ドリーム小説

赤い赤い花が散っていた。

どこからか降り注ぐ赤い花だけが暗い闇の中、色鮮やかだった。

は舞い散るその花に手を伸ばすが、一向に掴まらない。

何度も何度も試すがの手に触れる事はなく、気が付けば床に赤い花畑が出来ていた。

ふと雫が落ちる音がして振り返れば、すぐ側に慶次がいた。

赤い花畑とは対称に青白い顔をしてそこに寝ていた。

は無意識に慶次の横に座り込み、眠ったままの慶次の頬に手を伸ばした。

指を刺す様な冷たさに思わず、手を引っ込めると再び水音が聞こえた。

今度こそ間違いなく床から聞こえた。

は不思議そうに赤い花畑に手を伸ばした。

ようやく手が届いた赤い花はの手をヌルリと濡らしただけで手には何も残ってはいなかった。

手を伝うように流れるそれは美しく、けれど怖ろしいくらい真っ赤で、の鼻を突いた。

鉄のような、さびのような臭いは知りたくなくても身に覚えがある。

これは血の臭いだ。

そうが認識した途端、花畑は血の海に変化した。

手や膝や服を濡らす血に恐ろしさを感じるより先に、誰の血なのかという疑問が湧いた。

まさか、という思いで目の前に横たわる慶次を見ると胸の辺りから、

泉のように赤い赤い水が止め処なく溢れ出ていた。

悲しいやら、恐いやら、何とも言えないものが背筋を走り、は必死に両手で慶次の胸を押さえた。

けれども嘲笑うかのように手をすり抜け、一向に止まる気配がない。




「やだ・・やだやだやだやだ!止まってよ!」




の涙は血の海に落ちて赤く染まった。

の身を裂くような声が暗闇に響き渡った。




「慶ちゃぁぁぁぁん!!!」






***






大きな叫び声に驚いて目を開くとそれが自分の声だったと気付いた。

煩いぐらいの呼吸を聞きながら、は濡れている自分の手に怖くなった。

そっと手を顔の前に持ってくると、手は赤くなく、それが自分の汗だった事に安堵して泣きたくなった。

重く感じた布団を捲って、は身を起こした。

まだ夜は更けたばかりで辺りは真っ暗だった。




「・・・夢でよかった」




すすり泣く様に細く声を漏らすと、余計に怖さが戻ってきた。

夢と同じような暗闇に腕を抱えて震える。

果たしてあれは本当に夢だったのか。

そう思えば思うほど現実なのではないかと思えてはいてもたってもいられなくなった。

そして暗闇を振り切るようには部屋を飛び出した。

深夜の廊下を遠慮も気配りもなく、必死に走っては目的の部屋に飛び込んだ。

慶次は目を閉じてそこに寝ていたが、その姿がまた夢と重なっては寝ている慶次に縋り付いた。




「慶ちゃん!慶ちゃん!起きて」

ぐほっ!!!!




腹部に飛び乗るようにしがみ付けば、慶次は苦しさのあまり飛び起きた。




ぐっ・・・いい膝蹴りだ、

「慶ちゃん!起きて!」

「・・・よくわかんねぇが、起きてるって。落ち着け」

「死んじゃヤダ!」

「おいおい勝手に殺すなよ。落ち着け、

「慶ちゃん、慶ちゃん!」




胸に縋り付いて取り乱しているに全く慶次の声が届いていなかった。

何となく慶次は状況が予想出来て困った様に笑って、縮こまってるをキツク腕の中に抱き締めた。

慶次の胸に頭を押し付けられたはようやくピタリと動きを止めた。

慶次はそれに安堵して優しくに声を掛ける。




「ほれ。ちゃんと生きてる音がするだろ?俺は死んでない。ちゃんとここにいる」




押さえ付けられた耳に慶次の鼓動がしっかりと音を立てているのが聞こえた。

はようやく安堵の息を吐いて、落ち着きを取り戻した。




「慶ちゃんの音がする・・」

「全く。どうせ怖い夢でも見たんだろ?この強ーい慶ちゃんがそう簡単にくたばるかってんだ」

「そう、だよね」

「勝手に殺すなって」




拗ねるように言った慶次にはようやく薄く笑った。

腕を緩めるとは手を伸ばして慶次の頬に触れた。

慶次はただ真剣な表情で見てくるに微動だに出来なかった。




「暖かい・・・」




へにゃりと笑ったには色気も艶も何もないのに、思わず見惚れてしまった。

ふと離れた手に名残惜しさを感じながら、慶次は思わずギョッとした。

気付いていなかったが、今の状況に頭を抱えたくなった。




「お前、夜着のまま男の寝所に飛び込んでくるなよ」

「だって・・」

「だってじゃない!全く。いいか、男はみーんな狼なんだ。気を付けろよ」

「え、あ、うん」

「分かったら少し離れろ!」




慶次は何も分かってないようなに内心溜め息を吐いて、くっ付いてるを引き離した。

それから目を逸らしながらの乱れた夜着を整えてやった。

俺じゃなかったら大変な事になってたぞ、そう慶次は思って口を引き結んだ。




「まだ夜中だ。もう少し寝とけ」

「うん。あの・・・」




言い難そうにしているに投げやりに続きを促した。

そしてすぐに慶次はそれを後悔した。




「一緒に寝ていいかな?」

ぶっ・・・!!




分かってない!!全然わかってないコイツ!!

慶次はそう叫び出したいのを堪えてグルグルしていると、返答がないのを良い方に捉えたのか、

は事態を心配そうに見ていた夢吉を抱えて布団に潜り込んできた。

しかも事もあろうに枕元に座り込んでいた慶次に抱き着く様にして寝てしまった。

一時期、男装していたとは言え、うら若き乙女が男の腕の中で寝るとは、慶次はだんだん頭が痛くなってきた。

安心しきった顔で寝入ってしまったに深く溜め息を吐く。




「俺だって男なんだぞ、・・・。ここまでされりゃあ俺だって・・・」

「ウキャ!」

「わーかってるって、夢吉」




心底困った顔をして夢吉に乾いた笑みを返すと、夢吉も同じように困った顔でを見ていた。




「寝顔見てるのも悪くないが、こりゃ朝まで般若心経でも唱えるしかねえなぁ」

「ウキュ・・」




心底困った慶次は天井を見上げて、息を吐いた。

主に付き合うことにしたらしい夢吉に礼を述べた慶次は腕の中の温もりに再び視線を落とした。

さらりと降ろされたの髪を空いてる方の手で掬い取ると、そこに口付けを落として笑った。




「いい夢を」





***






陽が徐々に顔を出し始め、鳥のさえずりが聞こえ始めた頃、は目を覚ました。

開けた目に真っ先に飛び込んできた慶次の顔には悲鳴と共に拳を振り上げた。

吹っ飛んだ慶次には動揺しながら叫んだ。




「何で慶ちゃんがここにいるの?!」

イイ拳持ってんな、・・・

「だって・・・あれ?ここ私の部屋じゃない?!」

「忘れてんならそりゃよかった。おはよう、

「え?あ、おはよう?」




ようやくいつもの二人に戻ったのを見て夢吉が嬉しそうに鳴いた。


* ひとやすみ *
   ・BSRアニメ化記念作品!第三弾!
    甘すぎるとグロくなるという新発見。。。
    ま。とりあえず、拍手ありがとよっ!(拍手お礼作品)   (09/04/15)