ドリーム小説
珍しい奴が来たな……。
扉の外に見知った気配を感じて視線をやると、同じくそれに気付いたベルフェゴールが楽しげに笑った。
コイツ、また碌でもないこと考えてんなぁ……。
フランが居れば茶化してる所だろうが、生憎今は俺達しかいない。
控えめなノックと共に扉が開かれると、予想通りの顔がひょっこり顔を出した。
「お邪魔しま……っと?!」
入って来た瞬間に投げられたナイフを指で掴んだは目を瞬いた。
驚いたような表情をしているが、さらっとベルのナイフを掴む辺り手馴れ過ぎだ。
「もー。ベル兄、入ってすぐにナイフ投げるの止めてっていつも言ってるじゃん。ビックリするから」
「はぁ?俺のナイフ普通に指で掴んどいて何言ってんの、」
「掴めるって分かってても怖いものは怖いの」
はぁと深く溜め息を吐きながらもそのまま容赦なくベルにナイフを投げ返す。
ナイフが空を切る音が短く聞こえたのに反応するようにベルはそれを避けて壁に穴が開いた。
何で避けるんだよと怒るをベルが茶化しているが、は案外力がある。
アイツのナイフなんてベルが掴めば怪我くらいはするだろうよ。
つまりベルの判断は正しいわけだが、この弟分は全く分かっていやがらねぇ。
自分は全く悪くないという顔をして悪気なくこういう事をする辺り、との血の繋がりを感じる。
「……つか、うぉぉい。誰が壁の穴修理すると思ってんだぁ?!」
「経費でよろしくー」
「え、これ俺が悪いの?ベル兄が避けるからでしょ?!」
やいのやいの騒ぐバカ二人に舌打ちをする。
まぁどうせ有耶無耶になるだけだからこいつ等には期待してねぇが。
それより、は何しにここに来たのか気になる。
「、お前ぇ、何かあったのか?」
そう聞いた瞬間、気温が一気に下がった気がした。
眉間に皺を寄せて腕を組んだは不機嫌そうに椅子に身体を預けた。
どうやら地雷を踏んだらしい。
これはまたいつものアレだろうなとベルの方を見ると、奴は飄々と肩を竦めた。
ちっ、仕方ねぇなぁ……。
「またとやりあったのか?」
「聞いてよ!スクアーロ!!あの狸親父がさぁ!」
憤懣やるかたないと言った様子のが爆発したように喋り出す。
相も変わらずここの親子は仲が拗れているらしい。
と言っても、正直な所、一方的にが敵愾心を抱いてるだけでは全く気にしていない。
むしろ、は可愛がってる息子が何でか懐いてくれないと溢していた。
まぁ、天才には凡人の気持ちが分からないのだから無理もないと思う。
の場合、気遣っているようで思いっきり虎の尾を踏み躙って行く感じだからなぁ。
怒りを吐き出すを眺めながら出会った頃の事を思う。
「……お前ら、昔は仲良かっただろうがぁ」
「……まぁ、小さい頃はね、」
勢いの止まったの幼い頃に思いを馳せる。
俺がコイツと出会った頃、ガキのコイツはまだの後ろをちょろちょろとついて回っていた。
***
「でたぁー!!」
俺の顔を見るなりすっ飛んで逃げたガキはの後ろに隠れた。
の家に行けば面白いもんが見れるとボスが言うので来てみれば、とんだ歓迎の仕方じゃねぇか……。
窺うようにこっちを見てるチビは黒交じりの白銀の髪に金の瞳をしている。
一瞬、あの頃に戻ったような気になったほど、の幼い時にそっくりだった。
促されて出てきたチビは俺の様子を窺いながらおずおずと名乗った。
「こ、こんにちは、雲雀です」
どうやら顔は父親そっくりだが中身はかなり違うらしい。
何だかそれが面白くて噴き出した俺はの頭をガシガシと撫でた。
「俺はスクアーロだ、」
するとはどこか安堵したように息を吐いて小さく笑った。
そして、その後、なぜだか懐かれた。
気付いたら側にいたのだが、別に邪魔するでもなかったから放って置いただけだ。
何をしたらそうなるのかにはしつこく聞かれたが、正直何かをした記憶もないので俺が答えられるはずもねぇ。
よく戦闘方法や武器の扱い方などを聞いてきてはいたが大したことは言ってねぇし適当に答えていた。
だが、は納得いかなかったのかしつこく聞いてきてかなりウゼぇ……!
