ドリーム小説
まさか様の手を煩わせることになろうとは。
あの程度の小娘の考えなどザルですし、突き崩す点はたくさん見えていたからこその油断だった。
主の短慮を餌に随分と小狡い罠を仕掛ける犬がいるとはね。
執事はティエラの甘さを嘆きながら、後手に回っている自身の不甲斐無さに爪を噛んだ。
「リーダー、やはり解析班からの情報によりますと、爆弾が起動しますと被害は市内全域に及ぶと・・・」
「そう。時間があってよかった。処理は私がします。それより彼女の身元は確認できた?」
「はい。すでに養子縁組で後見人を作り、教会には使者を送りました。明日中には片が付くと思われます」
「明日じゃ遅いわ。今日中に何とかするわよ」
獰猛に笑う執事に部下は冷や汗を掻きながら頷くとすぐさま仕事に戻った。
仕掛けられた罠を解くだけなんて温いことはしない。
様に楯突いたことを死ぬほど後悔させて、諸悪の根源は元から断つ。
そのために執事はまずメアリー・アデルトルート・メイラインの力を削ぐことにした。
つまり巫女の立場から引きずり落とすということだが、彼女が巫女である証はただ血統書付きであること一点のみだ。
それ以外はただの我儘放題の面倒な小娘であるとしか言えない。
あの我儘は周囲を垣間見ないため、本国も後処理に追われていい迷惑を被っているのだ。
教会にも彼女をよく思っていない者はたくさんいるが、初代巫女から脈々と受け継がれた血統は相当魅力的なようだ。
ならば、扱いやいすい血統書付きの巫女を別に用意してやればいい。
血筋をねつ造しようとも考えたが、どうやら先代の巫女も相当やりたい放題だったらしい。
教会の機密事項によると、彼女の産んだ庶子は十を超えると言われ、
由緒ある血筋の生れであるメアリーだけを残して全て神の身元に返されたことになっている。
しかし、先代は凄かった。
どうやって抜け穴を突いたのか、二人ほど身代わりを立てて子どもを逃がしている。
一人は男子のため調べていないが、もう一人は孤児院で真っ当に育った娘だった。
彼女の名前は、エリザベス・アルノルド。
執事は彼女を新たな巫女候補として後ろ盾を作って、王国に差し出した。
すると、どうだろう。
馬鹿で面倒な小娘よりも、素直で扱いやすい方が良いに決まっている。
王国は彼女をあれよあれよと巫女と認めて、教会に訴えた。
今現在、教会は現巫女派と新巫女派とで対立しているものの、一気に抑え込まれて事態は収束に向かうだろう。
ちなみに後ろ盾は組織に属する人間の為、エリザベスが巫女となれば今後かの国はほぼ牛耳ることが出来る。
ついでにメイライン家を追い落とせば、完全なる囲い込みの完成である。
「さて、さっさと爆弾を解体して様の元へ行きましょうか」
執事は趣味で覚えた爆弾処理の技術を駆使して、事態の解決へと動き出した。
***
メイライン家の所有する屋敷を完全掌握すると、執事はがいるというテラスへと向かった。
そこに居たのは癇癪玉と美しすぎる女神だった。
黒のマーメイドラインのトレーンドレスに黒の薄いレースで出来たパコダスリーブのボレロを重ねる姿は
まるで夜の女王のようだ。
鬘だと分かっていながら艶やかな髪は腰元まで流れ、一部は髪と宝石を複雑に結い込んである。
首元を飾る豪勢な装飾品に負けない輝きを放つ黄金の瞳に執事はうっとりとした。
誰だか分かりませんが、私の用意した衣装を引き立たせて、様の麗しさを引き出すとは良い仕事をしましたね。
だと分かっているのに、どう見ても美の女神にしか見えない不思議。
執事が心のシャッターを切りまくっていたら、靴音がイライラと地面を叩いた。
「・・・もういいだろう」
あぁ、どうやら相当お怒りのようですね。
じっとりと私に観察されるのが嫌だったらしい様に肩を竦めて謝る。
クスリと苦笑した執事は、我慢しきれずもの凄いプレッシャーを放つ主の元へと歩み出した。
「遅い」
相変わらず無茶を言うと内心苦笑しつつ謝れば、成果は出せたのかと伺う視線を向けられた。
そうでなければ完璧な貴方様に仕えるなど無理というもの。
返事の代わりに一礼して教会から獲り付けた書面を見せれば、興味を失くしたように視線を逸らし、
勝負は着いたとばかりに様は小娘に突き付けていたを離した。
馬鹿娘はやはりネジが緩いらしく何も分かっていないようで、呆けた顔でのうのうと様に話しかけていた。
「悪いが、俺は、お姉様ではなく、お兄様なんだよ」
確かに美しすぎて男性には見えないですが、その方は間違いなく雲雀というお兄様です。
あの少し腑抜けた弟達と共にいる姿を知っていれば嫌でも感じますから。
貴方のような小娘には勿体ない方なのですよ。
諦め悪く様が欲しいと駄々を捏ねる癇癪玉に流石の様も面倒になったらしく、
駄犬のポチがオイタをしようとしてるのを見て素早くおもちゃを取り上げるかのように銃だけを狙って発砲した。
銃が弾き飛ばされてようやく様が撃ったのだと気が付いた。
速すぎて見えなかった・・・。
ハッとした時には様は戦意を残しておられず、視線だけで私にご命じになられた。
―――ヤレ、と。
ここに来るまでの煩わしい出来事を思い出した私は躾の成ってない教会の犬を思いっきり殴り倒した。
一瞬で意識を奪えなかったことに舌打ちすると、駄犬はよりによって様に汚い手を伸ばした。
次の瞬間、私は目にした光景に痺れた。
「俺はドレスを血で汚す趣味はない」
お前なんぞが触れられる存在ではないと私は主に高貴な女王を見た。
刺すような冷気と輝く美貌を纏う氷の女王・・・!
