ドリーム小説
がこちらの世界に渡ってから初めての夏が来た。
奥州で厳しい冬を体験したが、甲斐では厳しい夏を体験している。
現代の文明の機器であったクーラーや扇風機なんて物は存在しておらず、あるのは扇とひんやりした木蔭だけだ。
日本独特の肌に纏わり付くような暑さとBGMとしてあまりに聞き慣れたセミの大合唱に気だるさが助長される。
今日、の仕事は休みなのでわざと寝過ごしたのだが、暑過ぎる部屋に我慢出来ず飛び起きた。
寝ていただけなのに汗だくになって起き、何もしていないのに疲れていた。
外の風に当たろうと部屋を這い出て廊下に出たのだが、風はなく陽が燦々と照らしてくれる。
は力尽きるように廊下に倒れ込んだ。
「もうダメだー・・・暑過ぎる」
「あら、様!そんな格好ではしたないですよ」
身体を少しでも冷やそうと板場である廊下に寝転がっていたは桶を持っていた女中を見上げて朝の挨拶をする。
最近の周りの世話をしてくれている女中がプンスカ怒っている。
確かに廊下に貼り付くのははしたないかとも反省して身体を起こし、桶を受け取る。
冷たい水で顔を洗いスッキリしたのか、空になった桶を見て名案が浮かんだ。
***
幸村は急いでいた。
手には冷えた水菓子を持っての元に向う。
『甲斐の夏は奥州に慣れていたにはちとキツイやもしれんの』
先程まで一緒に談笑していた信玄がそう言って、幸村は初めてその事に気が付いたのだった。
促されるままに信玄から受け取った水菓子を抱えて、の部屋へと向っていた。
最近、がどことなく辛そうだったのは暑さゆえかと幸村が廊下の角を曲がった時だった。
の部屋の前に着物の裾を膝上までたくし上げ、足をたらいに浸している女がいて幸村はいかんともしがたい悲鳴を上げた。
「どういたしました幸村さん!!」
「!!殿、か?」
「?はい」
細く白い足を剥き出し、長い髪を風に遊ばせていた女の声を聞いて幸村は面食らった。
振り返った人物はで、飛び出そうとしていた「破廉恥」という叫び声は喉の奥に逆流した。
いつも袴をキチリと着こなし、綺麗に髪を結っているが着流しのままで髪を下ろしているのは珍しい。
突然の事で驚いた幸村は煩く跳ねる心臓を落ち着けるように「殿は男」と何度も自分に言い聞かせたが、
目の前でチラつく白い素足や長い黒髪が汗で濡れた頬に張り付いているのが気になって心臓は脈打つばかりだった。
現状を何とかせねばと幸村は目を逸らして叫ぶ。
「あ、あの、殿!その、足を仕舞って下され!」
「あ、これはお見苦しい物を・・・」
いそいそとたらいから足を引き上げるに幸村は息を吐き、男であるに動揺する必要などないのにと自分を諫めた。
ふと視線をに戻した時、が濡れた足を拭うために裾が濡れぬようさらにたくし上げたのが見え幸村は再び絶叫した。
「
なりませぬ!なりませぬ!仕舞わないで下され!」
「はい?!」
「なーにやってんの、お二人さん」
「さ、佐助ぇ!!」
幸村はどうしていいか分からず、天の助けとばかりに真っ赤な顔で佐助に縋り付いた。
幸村の様子にまるで自分が苛めていたように思えは眉を顰めた。
一方、佐助はチラリとの方に視線をやって状況を瞬時に理解した。
こりゃ、旦那には刺激が強すぎるね。
「はいはい。旦那が抱えてるのね、大将からの差し入れ」
「あ、桃だ」
嬉しそうに頬を緩ませたの陰で佐助が幸村にしっかりしてよ、とつつく。
ようやくいつもの感じを取り戻してきた幸村を見て佐助は溜め息を吐く。
落ち着いた所でに視線を戻した二人はピシリと固まった。
そこには口に髪紐を銜え、髪を結おうと髪を掻き上げているがいた。
白い首筋が露わになり、後れ毛がどこか艶かしくゴクリと喉を鳴らしたのは一体どちらか。
「扇情的なうなじじゃのう」
「「 お館様! 」」
心情を読み取られたような言葉を背後から投げ掛けられ、二人は身体を跳ねさせた。
は髪を結い終わるとすぐに桃のお礼を述べた。
ニコニコと笑っている信玄とは裏腹に、残された男二人は複雑な表情をしていた。
それに気付いたは困ったように信玄を見上げた。
「どうしたんでしょう、あの二人は。先程からどこかおかしくて」
「に見惚れておったのじゃよ」
「は・・・?」
ポカンとしたに信玄はおかしそうに笑い声を上げる。
意味は分からぬ事もないがどうにもその言葉が自分と結び付かず、窺うように二人を見れば真っ赤な顔をした幸村が吼えた。
「
そ、某に衆道の趣味はござらん!!」
「衆道?!」
「ま、まさかお館様!殿をそのような道に連れ込もうなどと・・・!」
「あの、」
「わしを倒さねばはやらぬぞ、幸村!」
「ちょっとちょっと、旦那をその手の事でからかわないでって言ったでしょー」
「何たる事!!殿にそのような事をさせられませぬ!!」
「え、ちょっと」
「
なれば某がその役目果たして見せますぞ!!殿のため、某、一世一代、一肌脱いで見せましょう!!」
「うわ!旦那、ちょっとホントに脱がないでよ!てか泣くぐらい嫌なら引き受けるとか言わないの!」
「わっはっはっはっは!!」
暴走しだしたこの人達は止められない。
これまでの生活で嫌と言うほどそれを実感してきたは止めるのを諦めた。
それにしても不愉快である。
女なのに衆道と言われるなんて!!!
楽しそうな信玄と幸村を放置する事を選んだ佐助がの隣に座る。
「失礼にも程があるよね。私は女!」
「
じゃないんでしょー?はいはい」
なぜかまたも信じてくれない佐助には眉根を寄せて、転がっていた桃に齧り付いた。
気分は最悪だったが桃は瑞々しくとても甘かった。
「おお。男らしい食いっぷりで」
だからなんで・・・?!
* ひとやすみ *
・月兎サマ・・・、申し訳ない!
女らしさを求めたら、おまけに男らしさまで付いて来ちゃいました・・・っ!!!
いろいろと危うい事になっていますが、これがキリリクということでいいのでしょうか・・・?(え
もんもんと幸村が悩む姿は見ててさぞかし面白いのだろうな。何て言うか夏バカ万歳な話。笑
ちなみにここでは衆道=男色ということです。笑 (09/07/20)