ドリーム小説

「やぁ、

「恭弥ぁ、どうしてイモムシみたいになる前にアタシを呼ばないわけ?」




アタシは廊下で倒れている恭弥を見下ろして溜め息を吐いた。

そんなに睨んだって、床で必死にウゴウゴしてたの見てからじゃ全然怖くないんだから。

は恭弥の傍にしゃがみ込んで肩を差し出した。




「何のつもり?」

「肩に掴まりたくないなら別にいいけど、そしたら足引っ張ってリビング行きだからね」

「・・・・・・」




ムスーと機嫌悪そうにの肩に腕を回した恭弥にもう一つ溜め息を吐いてリビングへ向った。

人並み以上に力の強いはソファに恭弥をペイッと転がして、額に手を当てる。

掌よりずっと熱い体温に眉根を寄せてすぐにエアコンを起動させる。

勝手知ったる何とやらのようで、はコップを取り出し冷蔵庫からスポーツドリンクを出した。




「完璧熱中症じゃん。汗掻いたんならどうして水分取らないの?」

「・・・仕事が山積みでね」

「どうせご飯も食べずに仕事ばっかしてたんでしょ。草壁がアタシんとこに泣きついてこなきゃ干乾びてたよ恭弥」

「うるさいよ」

「はん!『雲雀恭弥、干乾びる!』とか並盛新聞に載っちゃったりしたらアタシだけは笑ってあげるからね」




がコップを持ってソファに行けば、トンファーが飛んでくる。

それを空いた片手で掴んで溜め息を吐くと、辛うじて零れなかったコップを突きつける。




「あっぶないなー。零れちゃうでしょ!それ全部飲んだら着替える!」

「・・・いつか絶対咬み殺す」

「はいはい。シャツいつものトコだよねー」




むくれる恭弥を放ってはパタパタとリビングから飛び出していった。





***





と恭弥はいわゆる幼なじみという奴だ。

家が真向いで、両親が仲がよく、小さい時からずっと一緒なのだ。

大きくなるにつれてふてぶてしく並盛最強になる恭弥の傍ら、気が付けば一緒にいたも恐ろしいほど力を付けていた。

本人は少し力が強い女の子と言って譲らないが、弱ってるとは言え恭弥のトンファーを片手で止める辺り怪力に間違いない。



パリッとアイロンが当てられた白シャツを手渡すと、は空になったコップを受け取ってキッチンに戻る。

持ってきたビニール袋をガサガサとあさりながら、着替える恭弥を見る。




「恭弥がそんなのだから、おばさんが心配してアタシに合鍵なんか渡しに来るんだよー?」

「知らないよ」

「全く。アタシに世話焼かせて、恭弥には絶対彼女なんか出来ないから」




真新しい服に着替えた恭弥は少し楽になったのか、キッチンにやってきた。

どこか不機嫌そうな表情に気が付きながらも、は何しに来たのと首を傾げる。

手を伸ばせば届く距離で立ち止まった恭弥の顔を見るには見上げなければならない。

ちょっと前まで自分の方が身長高かったのにと少し悔しく思いながら窺えば、いつもの答えが返ってきた。




「群れる気はないから彼女なんかいらない」

「でしょうね」

「僕の傍にはがいればそれでいい」

「え?」




の思考は止まった。

こんなセリフを最近読んだ少女マンガで見たような気がするが、あれはどんな場面で使われていただろうか?

ましてや、目の前にいるのは並盛の秩序で雲雀恭弥で幼なじみなのだ。

ジッと射抜くように強い視線を向けられ、ドキンと何かが跳ねた。

しかも着実に恭弥の顔が近付いてきており、は混乱し思わず身体を引くがシンクが邪魔してこれ以上下がれない。

鼻先が触れる間際、がギュっと目を瞑ると恭弥が笑った気配がした。




「コップを取りたかっただけだよ」

「・・・・へぇ?!」




パチリと目を開けば、楽しそうに笑う恭弥。

伸ばされた手の先を追えば、の後ろに先程置いた空のコップがあった。

からかわれたのだと理解した途端、顔に熱が集まる。

再びコップにスポーツドリンクを注いで飲む恭弥には叫ぶ。




「恭弥のバカー!!」

「叫ぶのはいいけど、その馬鹿力で家壊さないでね」

「馬鹿力じゃない!!」




口元を緩める恭弥はを見て、まるでトマトみたいだと思った。

が持ってきたビニール袋の中で真っ赤なトマトが転がった。




***




「・・・何食べたい?」

「まだ怒ってるの、

「べっつにぃ」




目が据わってるに恭弥は溜め息を吐いて、テーブルに肘をつく。

プリプリ怒りながらキッチンに立つ幼なじみを見て言う。




「なんでもいいよ」

「またそれー?ちょっとは考えなさいよ」

「じゃあハンバーグ」

「もう!考えろって言えば、ハンバーグか和食かしか言わないんだから!今日はパスタにしてやる!」




恭弥は怒りながらも自分のために料理をしてくれるに薄く笑う。

草壁が差し入れに持って来たという食材を切る音を耳にしながらを見る。


特別美人でもなく性格も大人しい方ではない幼なじみだが、怒った時だけは面白いと思う。

コロコロと変わる表情はずっと一緒に育ってきてよく見てきたが、見飽きる事が無い。

怒りながらも一生懸命世話を焼いてくれる彼女が面白くて、つい何も出来ないフリをしてしまうのだ。

だけど僕だって少しくらいの笑ってる顔が見たい。




が作る物は美味しいからなんでもいいよ」




は手を止め、大きな目を瞬かせて恭弥を見た。

それから目を細めて包丁を恭弥に向けて言い放つ。




「またそんな事言ってからかう。もう騙されません!」

「僕が嘘吐くと思ってるの?」

「嘘どころか騙したり、からかったりばっかじゃないの」




反論出来ない恭弥は今までのツケが一気に廻って来たと眉根を寄せた。

やっぱり一筋縄ではいきそうに無い幼なじみに、恭弥は声を漏らして笑う。

信じてくれないなら信じるまで言うまでだ。

怪訝そうに見てくるに恭弥は今までで一番優しい微笑を向けた。




「好きだよ、

「はいはい」


* ひとやすみ *
・短編=甘いのって方程式が出来てる私は何なんですかね?笑
 雲雀さん、干乾びたらおそらく新聞の一面トップですよね!てか並盛新聞て!笑
 むにこ様!こ、こんなんでいいんでしょうか?!ドキドキ
 キリリクいろいろ考えれて面白かったです!感謝!                  (09/06/22)