで相棒キーンの誕生でした。笑
書きたかったプチエピソードを詰め込んだ話となりましたが、いかがだったでしょう?
実は兄様大空以外の全属性が使えちゃう器用貧乏タイプでした。笑
気分が乗りすぎて恭弥視点も書いちゃったのでよろしければそちらもどうぞ。
2012年の更新はこれで最後かな?来年もどうぞよしなに願いますー!! (12/12/30)