ドリーム小説

「うっわー!やっぱ周りに灯りのない時代は違うなー」




満天の星が頭上を埋め尽くしているのをは歓声を上げて見上げる。

暗くなってからこっそり屋敷を抜け出して、屋根に上れば輝く星が出迎えてくれた。

ゴロンと横になれば視界に飛び込むその景色は、この世界に来て初めて見た物と変わらないはずなのに

どこか優しい色に見えた。

が闇夜を遮る星の川を辿るように視線を走らせれば、遠くに赤い星が光っている。

驚いて飛び起きれば、それが星ではないことに気が付く。




「お館様・・・?」




深夜では思った以上に声が通り、道場の天辺に立つ信玄と目が合う。

目を瞬かせるに口を吊り上げた信玄が手招きをすれば、行かざるを得ない。

疑問を掲げたまま、身軽に屋根を走る。




「このような場所で会うとは奇遇よの、

「はい。あの、お館様はここで何を・・・?」

「今宵は空が一際美しいのでな」




キラキラと人工ではない光があちこちで瞬くのを二人は見上げた。

心地よい静寂の中、しばらくの間二人はただ黙って星を目に焼き付ける。




「天の川とはよく言ったものよ。あのように美しい川が空にあるとは」

「ふふ。天の川は無数の星が集まって出来たものなんですよ」




目を見開く信玄には内緒だと呟けば、信玄は感歎の声を上げて再び空を見上げた。

天の川が星の集まりだと証明されたのは、歴史上もう少し後のこと。

あのガリレオ=ガリレイが発見するのだが、その彼と同時代を生きているはずだと思うと何だかおかしかった。




「あれが星とは面白いのう。謙信に言うてあやつの驚く顔が見てみたいわ」




肩を揺らして笑う信玄に今度はが目を瞬く。

信玄にしてみたら突拍子も無い話であったはずなのに、の話を鵜呑みにしたのが不思議でならなかった。




「今の話、信じるんですか?」

が言うのじゃ。嘘ではあるまい」




それにその方が空想的で甘美ではないか、と茶目っ気たっぷりに目を細めた信玄には吹き出した。

同意しながら笑い続けるの心に温かい何かが降り積もっていく。

目尻の涙を拭いながらは楽しげに話を続けた。




「お館様と謙信公はまるで彦星と織姫ですね」

「・・・それはどっちがどっちじゃ?」




嫌そうに顔を歪めた信玄にクスクスと笑いながらははぐらかす。

が言いたかったのは見た目の事ではなかったからだ。

見た目で言えば、一目瞭然である事は間違いないが。




「お二人は再び互いに会い見えることを心待ちにしているじゃないですか。

 それで言うなら、天の川は川中島ですかね」




正確には千曲川と犀川であるのだろうが、二人が会う場所と言う意味では川中島が妥当だろう。

同意を求めるようにが首を傾げれば、信玄は参ったとばかりに苦笑を返した。




「なるほどのう。そう言う意味ならわしらは確かに相思相愛じゃな」

「ふふふ。あんまり大きな声でそんな事を言えばかすが姉さんに怒られますよ?」

「それは・・・怖いの」




どちらでもなく二人は吹き出して、闇夜に明るい笑い声が響いた。

ガシガシと信玄の大きな手に撫でられ、髪が乱れてもの顔から笑顔が消える事はなかった。

笑い疲れたように二人して屋根にパタリと仰向けになって空を見上げる。




「キレイですねー」

「綺麗じゃのう」

「「 あ 」」




二人は同時に驚きの声を上げた。

一瞬の出来事だったが、長く空の彼方に消えていったそれには嬉しそうに言う。




「今、流れ星見えましたよね!願い事しましたか?」




飛び起きて子供のようにはしゃぐに信玄は目を細めて頷いた。

も同じように頷いて、何を願ったのかと身体を起こした信玄に尋ねる。




「今日も明日も、が、武田の者が、甲斐の民が平和に暮らせるようにとな」




その答えには思わずピシリと固まる。

こういう所に信玄の懐の深さを感じるのだ。

武田信玄という人の大きさに触れては、いつもその深い器を前には目が眩んでしまう。

は悔しくも、どこか自慢に思えるその人の目を真っ直ぐと見上げる。




「お館様の願いは星に祈るまでもないですよ。その願い、必ず私達が掴み取ってみせますから」

「それは心強い」




強い眼差しを向けたに信玄は薄く笑って、頭を撫でた。

は軽く目を瞑って星に祈る。

どうか天下の安寧をこの人にください。

の頭を行ったり来たりする大きな手が願いを全て溢さず掴み取れるように。


* ひとやすみ *
   ・拍手ありがとうございます!!七夕企画です。
    やっぱりやっぱり拍手お礼にBSR。笑
    近い未来、お館様とヒロインがいい関係を築けているように願いを込めて(拍手お礼作品)(09/07/07)