ドリーム小説

「つまり、征州にいるのは偽王で雁で本物の主上を保護していると?」

「そうそう!だからさ、軍を引いてくれ」

「そんな馬鹿な!主上の傍には台輔が居られるのですぞ?失礼ですが、雁の方々が騙されているのでは?」

「あーもー!転化出来ない麒麟がどこにいんだよ?!ありゃ誘拐されたんだって言ってんだろ!!」

「た、台輔、落ち着いて!」




陽子達が征州城へ突入する少し前、六太と楽俊、の三名は州侯の説得に来ていた。

しかし、状況は堂々巡りで短気な六太を楽俊が抑えなければ、今にも殴り掛かりそうな勢いである。

おそらくどれだけ有力な証拠を出してもこの州侯は頷きはしないだろう。

非を認めれば罰せられる。

要は、赤信号は皆で渡れば怖くないってことだ。

州侯のほとんどが間違っていたのだとしても、数が多けりゃ逃げられるとでも思っているのか。

こんな所で集団心理を発揮させてくれるなっての!

溜め息を吐く代わりに視線をやれば、楽俊の縋るような目にぶつかった。

は楽俊にニッコリ笑って返した。




「すいませーん。お茶のおかわり下さーい」




の間の抜けた声が卓に響き、その場の視線を釘付けにした。

助けを求めた楽俊はピシリと固まっている。

沈黙の次に憤慨がやってきたのか、非難の言葉がに向けられる。




「今何を話しているのか分かっているのか?!それでもお前は慶の秋官か!」

「ちゃんと聞いてますよ?私達が保護している方が偽者だって仰りたいとか?」

「その通りだ!」

「そうですねー。確かに一理あるかもしれません」

「「 ?! 」」




お茶を注ぎ直してくれた給仕に礼を言うと、は六太と楽俊を無視して手を組んだ。

そしては微笑み、州侯はなぜかその笑みに青褪めた。




「大国雁を味方に付けておけば真実味がありますし、稀代の名君だって騙される事くらいありましょう。

 我々が騙している場合、ここにいる州朝士でも私達を一時的に拘束し裁ける権利があります。

 ・・・が、困りましたねー。同じ朝士の私もそちらを裁ける訳ですが、そちらが偽王と仰る我が主上から

 一件の終着後の処罰は一任すると申し遣ったのに、私が騙されている事も有り得るならどうしたものか・・・」




全然困っているようには見えないを余所に、州侯はギョッと目を剥いた。

誰がどう聞いても今のは捕縛をチラつかせた脅しだった。

官位というものは朝廷においては絶対の権力であるが、秋官はそういう意味では特殊だ。

法を司る秋官は例え官位が上の者だろうと裁く権利がある。

細かい手順や条件はあるものの、官を裁くのも官だということだ。

つまり王に処罰を一任されたのだから真実陽子が王だった場合、は州侯をも罰することが出来るのだと言ったのだ。

まぁ、一任云々の話は全ての口から出任せであるのだが嘘も方便ということらしい。

楽俊に取り押さえられていた六太もあまりの事に顔を青くして、現状を窺っている。




「ですが、雁の王師も動いているし、我が主上は水禺刀も扱える。景麒に喋れないよう呪を施して引き渡したと

 される巧国の麒麟が病んだと聞きますし、私は主上の言葉を信じることにします」

「塙麟が?!」

「はい。それに私も秋官の端くれ。こちらの事をいろいろと調べさせていただきました」

「!!」




持ってきていた大量の書物をペシペシ叩いたの目がキラリと光った。

どんな立派な所でも叩いて出ない埃はない。

楽俊はこの時のを獲物を定めた肉食獣のようだったと後に語る。

こうして達は慶の州侯を一両日中に説き伏せ、

急襲部隊も何やらいろいろあったようだが無事景麒を救出することに成功した。







***







「まぁ俺達が動いたのだから説得に難航するとは思っていなかったが、それにしても折れるのが早かったな」

「あはは、これくらい当然ですよ」

「助かったよ、。一体どんな説得を?」

「や、やめとけ、陽子!おいらは思い出すだけで尻尾が縮みそうだ」

「尚隆、頼むからだけは敵に回すなよ!骨も残らないぞ!!」

「・・・・、お前、一体何をしてきた?」




首を傾げるのは何も知らない王二人だけで、は怯える二人と笑顔の主を見て何となく頬を引き攣らせた。

どうせ碌なことではあるまい・・・。

人様の部屋で騒ぎ立ててる集団にが溜め息を吐くと、は寝台へと向かった。




「景麒、調子はどう?」

「もともと病ではありませんので心配無用です」




呪が解けたとはいえ青白い顔で淡々と告げる寝台の主にはケラケラと笑って淵に腰掛ける。

州侯を説得はしたが、この騒動が治まるまでもうしばらくかかるだろう。

穏やかな玄英宮の一室で未だ戻れない自国を思い、景麒は一つ溜め息を吐いた。




「約束・・・」

「はい?」

「守ってくれたね」




ニッコリ笑って言うに景麒は目を瞬く。

と約束なんかしただろうか。

見に覚えのない言葉に困惑していると、不意にの視線が騒がしい集団に向いた。




「ちゃんと見付けて来てくれた」




優しく細められた暗緑に映り込んでいるのは燃えるような赤。

その時になって景麒はの言葉にようやく思い至った。



『王様見付けておいで』

『すぐとはいかないでしょうが、必ず』



随分と前に言ったあの言葉を覚えていたのか・・・。

呆気に取られて黙り込んでいると、はなぜか景麒に礼を述べた。




「景麒のおかげで私の仕えるべき人が見付かった」

「・・・では、主上が、」

「うん。景麒はよくやった。次は私の番。今はまだ落ち着かないけど、絶対いい国にするからね!」




拳を握り締めて立ち上がったに景麒は思いを言葉に出来ず、全てを呑み込んで賑やかな室内に視線を向ける。

まだ何も始まってもいないが、必ず慶に新たな風が吹く。

そんな希望を慶の各地に撒き散らし、後に様々な逸話を残す赤王朝が幕を開ける。


* ひとやすみ *
 ・赫耀編これにて終了です!
  あーホントに原作と絡ませるのって難しいって実感した編でした。
  私にもう少し表現力と柔軟性があれば違ったのでしょうが。苦笑
  さてさて、おそらく次編がラストになると思います。
  私の大好きな風の万里。ただまだ試行錯誤中ですのでどうなることやら・・・。
  何がともあれ、ここまでお付き合いいただきありがとうございました!            (10/05/14)