最近、弟とばかりつるんで息子が構ってくれないだの、顔を見たらまるで敵かのように睨まれるだの、
うるさいの何の……。
「お前、に何したんだぁ?」
面倒だがあまりにしつこいので適当に合わせて話を聞いてやることにした。
するとが滔々ととんでもないことを言い出した。
「この前、が俺に飛び掛かって来たので全力で遊んでやった」
それ、、遊びに来たんじゃねぇだろ、多分……。
あのチビには戦闘のセンスがある。
そんな奴の父親が最強のだぜ?
そりゃあ男なら超えたくなるわなぁ。
何か嫌な予感がするぜぇ……。
「……具体的に何したぁ?」
「鬼ごっこがしたいのだと思って徹底的に逃げた」
あー……。
俺はに同情する。コイツが徹底的というからには絶対捕まらなかったんだろうからなぁ。
手合せしに来たら、受ける所か逃げられ、相手に触ることすら出来ないなんて、
実力差をまざまざと見せられて心折れるぜ。
ましてあんな小さなガキに情け容赦なく、楽しげに遊んでやったって、コイツは根っからの鬼だ。
「、お前、最低だな……」
「何で?!」
衝撃を受けたような顔をして固まってるを見て溜め息を吐く。
コイツは多分純粋に遊んでやったつもりなんだろうが、不幸なことに天才には凡人の苦労が理解出来ない。
息子を楽しませたい一心で出た行動が、その努力を嘲笑うかのような結果になるんだもんな。
ガキにはキツイ試練だよなぁ。
「お前、嫌われるだろうけど、お前はを嫌ってやるなよ?」
「何を言ってるんだ?俺の息子だぞ、嫌うわけないだろ?」
当然な顔をして言い放つに親の強さを知る。
そんな当時のことを思い出して笑う。
案の定、は父の背中を追い続けている内に捻くれてに対する当たりが強くなった。
頑張っても頑張っても全く手の届かない歯痒さは、の周囲にいる者ならみんな分かる。
だからこそ、は俺達に懐いて貪欲に強さを磨いてきた。
それはつまり、父親への愛情の裏返しであるとも言える。
コイツは口ではいろいろ言ってるが、実は行動の端々にへの尊敬の念が見受けられる。
を馬鹿にしてフルボッコにされた奴はごまんといるし、が教えたことはずっと大事に覚えている。
そしてまたも息子にボロクソ言われてるが、の挑戦を拒むことはないし、
今も昔も変わらずを愛し、声を掛けている。
……まぁ、相変わらず逆撫で上手だが。
「信じられるー?!」
「まぁまぁ、のそれは今に始まったことじゃないじゃん」
「だとしても、もう少し言い方がさー!」
ベルに息巻いてるを見ながらしみじみ思う。
変な親子だが、これはこれでいい親子の形なのかもしれねぇなぁ……。
まぁ、まずはの気を鎮めないと拠点が壊れるな。
* ひとやすみ *
・お久しぶりです。久々に息子話です。それもちょっと大人になった版。笑
息子は目指せ父さん!をやってる内に一向に追い付けない父を見てスレました。笑
父を尊敬してるし、誇りにも思っているけど、やっぱ反則だといじけてます。笑
父は父で謙虚だし息子ラブだけど最強なので、追い掛ける側からすると嫌味に見える不思議。笑
スクアーロは親子を見てて互いの状況分かってるけど、無理だと諦めてたり。笑
そんなこんなで息子はヴァリアーに懐きます。そして結構な実力者になります。努力の子なので!笑
息子の話は多分これが最後かな?また機会があれば書きますが。笑
ここまでお付き合いありがとうございました!また遊びに来てやって下さい! (20/01/05)