普段女性に優しい様ですが、今回は身内をやられ相当激怒しているらしく、
小娘に声を掛けることも、振り返ることもなくその場を後にした。
***
様は余程疲れていたらしく、何時間も機内で睡眠を取り、並盛に着くまで目を覚まさなかった。
女装をあんなに嫌がっておられたのに、今では板についてるというか、忘れてるというか、厭う素振りもない。
でも、これだけ身長があり、身体つきも貧弱ではないというのに、どう見ても女性だ。
全てを完璧にこなす様だからこその魅せ方だと惚れ惚れした。
飛行場に兄を心配する弟二人が押しかけているという情報に溜め息を吐いた。
騒がしいことになりそうですね。
案の定、ジェットを降りるとそこには恭弥君と跳ね馬。
様は二人の顔を見てようやく安心したのか、強張った顔から蕩けるような優しい笑みを見せた。
その瞬間、二人はポカンとアホ面を晒して絶句した。
まぁ、分かりますけどね。様が身内に見せるその顔は反則ですよね。
しかも、様は忘れておられるかもしれませんが、今、貴方はとんでもない美女仕様です。
「兄さん・・・、なんで?姉さん?」
「な、何でそのまんまなんだよ・・・」
「あぁ。一分一秒でも早く帰りたかったからな」
混乱して意味の分からないことを言う恭弥君と動揺している跳ね馬。
そしてようやく自分の格好を思い出した様は自分の身体を見下ろして苦笑した。
「似合ってないけど、仕事だったからそこは許せ」
そうじゃないんですよ!
似合いすぎてるからビックリしてたのであって、様に似合わない服なんて有り得ません!
シンクロする思いを抱えて弟二人は首を振って答える。
「兄さんはもう人外の美しさだって!アフロディーテも裸足で逃げ出すくらいだし、俺めっちゃタイプだもん!」
「・・・兄さん、味噌汁飲みたい。毎日作って、僕のために」
混乱して何言ってるか絶対分かっていませんね、このお坊ちゃん達は・・・。
何、真剣に兄を口説いてるんですか・・・。
タイプとか、味噌汁とか、本当に馬鹿ですね。
頓珍漢な弟に律儀に返さなくていいんですよ、様!
もう、そんな嬉しそうな顔してたら何も言えないじゃないですか。
様は弟達のアホっぷりが心底可愛くてしょうがないようで、二人をそのまま抱き締めた。
・・・もう一度、言いますが、貴方、今、美の女神にも劣らぬ極上の夜の女王ですからね?
ほら、美女に抱き締められてショートしましたよ。
「ん、どうしたんだ、こいつら」
「問題ありません。ちょっと色気に中てられただけですから。馬鹿はしばらく放置するのが一番です」
二人を車に乗せて運転席に座った私はほんの少し後部座席が羨ましかった。
帰ったら様のドレスをまた発注しよう。
次は白がいいわね。
* ひとやすみ *
・裏事情を執事視点でお送りしました!裏で執事はめちゃくちゃ暗躍してます!
それはもう部下に無理をさせております。けど怖くて誰も逆らえないっていう。笑
気付いた方もいるでしょう。メアリーとエリザベスです。名前だけこだわりました。
他にもいろいろあるのですが、まぁ探してみて下さい。笑
今回も兄様至上主義視点だったのでおかしなことになっていますが、これぞヒーロー!笑
楽しんで読み終えていただけていたら光栄です!これにて癇癪玉シリーズは終わりですが、
また違う話が書けましたら上げていきますね!ここまでお付き合いいただき感謝です!! (14/07/20)